7専属護衛執事
父クラークとの早朝鍛錬が終わり、汗を流し、朝食をとる事になった。
「はっはっは!猟銃の時もそうだが、今回も初撃で撃ち抜いたのだ!シグは素晴らしい才能がある!将来が楽しみだよ!」
朝食時の話題は専ら早朝鍛錬についてだ。
クラークが頻りに褒めてくれる。かなり上機嫌だ。
ぶっちゃけ狩猟の時もそうだったけど、よく考えなくても、5歳児に銃持たせる父親とか、有り得ないけどね!まぁ、俺は楽しいから良いんだけど。
「まぁまぁ、シグちゃんは本当に凄いわね!お父様はあまり人を褒める人では無いのよー?シグちゃんは褒められてばかりで知らないでしょう?」
まさか。あんなに、いつもべた褒めの父さんが、普段は人を褒めないとか、あー、親バカだもんね。
どこの親も子供には甘い。
「アンナよ。私は正当な評価をしているだけなのだがな。君が褒めないという認識なのは、褒めるに値しない者が多いというだけの事だ。逆にシグは、褒める要素が多分にある」
「そうねー!シグちゃんは、ほんっとうに素晴らしいわ」
「ナディもすごいー?」
ナディちゃんもよー、と頬にキスをして、キャッキャと喜んでいる。
うん。2人して親バカだもんね。
「何より、私は君の事はいつでも褒めているつもりだがな」
「まぁ、あなたったら。分かっていますわ。あなたが私にいつもお優しい事は」
「優しいのは当然だろう?君は私の最愛の妻なのだから」
「まぁ、あなたったら」
本当に父さんと母さんは仲が良いなぁ!えっ?いつまで続くの?えっ、手まで繋ぎ出したんだけど!もう、ナディはそっちのけですか!?俺も、まだいますから!ここにいますから!いつも使用人たちの前でイチャついてるから、感覚鈍ってるんだろうけど、子供の前ではやめてほしいなー。でも、もう一人くらい弟か妹が欲しいから良いかも知れないな。
父さんが、母さんの頭を2度撫でる。だいたい、これがイチャイチャ終了の合図だ。
いつも見てるから、知ってるよ。
「時に皆よ。本日知らせが届いてな。兼ねてより懇意のある青の国の大公家であるウィニキートス家から招待状が届いたのだ。そこで半年後の夏に訪問を予定している、皆で向かうとしようあの国は夏が最高だからな」
「まぁ、ウィニキートス大公城へ!?なんて素敵なの!良かったわね!リンリン!久しぶりのご実家への帰省が出来るわね!」
「はい!奥様!ありがとうございます」
「え!?ウィニキートス大公って青の国の大公家じゃないですか!リンリンはお姫様なのですか!?」
「え!?リンリンお姫様だったの?!」
なんだって!?公国を納める大公家は、王国でいう王家に当たる。その大公家の出となると、リンリンは大公女となり、姫様に当たるのか?なんで大公家の姫様がこんな所で侍女をしてるんだよ!?
