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7/7

証明

 放置していたカカシが、どことなく寂しそうな空気を醸し出しながら消えていったのが、もうずいぶん前のことになったころ、アンジェリカの説明は終了した。

 アンジェリカの説明により、古代魔法文明のことを多少なりとも理解したカーラは、今更ながらに驚いていた。

 アンジェリカの話をまとめて噛み砕いて説明すると、古代魔法文明とは、【平行世界の地球】ではないかと仮説が生まれたからだ。


 ――曰く、60メータを越える巨大建造物が大量にあった。

 ――曰く、目に見えぬ不思議な動力(電気)で昇降する機械があった。

 ――曰く、空飛ぶ巨大な鉄の鳥が、大勢の人間を一気に目的地に運んでいた。


 などなど、である。


 上の話だけを聞くと現代の地球と何ら変わらない気もするが、各所に魔法技術が使われているそうで、例えば、

 60メータを越える巨大建造物には中の空間を2~3倍にする空間拡張魔法がかけられていた。 とか、電気を発生させていたのは魔石だったとか。

 上げればキリがないほど現代科学と魔法文明の融合した世界だったようだ。


 アンジェリカの説明を聞いたカーラは、『そんな世界だから、大魔導師の名前がどこかよく知った響きだったのか』などと割とどうでもいいことを考えていた。


「では、早く貴方の力とやらを見せていただけるかしら?」


 説明が終わったので、早く力を見せろとアンジェリカは言う。 それに対してカーラはゆっくりとアンジェリカに問いかけた。


「さっき出てきたのが一番強いカカシなの?」

「そのとおりですわ。 耐久値が桁外れに高く、今まで一度も破壊できたものは居ないとされている強固なカカシですわ」


 カーラの問いかけになぜか自慢そうに答えるアンジェリカ。 あのカカシは確かに強固で、歴代の騎士団長や、有名な冒険者たちが幾度も挑戦したが、少し切り込みを入れることしかできなかった一品である。 古代の魔法技術の高さを証明するよき材料である。

 しかし、カーラにはどうしてもあれが一番強いとは思えなかったのだった。 どんなに考えを巡らせても人間の耐久値より高いようには見えなかったのである。

 そこで、ひとつ提案を出した。


「じゃあ、先にアンジェリカが攻撃して、どれほどの耐久値か見せてくれない?」



----



 カーラの出した提案は、渋々ながらアンジェリカに認められた。


「行きますわよ」


 グっとメイスを構えるアンジェリカ。 この提案を受けたのは、彼女自身、自分の今の力量を試す良い機会であったのと、どちらかといえば、前衛職である自分の力で破壊されないカカシを見せれば、多少はカーラが考え直すかもと思ったからであった。


 脚に力を入れて踏み出す。 軽く地面が砂埃を上げる程には強く踏み出され、アンジェリカの体は滑るように前に進む。 前に進むと同時にひねられた体が強烈に力を溜め込んでいるのが目に見えてわかった。

 見かけによらずアンジェリカはパワーファイターのようだ。

 カカシに肉薄するアンジェリカは、突進の勢いそのままに振り上げられたメイスをカカシに向けて振り下ろした。


 --ガズッ!!!


 女性の細腕から繰り出されたそれとは思えないほど、鈍い音があたりに響く。


「こんなものですのね……」


 どこか落胆したように聞こえるアンジェリカの声。 カカシにほんの数ミリめり込んだだけのメイスを見て、自分の力をそれなりに理解したのである。 自分の力は決して弱くはないと思っていたが、カカシにたった数ミリしか打撃をめり込ませることができなかったことは意外だった。 最低でも3センチは攻撃が通ると思っていたから、余計にきつい。


「カカシの耐久力はこんなにも高いんですのよ」


 カカシからメイスを取り、カーラの方を振り返りながら声をかける。 その時にはカカシは傷一つない綺麗な状態になっていた。


「どうです? なかなかに強いでしょう?」

「う~ん」


 悩むカーラをみて、アンジェリカは内心ホッとしていた。 悩むということはなにかしらカーラの想像を超えたことが起こっているにほかならないからだ。

 しかし、彼女の安堵は別の形で崩されることになる。



----



「今のは力がのっていなかったからですよね?」

「え?」


 カーラの問いかけの意味が一瞬わからなかったアンジェリカ。 しかし、理解するとともに顔が怒りで真っ赤になっていく。


「……侮辱ですの?」


 低く響く声は、原初の恐怖を呼び覚まさせる程であったが、カーラは平然と答えた。


「いえ? なぜ侮辱になるのですか?」

「当たり前でしょう! 私は全力でメイスを振りましたわ! それを力を入れていなかったからなどと!!!」


 その言葉でカーラは理解した。


「あぁ、違います。 全力でメイスは振っていたのでしょうが、力に無駄ができすぎていて100の力を100伝えきれていないということです」

「侮辱i……え?」

「メイスは叩きつける棍棒系の発展武器です、重量が重いのが特徴で、重量にものを言わせて叩き壊す攻撃に用います。 僧侶の方が装備するメイスには宗教的な意味合いを持たせていることも多く、重量がさほどないこともありますが、貴方の使っているのはどうみても戦場用で、金属製の甲冑等をも破壊することを目的に作られたものでしょう。

