ハニーなメイド
「傾けても崩れないんですよ。これすごくないですか。」
注文した今日限定のスイーツプレートをメイドさんが運んできてくれた。カウンターのテーブルの上でお皿を斜めにしても乗っているスイーツはずれることなく踏ん張っていた。
「ズレていかないのすごいね。どうなってるの。」
「それは食べてのお楽しみですよ。」
メイドさんは誇らしげ。今日のスイーツ担当なのかも。
スイーツと言っても見た目はよくスーパーで見かける六角形で中にはチョコが入っているお菓子。それがハニカム構造のように並んでいて、真ん中はちょうど1つ分の空間が空いているので合計6個お菓子が整列している。
「これ描いたのもあたしです。どうですか。」
「ハチだよね。可愛く描けてる。」
言い塩梅にデフォルメされたハチがチョコレートで描かれていた。
イラストが得意なので今日は彼女が担当で間違いなさそうだった。
今日は8月21日、ハニーの日ということでお店の名前と交えてイベントデーとなっていた。他にもハチミツのドリンクとかハチミツ入りカレーとかがメニューの用意がある。
ひとまずはプレートの写真を撮っていたらお客さんがやってきて隣に座った。
「こんにちわー。今日は早いですね。」
「これを渡そうと思ってね。差し入れだよ。」
そう言って彼はカウンター越しにメイドさんにビニール袋を渡した。
「ありがとうございま、す?」
戸惑うのもそうだろう。横から見ていてもそうだ。だって本屋の袋だから。
中身はなんだろうか。
「これ、なんです?」
「おすすめなんだよ。」
「えー意味わかんない。」
袋から取り出したメイドさんが戸惑うのも無理もない。
だって参考書なのだ。
差し入れて勉強道具渡すやつを見たことがない。
「しかも化学基礎だし。」
「この前、わかんない、って言ってたからさ。」
「ああ!そんなこと言ったかも。これ受け取っていいのかな。店長に聞いてみますね。」
「いいでしょ?説明書きに『生物はお断り』ってあるから。これは化学だし。」
いやいや貴方が決めるとこではなかろうに。しょうもないボケを渡すのか。
メイドさんは店長を求めて奥で逃げていった。
お皿のパイのお菓子を口に放り込む。
少し温められて中のチョコが溶けていて美味しい。無限に食べれる。
真ん中に空いていた六角形の包囲網がかけてしまった。
穴の周りに6個あったのだから残り5個。
パイの下にはチョコでへの字がかかれていたような跡が残っていた。
チョコの摩擦でずれないようになっているのかもしれない。
ひょっとしたらチョコで六角形を描いてあって頂点にパイが置かれていたのだろうか。
「店長に聞いてきたー。生物じゃないから問題はないけど個人の贈り物になるからダメって。」
「お店に置いてくれればいいよ。」
「うちはそういうのお断りです。」
「ちぇっ、せっかく買ってきたのに。」
いやいや、そんなのお店に通ってれば分かってるでしょうにネタに走りすぎでしょう。
「で、何にしますか?」
「とりあえずビールと今日のデザートプレートで。」
「はーい。じゃぁおまけにハニカムをベンゼン環にしてあげますね。」
「ベンゼンって何?」
贈ろうとした本、読んで勉強するのがいいんじゃないだろうか。
メイドさんと勉強会、なんていうのは楽しそうだな。