「いえいえ、わたくしは傍系ですのでウィニキートスではありますがアトリビュートではありませんよ」
「ウィニキートス大公家は複雑でな。元を辿れば武家の一族なのだ。千年前に独立され青の国の大公家になられた由緒ある家門なのだが、リンリンのように傍系であってもウィニキートス流古舞術の師範クラスにはウィニキートスを名乗る事が許され一代限りの爵位が与えられている。そしてアトリビュートとは四大国の大公の孫までにのみ与えられている名でな。お前たちもアトリビュートだ」
アトリビュートについて、単なるミドルネームであると思っていたが、詳しく聞いた所、大公とはその国の属性を一番強く受け継いだ者がなるらしく、次の大公はアトリビュートからのみ選ばれるのだとか。
もしも、外部から出た場合は、アトリビュートの中で政略結婚が行われるらしい。
また、爵位に関わらず、アトリビュートは同列の権威が認められているのだとか。
そして、リンリンの扱うウィニキートス流古舞術は、剣術、槍術、棍術といったあらゆる格闘技の流派が存在するが、伝承者が極々限られている為、『伝説の古舞術』として名高い。
「リンリンは、リオーネ騎士団副団長のハンスの師匠でもある。ふむ、そうだな。ハンス、君はこれからシグの専属になりなさい。君なら安心出来る」
「まぁ、それが良いわ!私もハンスになら任せられるわ」
「かしこまりました。ハンス・ハルトリンです。シグルド様、どうぞよろしくお願い致します」
父に認められている程の実力を持つこの男は、母が出身国である赤の国にいた頃からの幼馴染らしく、嫁いできた際に一緒に橙の国へ来たんだそうだ。元々母さんに仕える護衛騎士だったとか。
護衛騎士なのに帯刀はせず、2メートル程の棒を背に担いでいるだけ。
隊服を着てちゃんと正装していなければ
野武士面の為、どこぞの侍みたいで、よっぽど着物を着崩して茶屋で団子でも食べていて貰いたい程。まぁ帯刀はしないけど。
「よろしくね!ハンス」
「ハンス、シグルド様の専属となるのです。執事服に着替えていらっしゃい。あと、その多節棍は邪魔なので纏めて胸許に」
「かしこまりました師匠」
「師匠もやめなさい、リンリンと呼ぶ事を許可します」
「光栄でございます。では、着替えて参ります」
シュッ、と音もなく消えたハンス。
野武士面だけど、侍ってよりは忍者っぽい動きをするんだよな。ハルトリンて、ハットリみたいな名前だしな。
師弟関係か、リンリンの新たな一面が見れてなんだか嬉しいような気がするな。
しかし、リンリンって結構おっちょこちょいのほんわかした侍女ってイメージだっただけに、驚きが凄いな。
「古舞術ってなんなの?武術とは違うの?」
「古舞術とは、舞を取り入れた武術の事です。シグお坊ちゃまも会得されますか?」
「んー、今は、父様に銃を習い始めた所だしな」
「ウィニキートス流古舞術は、多種多様な流派がある。リンリンはその全ての流派の師範クラスなのだ。もしかすれば銃の古舞術もあるかもしれんぞ?」
「凄い!」
「そうですね、ウィニキートス流古舞術ではありませんが、銃闘術でしたら型だけならお教え出来るかも知れません」
「やった!それならさっそくお願いするよ!」
「お兄ちゃんだけ、ずるい!ナディには、何もないのに!!」
ガタッと音を立てて立ち上がり、泣きながら走っていくナルディア。
しまった、と皆が己を責めた。
当然である。
ただでさえ、優秀過ぎる双子の兄を持ち、5歳になり魔力が使えるかと期待していたものの、まだ扱えてはいない。
そこにきて、狩猟を体験し、更には銃の扱いを父自ら教え、そして、専属の護衛執事までついた挙句、リンリンまでもが、シグルドに指南すると言われたら、幼くなくても耐えられないだろう。
すぐ様、皆でナルディアを追いかけたが、既にナルディアはどこかに行ってしまった後だった。
「おーい、ナディー?どこにいるー?」
皆でナルディアを探したが、どこにもいない。かれこれ、2時間は経つだろうか。
リオーネ城は広い。
ナルディアの自室はもちろん、両親やシグルドの私室、客室、使用人達の私室、厨房、食室、温室、庭園、騎士達の訓練所、上げればキリがない。
