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EP6:爆発報告

 夕方も近いというのに、気温は一向に下がる気配がない。

 真昼と違い、アスファルトから発せられる熱は幾分かマシになったが、相変わらず流れ続ける汗がうっとうしい。

 両脇にアパートやスーパー、飲食店が並ぶ国道の静けさもいつも通り。唯一変わったことと言えば、全然車を見かけなかった国道に、一台バスが通ったことだ。

 窓から様子を覗いても、どうやら上客はいないらしい。あのバスも、自動運転で走っているのだろうか。


 そんなことを思いながら、真玄は自転車を押して、知美と一緒に歩道を歩く。真玄の働くコンビニは、ファミレスとは逆方向のため、少し距離がある。

 道中、特に話すこともなく、二人は黙々と足を進めていた。時々、あふれてくる汗を、ハンカチや手の甲でぬぐう。


「あの、そういえば、非リア充同盟って、どんなことをしているんですか?」


 沈黙に耐えられなかったのか、知美は真玄に問いかけた。


「多分説明があると思うけど、言ってみれば、正義の味方ごっこ、かな」


「正義の味方、ですか」


「人間が次々と殺されるのを阻止するために戦っている、みたいな。もっとも、相手の正体も何もつかめていない状態だけど」


「だから、今はいろいろ調べている状態、なのですか?」


「そんなところかな」


 自転車を押して歩く真玄と、その後ろをついていく知美。その先にある太陽は、徐々に眩しさを失っていくように見えた。



 しばらくして、真玄たちは集合場所であるファミレスに到着した。時刻は午後十七時前。集合時間よりは少し早い。

 真玄と知美は、ひとまず中に入って待つことにした。ドリンクバーで時間をつぶすために、適当につまめるを注文する。

 注文していた料理が出てきた頃、入店音が鳴り響いた。真玄が入り口を見ると、桜宮太地が店内を見回していた。


「やあ、太地。早かったな」


「何言ってるんだ。かわいい子と聞けばすぐに飛んでいく。それが出会いの心理なのだ」


「相変わらずだな、まったく」


 真玄と太地がそんなやり取りをしていると、芹井寒太と十条麻衣もやってきた。


「桜宮、今日は出会いがどうとか、そういうので集まったんじゃないんだぞ」


「まったく、女の子なら、可憐な美少女マイちゃんがいるでしょ?」


 入店直後から入口で話が盛り上がる四人の様子を、知美は席からそっと見守っていた。それに気が付いた真玄はすぐさま残りのメンバーを席に移動させた。



 六人掛けのテーブル席に座り、それぞれ適当なメニューを頼み、ドリンクバーで飲み物を確保すると、真玄がお互いの紹介を始めた。


「えっと、コンビニで出会った風野知美さん。で、こっちの眼鏡男が芹井寒太、変な服なのが桜宮太地、最後に、なんかギャルっぽい女が十条麻衣だ」


「おい、白崎。もっとマシな紹介はできないのか?」


 寒太が不満そうな顔でふてくされると、太地と麻衣は思わず笑った。


「確かにひどいよマクロ君、それなら僕はせめて、出会いの伝道師って呼ばれたかったね」


「で、出会いの伝道師、ですか?」


 身を乗り出して話す太地に、知美は少し引き気味になっていた。


「そうだよ、君みたいなかわいい子に出会うために、僕は生まれたんだ」


「え、あ、あの……」


 そういって太地がテーブル越しに知美の肩をつかもうとすると、知美は思わず隣にいた真玄の方に逃げた。


「た、太地、やめてやれ。知美は男に触れられるのが嫌なんだ」


「え、そうなのか? それは悪かったな」


 真玄が制止すると、太地は素直に引き下がった。


「大体、初めて会った女の子にいきなり触ろうなんて、タイチの行動に引くわぁ」


「うぅ、マイちゃんがいじめるぅ」


 麻衣の一言に太地がいじけると、麻衣の肘鉄が太地の腹に直撃した。


「気持ち悪い声出すなタイチ! ……にしても、トモミちゃんだっけ? マクロンにはしっかりしがみついているようだけど、なんでかなぁ?」


「え?」


 知美は、自分がしがみついている真玄の腕をみて、慌てて真玄から離れた。


「あ、あの、真玄先輩はその、特別ですから……」


「そんなことより白崎、実際に人間が爆発した現場に立ち会ったそうだが」


 何とも言えない茶番に、寒太が口をはさんだ。


「ああ、いきな強盗が襲って来て脅されたんだけど、店の警備のシステムか何かで準備していたロボットがお金を渡すと、しばらくしたら爆発して……」


 そう言いながら、真玄はスマートフォンを取り出し、アルバムを開いた。


「かなりグロい絵だけど、店の様子を撮ってきた」


 スマートフォンを寒太に渡すと、寒太はそれを見て、「ひどいな」とつぶやいた。太地も横から覗いたが、「うわ、これはすごいな」と声を上げた。


「え、何々? 何が映ってるの?」


「いや、あの、マイちゃんは見ない方が……」


「えー、私だって見たいんだけどぉ」


 太地が止めるのも聞かず、麻衣は太地の体を押しのけてスマートフォンの画面を見た。

 しかし、最初は好奇心に満ちていた麻衣の顔は、みるみるうちに青ざめていき、ついに画面から顔を背けて口を押えた。


「十条、気分が悪いならトイレに行った方がいいぞ。そもそも、食事中に見るような写真じゃないからな」


 寒太はそう言ったが、麻衣は首を横に振り、テーブルに置いてあった水を一口飲んだ。

 何枚かの写真を見終わると、寒太はスマートフォンを真玄に手渡す。


「しかし、写真だけじゃわかりにくいな。現場に行きたいのだが、大丈夫か?」


「ええ、カンタ、あんなところに行くのぉ? 正気じゃないわよ」


 落ち着きを取り戻した麻衣は、だるそうな声で寒太につぶやいた。ちょうど料理がいくつか箱から出てきたので、麻衣はそれぞれ注文したメニューをテーブルに置いた。


「別について来なくてもいいぞ。女が見るようなところじゃないからな。で、白崎、どうなんだ、中には入れるか?」


「鍵は持ってるから、いつでも入れるよ。でも、勝手に関係者以外を入れるのは……」


「事務所に入る訳じゃないから、別に構わんだろう。客が店に入るのは普通だ」


「そんなものなのかな」


「そんなものだ。とりあえず、食事が済んだら、行きたい奴だけで現場に向かってみよう。何かわかるかもしれない」


 そう言うと、寒太は運ばれてきたビーフステーキに手を付けた。太地もとんかつ定食に手を付けたが、麻衣はさっきの写真のせいか、オムライスを注文していたが手が進んでいない。


「知美は、今日は帰った方がいいかな。また戻るのは大変だろうし、嫌なことしかなかったから」


 真玄がフライドポテトをつまみながら言うと、知美は首を横に振った。


「真玄先輩が行くなら、私も行きます。あのことは、大丈夫ですから」


 それを聞いて、麻衣はぴくりと反応した。


「と、トモミちゃんが行くなら仕方ないわね、私も一緒に行ってあげるわよ。タイチ、あんたも来るんでしょ?」


「え、ぼ、僕も?」


「当たり前でしょ。女二人があんなグロいところに行くんだから、あんたも一緒についてくるのよ」


 そういうと、麻衣はすごい勢いでオムライスを食べ始めた。


「やれやれ、騒がしい連中だ」


 その様子を見ながら、寒太は人知れずため息をついていた。

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