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徹夜明けの経営コンサルが異世界転生して、議事録一枚で滅亡寸前の王国を救った件  作者: もしものべりすと


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第十八章 決戦、兵站と情報のフレームワーク

銅の壁の光が、爆発的に、増した。


その光は、地下書庫の石の床、壁、天井を、白く、染め上げた。

俺たち七人の影が、光の中で、薄れていった。


そして。

俺たちは、光の中に、立っていた。


足元は、固体ではなかった。

だが、宙に、浮いているわけでも、ない。

何か、光そのものの上に、立っているような、感覚だった。


周囲は、銀色の虚空だった。

だが、虚空ではなかった。

よく見ると、無数のピラミッド構造の図形が、銀色の光の中に、浮かんでいた。

それぞれが、別の世界の、別の議事録だった。


「これは……」


ローラン伯爵が唸った。


「世界の核、ですね」


俺は低く、答えた。


虚空の遠くから、影が、一つ、近づいてきた。

それは、人の形を、していた。

だが、人ではなかった。

光と、影と、銀色の文字、で、できた、人の形。


「リシュ・アステリス」


その存在が低く、囁いた。

声はたぶん、俺の頭の中に、直接、響いていた。


「我は、初代アステリス公爵である」


俺は深く頭を下げた。

ベルントが横で、息を止めた。

彼の祖先の祖先が、目の前に、いた。


「御祖父様」

「ベルント。久しいな」


初代様の影が、ベルントに微かに、頷いた。

ベルントは深く頭を下げて、両手で、目を覆った。

彼は声を、出さずに、震えていた。


「リシュ。お前の議事録を見せてもらった」


初代様の影が、俺に向き直った。


「優れたものである。我が、百年前、果たせなかった、修復が、お前なら、できる」

「光栄でございます」

「だが、一つ、確かめておく」

「はい」

「お前は、これを、誰のために、やるのか」


虚空が、しんと、静まった。


俺はしばし考えた。


それから答えた。


「自分のためです」


虚空がふっと、揺れた。


「自分のため、と申すか」

「はい」

「他人を、救うのは、二の次か」

「いえ、同時です。自分のために、他人を、救います」


初代様の影が長らく、沈黙した。

それから、ふっと笑った。

声を出さない、優しい笑い方だった。


「正解である」


初代様の影が低く、答えた。


「我は、百年前、王国のためにだけ、修復を、試みた。その『偏り』が、世界の根源に、ひびを入れた」

「ふむ」

「人は、自分のために、生きてこそ、初めて、他人のために、何かを、為せる。我は、それを、忘れておった」


俺は深く頷いた。


「ザイラス殿」


初代様の影が、ザイラスに向き直った。


「百年、貴公の領土が、混沌を、引き受けてくれた。心より、お詫び申し上げる」


ザイラスは首を横に、振った。


「我が、為すべきことを、為したのみである」


初代様の影が深く頷いた。


「リシュ、いよいよ、修復に、入る」

「はい」

「我のピラミッドの上に、お前のピラミッドを、重ねるのだ」


俺はまばたきを二回した。


「上に、重ねる」

「然り。世界は、二人で、整える」


俺は深く頷いた。


虚空の中央に、初代様のピラミッドが、浮かび上がった。

百年前、彼が書いた、最後の議事録。

頂点に「王国の繁栄」とだけ、書かれていた。

根拠の柱、すべてが、ひび割れていた。


俺はその上に、自分の手で書いた、新しいピラミッドを、重ねるイメージを念じた。

頂点に「世界の修復、ただし、私自身も、含めて」。

根拠の柱、一本目「人間の世界の整備」。

二本目「魔王国の救済」。

三本目「世界そのものの再構築」。

補強事実に、七人の名前と、無数の領民、村長、兵士、商人たちの名前。


イメージが、銀色の文字となって、初代様のピラミッドの上に、重なっていった。


「リシュ様!」


エマが叫んだ。


「写本帳の、最初のページ!」


俺ははっと、した。

エマが写本帳の、最初のページを開いた。

そこには、半年前、彼女が、自分で、清書してくれた、領地再建の最初のピラミッドが、書かれていた。

そのピラミッドが、写本帳の上で、淡く、光っていた。


「これも、世界に、繋ぎますか」


エマが震える声で、聞いた。


「ああ、頼む」


エマが写本帳を、虚空に、掲げた。

ピラミッドが、光と、共に、初代様のピラミッドの上に、重なった。


