第2話 現役勇者の誘い
第2話 現役勇者の誘い
「あなたが――十五年前の勇者、智さんですね」
白髪の女性――ミラが、落ち着いた声で言った。
王国公認の勇者。
そして現在の勇者パーティーのリーダー。
そんな人物が、わざわざ俺の屋敷に来ている。
「……まあ、一応は」
俺は肩をすくめる。
「昔の話だけどな」
ミラはしばらく俺を見ていた。
値踏みするような視線ではない。
何かを確かめるような目だった。
「……少し、よろしいですか」
そう言って、ミラはゆっくりと立ち上がる。
「ん?」
軽く首をかしげると、彼女は一歩、こちらへ踏み込んだ。
――その瞬間。
なぜか、体が動いた。
一歩だけ、後ろへ。
意識したわけじゃない。
ただ、そこに立っているのが危ないと、体が勝手に判断しただけだ。
「……?」
自分でも、少し遅れて気づく。
今、何かされたか?
いや、何もされていないはずだ。
ミラはその場で足を止めていた。
だが、その目だけが、わずかに細められている。
「……今の」
ぽつりと呟く。
「無意識ですか?」
「え?」
思わず聞き返す。
何のことだ。
「いえ」
ミラは首を横に振ると、何事もなかったかのように椅子へ戻った。
「少し気になっただけです」
……なんだ今の。
その横で。
「……ふふ」
シルクが、ほんのわずかに微笑んでいた。
「今日は、お話があって来ました」
「話?」
「ええ」
ミラは静かに頷く。
「まず、状況を説明します…え、あ!資料、お城に忘れちゃった…と、取りに戻ります!」
「え?」
「ミ、ミラ様!大丈夫ですわ!口頭で説明できる内容です!」
シルクがミラを制す。
少しだけ間を置く。
「ま、魔王の子孫が現れました」
俺は眉をひそめた。
「……魔王の子孫?」
「はい」
ミラは続ける。
「まだ力は大きくありませんが、魔物をまとめ始めています。 新しい魔王軍が作られつつある可能性があります」
……なるほど。
勇者が動いている理由は、それか。
「王国こ、あ、警戒も強化してます」
あ、こいつ噛んだ。
ミラは静かに言う。
「そして、その対策の一つとして―― 王国の戦力を強化することになりました」
俺は腕を組んだ。
「それで?」
ミラは、まっすぐこちらを見る。
「王国からの推薦で、あなたの名前が挙がりました」
思わず、少し笑ってしまった。
「……俺?」
「はい」
「最弱勇者って噂のおれに?」
ミラは少しだけ言葉を選ぶようにしてから答えた。
「王国としては――」
そこで一度、視線を横に向ける。
「十五年前の勇者であり、魔王討伐の経験者。 最低限の戦力にはなるだろう、という判断です…あ!」
正直すぎて、思わず吹き出しそうになる。ってかこいつ口滑ったって顔してやがる。
「はは、なるほど」
つまりあれだ。
保険。
元勇者だから、いないよりはマシ。
そういう扱いだろう。
「……た、ただし」
ミラは続けた。
「もう一つ理由があります」
そう言ってから、隣を見る。
「こちらの方の推薦です」
金髪ボブの女性。
半年前までこの屋敷で働いていた元メイド。
シルクは、少しだけ背筋を伸ばした。
「私です」
俺は思わずシルクを見る。
「……お前?」
「はい」
シルクはまっすぐ俺を見た。
「私は、智様を推薦しました」
真面目な顔だった。
いつもの丁寧なメイドの顔ではなく、
少しだけ強い意志を感じる表情。
「智様は――」
シルクは続ける。
「決して弱くありません」
思わず苦笑する。
「いやいや」
「俺は最弱勇者だぞ」
シルクは首を振った。
「それは周囲の評価で、私の評価ではありませんわ」
その言葉に、少しだけ言葉が詰まる。
俺は隣にいるシルクを改めて見る。
「……というか」
「お前、いつから勇者パーティーにいるんだ?」
シルクは少し困ったように微笑んだ。
「半年前です」
「半年前?」
「はい。王国からお声がかかりまして」
軽く頭を下げる。
「現在は回復役として、ミラ様のパーティーに参加しています」
俺は一瞬、言葉を失った。
「……回復役?」
「はい」
「お前、回復魔法なんて使えたのか?」
「最近、適性が見つかったんです」
さらっと言うが、そんな簡単な話ではない。
回復魔法は適性がないとほとんど使えない。
王国でも貴重な能力だ。
「……へえ」
腕を組む。
「知らなかったな……あ」
シルクは少しだけ視線を逸らした。
その様子を見て、ふと昔の記憶が頭をよぎる。
俺はシルクに手招きした。
「……ちょっと、こっち来て」
シルクを呼び、部屋の隅に連れ出す。
「お、おい。あれか? 王国の…あのエッチな伝承のやつなのか?」
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