EP7:夜のコンビニ
ファミレスでの夕食が終わると、真玄たちは、真玄のアルバイト先であるコンビニに向かった。
時刻は午後六時を少し過ぎた頃。まだまだ明るい時間帯だが、少しだけ、風が冷たく感じる。
真玄と寒太をはじめ、太地、麻衣、知美の五人は、相変わらず静かな道路の歩道を、ぽつぽつと歩いた。
「白崎、店はすべて施錠してあるんだよな」
歩きながら、途中で寒太が真玄に尋ねた。
「ああ。マニュアル通り、戸締り箇所を確認しながらやったから」
「つまり、現場は保存されていると考えていいんだな」
「もちろん、そういうことになるかな」
徐々に暗くなっていく周囲に対抗するように、街灯が一つまた一つと点灯し、あたりを照らしていく。
もうすぐ真玄がアルバイトに行っているコンビニに着くのだが、そのコンビニが見えたあたりで真玄たちは妙なことに気が付いた。
「あれ、電気が点いてる……」
「白崎、戸締りをしたんじゃなかったのか?」
「おかしいな、電気を消して、鍵もすべて掛けたはずなんだけど」
真玄はすぐさま店の近くまで走っていき、自動ドアの前に立った。その透明ガラスから中の様子を見ようとしたが、その前に入店音とともに、自動ドアが開いた。
「……? 自動ドアのセンサーも切っていたはずなのに……」
そんな疑問も、真玄の目の前にはさらに衝撃的な光景が映った瞬間に消え去った。
「遺体が……消えてる……」
真玄が尻もちをついて驚いている様子を見て、寒太たちは真玄のもとへ走って向かった。
寒太と太地は店内に入ってあたりを見回すが、普通のコンビニと変わらない様子に、二人とも首をかしげていた。
「なんだ、人間の爆発どころか、何も起こってないじゃないか」
「マクロ君、本当にここで人間が爆発したの?」
寒太や太地は真玄に声を掛けながら、店内の奥へと入っていく。後から来た麻衣も中に入り、「別に、何もないじゃん」と店内を見回した。
しかし、最後に来た知美は、自動ドアの前に立って中を見るなり、急に顔が青ざめた。
「うそ……どうして?」
中を見ていた寒太は、入り口で知美までも様子がおかしいことが気になり、一度入口まで戻った。
「二人ともそんな表情をするとは、とても嘘だとは思えないが……。現に人間が爆発した跡がないし、どういうことだ?」
「ああ、死体ならもう片付けたよ」
寒太が真玄に声を掛けていると、不意に外からハスキーボイスが聞こえた。
座り込んでいる真玄が後ろを振り向くと、少し離れたところから青いジャケットを着た少年がこちらにゆっくりと近づいてくる姿が見えた。
「お前はたしか……アマミヤ、とか言ったな。一体どういうことだ?」
言葉を失っている真玄たちに代わり、寒太はアマミヤに近寄って言った。アマミヤは、店の中に入り、自動ドア近くまで来ていた寒太の前で立ち止った。
「何って、あんな邪魔なのがあったら店が営業できないでしょ。もちろん掃除をして、商品も入れ替えたよ。ほら、コンビニは二十四時間営業が基本だから」
「そういう問題ではなくてだな。僕たちはその、人間が爆発したという事実を知りたくてここに来たのだ。これじゃあ本当に人間が爆発したといわれても、何もわからないじゃないか」
両手を広げながら、寒太は少し興奮気味に言う。それを、太地が必死に抑えようとする。
「や、やめてよ。そんな、死体なんて、見る必要ないよ」
「しかし、それがなければ検証もできんだろう。僕はそれを見に来たんだが」
「で、でも……」
寒太と太地が言い争っていると、アマミヤはあくびをしながらカウンターの天井を指さした。
「ふあぁ……ああ、そういうことならあれ」
アマミヤが指さした方向を、真玄や寒太たちが見ると、入り口に向かって防犯カメラ向けられていた。
「あれに映ってるんじゃないかな、その時のこと。もっとも、戸締りで電源を切ってたらわからないけど」