ベルントが自分の懐から、台帳の写しを取り出した。

ナタリアがKPIシートを、剣の柄の下から、引き出した。

ドリアンが冒険者ギルドの組織図を、ポケットから、取り出した。

マリエル王女が白い薔薇を、一輪、虚空に、差し出した。

ローラン伯爵が王宮財政の改革案を丁寧に、持ち上げた。

ザイラスが自分の魔王国の、整然と整えられた領土の地図を、虚空に、広げた。


すべてが、初代様のピラミッドの上に、重なっていった。


「これが、世界を、整える形である」


初代様の影が深く頷いた。

そして、彼は淡く、笑った。


「リシュ、最後の一押しは、お前である」


俺は頷いた。

そして、銀色の虚空の中央で、最後の、ピラミッドを、両手で、押し上げた。



虚空が激しく、振動した。


無数のピラミッド型の図形が、銀色の光の中で、回転し、整列し、組み合わさっていった。

それは、巨大な世界の地図のようでもあり、宇宙の地図のようでもあった。


俺の周りで、七人の仲間と、初代様の影が、輪を、作っていた。

皆、目を閉じて深く息を、整えていた。

俺たち全員の議事録が、世界の根源の、新しい骨組みに、なっていく感覚があった。


「リシュ様」


エマの声が聞こえた。


「世界の根源が、修復され始めております」


俺は目を開いた。

虚空の遠方で、無数の世界の、別の議事録たちが、新しい光を、放ち始めていた。

それは、別の世界の、別の魔王国の、別の領地、別の街、別の人々の、議事録だった。

俺たちのピラミッドが、それらすべてを、繋ぎ直していった。


「これが、フレームワークですか」


エマが低く、囁いた。


「ああ」


俺は頷いた。


フレームワークというのは、世界を、整える、骨組みだ。

コンサル業界では、SWOT、4P、PEST、PPMなど、無数のフレームワークがある。

それらはすべて、世界の複雑さを、シンプルな、形に、整えるための、道具だった。

そして、その道具はたぶん、現代日本でも、この異世界でも、同じ役割を、果たしている。


世界はたぶん、フレームワークで、できている。


俺はそれをようやく、理解した。


虚空の中央で、初代様の影が徐々に、薄くなり始めた。


「リシュ」

「はい」

「我は、これで、消える」

「御祖父様」

「我の役目は、お前に、世界を、託すことだった。それを、果たした」

「はい」

「お前は、これから、元の世界に、戻る」

「戻る、と申されますと」

「お前は、本来、この世界の人間ではない。お前の魂は、別の世界から、ここに、招かれた。世界の修復が、終われば、お前は、元の世界に、戻る」


俺は深く頷いた。


「リシュ、戻った後の、お前の人生は、お前自身のものである」

「は、はい」

「他人のためにではなく、自分のために、生きるのだ」

「はい」

「では」


初代様の影が、銀色の光の中でゆっくり、消えていった。


虚空の振動が徐々に、収まっていった。

無数のピラミッド型の図形が、整然と、整列を、完了した。

銀色の光が、淡い、青に、変わった。

そして、青い光が徐々に、薄れていった。


俺たちは、気がつくと、地下書庫の、銅の壁の前に、戻っていた。


銅の壁の表面の、半年前の俺の議事録は、今は、白い光を、放っていた。

壁の表面がわずかに、波打ったかと思うと、白い光は徐々に、収まり、銅の壁はまた、ただの銅の壁に戻った。


「リシュ殿」


ザイラスが低く、呟いた。


「我が領土の、混沌の湧き出しが止まった」

「と、申しますと」

「我が背中の、傷が消えた」


ザイラスは自分の背中を見せた。

そこには長らく、混沌を受け止めていた証拠の、巨大な黒い裂け目があった、はずだった。

だが、いま、彼の背中は、滑らかな、黒灰色の肌に、戻っていた。


「これは……」


ナタリアが息を呑んだ。


ザイラスはふっと笑った。

それから、両膝を、地下書庫の、石の床に、つけた。


「リシュ・アステリス殿」

「はい」

「魔王国は、本日より、人間の王国と、永久の同盟を、結ぶ」

「光栄でございます」

「我が民を、救っていただいた、御恩は、永遠に、忘れない」


ザイラスは深く頭を下げた。

角の先が、石の床に触れた。


世界最強の魔王が片膝をついて、忠誠を、誓う。

これは、コンサル業界では、絶対に、見ない、光景だった。



書庫の天井の、石の隙間から、夜明けの、最初の光が、差し込んできた。

それは、薄い青い、光だった。

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