 力をうまく伝えずとも、十分な威力を発揮できますが、効率良く威力を上げるには、いかんせん力をうまくのせないといけないのですよ。

 そこで先ほどの貴方の攻撃を見てみますと、攻撃前の踏み込みが若干弱いです。 最後の一歩はいわば前進のエネルギーを急停止させ、メイスへ伝達する運動へ変化させるための、大事な工程です。 ここが弱ければ、前進のエネルギーと重量による慣性の働きで体が前に流れてしまい、力が乗り切りませんし、強ければせっかくの前進のエネルギーをロスしてしまいます。 後、体重の半割増ぐらいの踏み込みができれば完璧かと思いますよ?

 さらには限界まで引き絞った腰の捻転が威力の伝達を弱めています。 多分、重いメイスに対抗するために編み出された構えかとは思いますが、いかんせんひねりすぎです。 ひねりは力を溜め込みますが、その分消費もしてしまうのですよ。 なので、半回転ほど弱めることをおすすめします。

 最後に、インパクトの瞬間の絞りが甘いです。 せっかくの衝撃が逃げてしまいますよ? 現に、若干ですがメイスにブレが生じていましたし。


 以上のことに注意しておけば、さらなる威力の向上もできると思いますよ?」

「あ、はい……って、ちょっとおまちなさい! 一体いつ私の攻撃力向上講座になっておりますの!?」


 カーラの解説に今更ながらにツッコむアンジェリカ。 その割には講座を聞いている間は、ちゃんと耳を傾けていたのだから強くは怒れない。 実際このあとにちゃっかり言われたことを実践し、カカシに4センチもメイスをめり込ませられるようになるのであった。 ……が、それは別のお話。



----



 アンジェリカが自身のパワーUPに成功し、喜びを隠しきれないのか、いつまでもカカシを殴り続けて早10分が経とうとしていた。 流石にカーラもそろそろいいかと思っていたので声をかける。


「ぅん、そろそろ私の力をお見せしましょう」

「……うふっ、ついに4センチまで達しましたわ。 ……はッ!? ……や、やっとその気になりましたのね。 では、その非常識の力とやらを見せていただけるかしら。 武器は何を使いますの?」


 慌てたようにまくし立てるアンジェリカの問いかけに、カーラは答えなかった。 気になったアンジェリカはカーラに再度問いかけた。


「武器は何を使いますの?」


 カーラの方を振り返りながら問いかけたその言葉は、どこかきょとんとした空気を醸し出すカーラの無表情に吸い込まれて消えていった。


「武器はいりませんよね?」

「武器はいりますわよね?」


 二人の言葉が重なる。 響きこそ似ているがまったく違う言葉を発したカーラに怪訝な目を向けるアンジェリカ。

 カーラの非常識さを知らないアンジェリカは、当然素手でカカシを殴ったりはしないだろうと思っていた。 いくら異常な強さだと本人が言っていたとしても、武器は使うだろうと。

 だから武器の選択を迫ったのだが、カーラはものの見事にそれをすかしてしまったのである。


「あ、武器はいりません。 カカシを殴り飛ばす訳ではないので」

「はい? じゃあ一体どうやって力を証明しますの?」


 武器がいらない等とのたまうカーラに、もうどこからツッコんでいいかわからなくなってきたアンジェリカは、答えを委ねた。

 アンジェリカとの話を終えたカーラはゆっくりとカカシに近づいていく。


「それは……、こうやってです」



----



――ゴリュ!!


 軽くカカシの頭部に添えられたカーラの手が、そのまま横に振られると、豆腐を握りつぶすよりも簡単に、カカシの頭部は消滅した。 一瞬、アンジェリカの目には何が起きたのかわからなかった。

 『ただ手を添えて、横に振った』といった行為に、『カカシの頭部消滅』という事実が追いつかなかったのである。

 明らかにパワーファイターでないカーラがまさか素手でカカシの頭部を破壊するなどと思っても見なかった空であった。


「とまあ、こんな感じですか? ……ってどうしました?」


 何事もなかったかのように振り向くカーラと、瞬間再生で再生することなく頭部を失ったままのカカシ。

 アンジェリカは、振り向くカーラがこの世のものとは思えなくて、『恐怖』と『畏れ』に支配されていた。 しかし、どこかでこの世のものではない美しさと相まって、神話の女神を思い出し、『憧れ』のようなものを抱いていたりもするのであった。

証明するつもりが……。


なぜこんなことに……。


あと、魔法があるのに電力を不思議がるなよとの批判は受け付けません。

理由は、電気が動力になるとは誰も考えついてはいないからです。


科学は余り発達していませんし、魔力があるのでそっちの研究に各国力を入れているので……。


では、また次話で。


7/26 ちょっと追記。

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