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第1話 帰還できなかった最弱勇者

プロローグ

かつて勇者として異世界に召喚された智。

だが彼は「歴代最弱」と呼ばれ、元の世界の帰還の機会も与えられなかった。


それから十五年。

王国で静かに暮らしていた彼のもとに現れたのは、かつてのメイド・シルク。


そして彼女の隣には、現勇者ミラが立っていた。

「あなたを勇者パーティーに誘いに来ました」





第1話 帰還できなかった最弱勇者


元勇者。

異世界から召喚された五人の勇者のうちの一人。


そして、ただ一人帰れなかった勇者。

まあ、今さら言うことでもない。


魔王討伐のあと、王国は約束通り、元の世界へ帰るための転移ゲートを用意した。


だが問題があった。

ゲートを通れるのは――四人まで。

なんでも大魔法を扱える人材が減ったんだって。

勇者は五人。


だから、誰か一人は残る必要があった。

結果は、まあ当然というか。

「……俺だよな」

思わず苦笑する。


五人の中で一番弱かったのは俺だ。

剣の腕はそこそこ。魔法は使えない。

ほかの勇者たちはどう見ても化け物だった。

元の世界にもいただろう。要領が悪くて、どん臭い奴。

あの中に混じれば、俺はそんな感じだった。

議論にすらならなく即断だ。


俺が残るのは、合理的な判断だ。



それから十五年。

王国は俺を追い出すこともなく、こうして屋敷を与えてくれている。


魔物討伐の手伝いをしたり、たまに兵士の訓練に付き合ったり。この間なんて一人でドラゴンを狩らされた。

ダメ元だったんだと。

……普通、ダメ元でやらせる仕事じゃないと思うんだが。


まぁでも、いわば王国の食客だ。

平和で、気楽な暮らし。

……少なくとも、表面上は。


でも、知っている。

最弱勇者。

なんであいつが残ったんだ。

本当に勇者だったのか。

……そんな噂があることくらい。


今日は朝から騎士団の模擬戦につき合わされることになった。

(一緒に訓練はあったけど模擬戦は初めてだな)

騎士団の10本の指に入る強者が相手だと。

どうせ中途半端に名のある物を倒して名声をって魂胆だろう。

「お互い、構えて。――はじめー!」


騎士が踏み込んでくる。

鋭い縦斬り。


(……切り落とし)


相手の剣に合わせ、こちらも同じ縦斬り。

ぶつかる――ように見せて。


ほんのわずかに、角度をずらした。


ガツンッ、と鈍い音。


次の瞬間。

騎士の体が崩れ、地面に倒れ込む。


「……え?」


一瞬、場が静まり返る。


「なんだ?惜しかったなあいつ!ほぼ相打ちだったのにな!」

「惜しー!もうちょっとであの元勇者を――」


だが。


「……いや、違う」


ぽつりと誰かが呟いた。


「あれ、完全に合わせられてたぞ」

「攻撃しながら防御しやがった。」

「お前あんなことできる?おれは怖くて無理だ」


ざわ……と空気が変わる。


俺は軽く肩を回す。


別に大したことはしていない。

ただ、いつも通りやっただけだ。

俺は軽く肩を回す。


ほんの少し、呼吸を整える。


相手は倒れたままだが――

こちらはまだ、体が温まっていない


――


「智様、昼食の準備ができております」

扉の向こうから、若い女性の声がした。


「ああ、今行く」

俺は軽く返事をして部屋を出る。

廊下を歩きながら、ふと昔のことを思い出した。


この屋敷には、少し前まで、もう一人メイドがいた。

金髪のボブカットで、いつも丁寧な敬語を使う女性。

シルク。

二年前からこの屋敷で働いていたが、半年前に突然辞めた。

理由は「王国から別の仕事を頼まれたから」。

詳しい事情は教えてくれなかった。

彼女とは……訳あって、少し親しかった。

だから、正直ショックだった。


引き継ぎだけきっちり済ませて、新しいメイドに仕事を渡して。

それだけで、あっさりシルクは屋敷を出ていった。

王国の仕事なら仕方ない。

……とは思ったが、少しだけ静かになった気はする。



「智様」

食堂へ入ると、新しいメイドが声をかけてきた。

「来客がいらっしゃっています」

「客?」

珍しいな。

この屋敷を訪ねてくるのは、たいてい王国の役人か討伐依頼の伝令くらいだ。

「王国勇者の方だそうです」

「……勇者?」

思わず足を止める。


王国勇者。

今の時代にその称号を持つ人物は、一人しかいない。

「ミラ様と――」

メイドは少しだけ言葉を区切ってから続けた。

「もう一方、女性がいらっしゃっています」

「女性?」

首をかしげながら、応接室の扉を開ける。


そして。

そこにいた人物を見て、俺は少しだけ驚いた。

白髪のセミロング。赤と黄色のオッドアイ。

王国公認の勇者、ミラ。

そして、その隣に立っていたのは――

「……久しぶりです、智様」

金髪ボブの女性が、静かに頭を下げた。

丁寧な敬語。見慣れた仕草。

「お元気そうで何よりです」

俺は思わず、目を瞬かせる。


「……シルク?」

半年前に屋敷を出ていった元メイドは、少しだけ照れたように微笑んだ。

「はい。お久しぶりです」

そしてその隣で、ミラが興味深そうにこちらを見ていた。

「あなたが――」

落ち着いた声で言う。


「十五年前の勇者、智さんですね」

「あなたを勇者パーティーに誘いに来ました」

「王国の判断で、ですが」

ミラは淡々とそう言った。

だが、その隣で――

「私は、ずっとお待ちしておりました。」



シルクが、あの頃と変わらない声で言った。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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