ある程度は回ったものの、どこにも見付からず、2階の大広間で、汗だくになりながらオロオロと青褪めているリンリンと遭遇した。
「ハァ、ハァ、ナディは?まだ見付からない?」
「見付かりません。ナディお嬢様に何かあったら…どうしましょう。シグお坊ちゃまの専属がハンスになった以上、ナディお嬢様の専属である私のせいです」
「いや、私達親の責任だ」
「ええ、ナディちゃんの気持ちに気付いてあげられなかったんだもの」
「そうだ。考えなくても分かるような事に、気付けなかった」
クラークと、アンナも合流し、互いに自身を責める。
「違うよ、僕のせいじゃないか。僕がいなければ、ナディは劣等感なんて抱かずに済んだんだ。僕のせいだよ」
「それは違う。成長はそれぞれ違うものだ。シグには、シグのナディにはナディの成長速度がある。確かにシグは目を見張る程の才能と成長速度だ。だからこそ次のステップへと手を差し伸べている。それはナディも同じ事だ。時がくれば、ナディにもナディにあったレールを敷く。それは当たり前の事だ」
違う。ただ、俺には前世の記憶があっただけだ。物事の道理が分かっているから、言語を理解するのが早かったし、たまたま前世でラノベが流行っていたから、ただ型にハマったってだけの事だ。鍛え方だって、たまたま前世でもやってた事ってだけで、俺が特別な事なんて何もない。
納得していないシグルドの頭を撫でながら、アンナが語る。
「そうよ。それに、ナディちゃんだって、他の同じ歳の子達より成長が遅いなんて事、まったくないんだから。ズリバイの時だって、シグちゃんのハイハイに負けないくらい早かったから、何度か捕まってたでしょ?それに、あの子、よく喋るもの、同じ歳の子達よりたくさんお話もするわ」
「そうですね。あと、物覚えがよろしいです。テーブルマナーなども、覚えておいでですからね。あの御歳で素晴らしい限りです」
「ええ。淑女教育を楽しそうに習っているものね」
まさか、ナディが淑女教育を受けていたのは初耳だ。
「そうなんですか、ナディ凄いですね」
「そうよ、ナディちゃんだってリオーネ侯爵家の令嬢ですもの。あなたが鍛錬に励んでいる間、遊んでいる訳ではないのよ?そろそろ社交についても学んで貰うつもりなんだから。社交界は女の世界ですからね。大切なナディちゃんが苦労しないように、鍛えあげなくっちゃ」
「…本当?」
どこからかナルディアの声がする。
「ナディ!!?」
「ナディ、いらない子じゃない?」
「当たり前じゃない!ナディちゃんは大切な私たちの娘よ」
「そうだぞナディ、私たちはお前が可愛くて仕方がないよ」
「ごめんな、ナディ。兄ちゃんがいるから、ずっと嫌な思いしてたんだな。ナディも頑張ってるのに、兄ちゃんやりたい事ばっかりで。ナディの事置いてっちゃってた。ごめんな」
「お兄ちゃん何も悪くないよ!ナディは、ナディお兄ちゃん大好きだもん」
えーん!と、泣きながら壁から出てきたナルディアは、そのままシグルドに抱き付いた。
「ナディ、かっこいいお兄ちゃん大好きだもん!お兄ちゃん色んな事始めちゃって、ナディから離れてくのが怖かったの!」
「バカだなぁ、俺がナディから離れる訳無いだろ?」
「そんな事言ったって、ナディとの時間もっともっと無くなっちゃうって事でしょ?」
そうか、ナディは俺にばっかり色々与えられてる事で差が出来たみたいで嫌なんじゃなくて、俺が忙しくなる事で、自分との時間が減るのが嫌だったのか。いや、どっちも嫌なんだな。
「ナディ、成長するのは悪い事じゃない。むしろ、素晴らしい事だ。俺はもっと成長したいし、ナディにも、成長して貰いたい。だから、今まで通り、ナディとの時間は絶対守るから、それ以外の鍛錬していた時間を、曜日で分けて勉強するよ。そしたら、新しい事も覚えられて、ナディとの時間も減らない。だからナディも、俺が鍛錬している時間、頑張ろうな」
パァァァ、っと笑顔を咲かせるナルディア。
「うん!お兄ちゃん大好き!!!」
微笑ましい光景に、ホッと肩を撫で下ろす一同であった。
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