アマミヤがそう言うと、寒太は監視カメラの周りをよく見てみた。今は作動しているようで、ジーッという音がする。
「白崎、これの映像は見れるか?」
寒太に言われ、真玄は立ち上がってカウンターに向かった。
「戸締りの時でも、防犯上監視カメラは切ってないから、今までの画像は映ってるはず」
「よし、さっそく見てみよう」
そう言うと、寒太は真玄の手を引いてカウンターから事務所へと向かった。
「え、ちょっと」
「白崎、お前が来ないと話にならないだろ」
強引に真玄を引っ張り込む寒太、それを見て、「待ってよ」と太地も後を追った。
その様子をみてあきれながら、麻衣は入り口でおろおろしている知美を見て、近くで声を掛けた。
「トモミちゃんはどうするん? 私と一緒に本でも読みながら待ってる?」
麻衣がそういうと、知美は首を振った。
「いえ、私も行きます!」
「そう? トモミちゃんが行くなら私も行くわ」
結局麻衣も、知美と一緒に、事務所へ向かうことになった。
真玄が事務所の明かりをつけると、いまだにVHS形式のビデオテープを巻き戻し、セットした。
「このビデオは、どれくらい録画出来るんだ?」
「三倍録画だから、ざっと六時間くらい。店長がケチだから。おかげで、画質はよくないよ」
真玄が寒太にそう言いながら再生ボタンを押すと、誰もいない店内が映し出された。
「ちょうどビデオテープを入れ替えたところから始まるから、しばらくは何も起こらないかな」
ビデオを再生して数分後に真玄が映る。しばらくは関係するようなことが映っていないという理由で、真玄はビデオを早送りした。
真玄が掃除や商品のチェックをしている様子の後、カウンターに戻った頃に、入り口から女性客が入ってきた。知美である。
しばらくは真玄と知美が会話している様子が映し出される。
「そろそろ……かな」
真玄が早送りから通常の再生に戻して数秒後、例の強盗が入り込んできた場面が映った。
強盗が知美を人質にとり、ナイフで脅して真玄に現金を出すよう迫る。しかし、レジに現金がないことを知らせると、強盗が知美を突き飛ばし、今度は真玄にナイフを向けた。
「そもそも、こんな世界で強盗しようとするこいつは、何を考えてるかわからんな」
途中で寒太が口を挟んでいると、場面は店の奥からロボットが出てくるところになった。
「ん、何あの機械? マクロ君、この店にはあんなのがあるの?」
「いや、俺も初めて知ったんだけど……」
白黒でわかりづらいが、やってきたロボットが腹部を開くと、そこから紙の束が現れた。
「あれが全部万札だとしたら、全部で一千万円か。たしかに、強盗なんぞに渡す額じゃないな」
「え、あれ全部本物? BL同人誌何冊買えるかなぁ」
寒太と麻衣がそんなことを言っている間に、強盗はビニール袋に現金を詰め込み、コンビニの入口に向かった。
そのまま出て行くかと思われたが、強盗は入り口の前で立ち止まる。
「あれ、何でこの強盗、このまま逃げないの?」
「さあな。あまりの大金に驚いてるんじゃないのか? 狂った奴の考えることはわからん」
「へぇ、そんなものなの?」
太地と寒太が言い合っていると、立ち止っていた強盗が振り向いて真玄たちの方へ向かっているところになった。
「ん、なんだ、あの強盗どうしたんだ?」
「ああ、ここからこいつの顔が赤くなって、顔が熱いだの助けてくれだの言い始めたんだ」
「たしかに自分の顔に手を触れようとしてすぐさま手を放しているようだが……って、おい、それは……」
寒太が言っている間に、真玄が知美を連れて店の奥へ逃げ、強盗がよたよたと歩いて追いかけている場面になった。真玄たちは死角になる位置に移動してしまったが、強盗はちょうどカウンター付近でスピードを緩めたため、その様子の映像がしっかりと残っている。
スピードを緩めた強盗は、その場で倒れこみしばらくすると、
「うわ……」
「きゃぁっ!」
頭が吹っ飛び、血が散乱する様子が映し出された。




