6初めての狩猟
時は過ぎ5歳になったシグルド。
生後8ヶ月の時の人生初の魔法体験は、感動すら覚える間も無く、奇しくも『筋トレを頑張った日』となっている。
あの日から始めた畑仕事は毎日の日課になっていた。
時期によって収穫物の違う畑は、それぞれが耕す時期が違う。
驚いた事に砂漠地帯の筈が日差しが厳しいのは夏だけであった。砂漠化しているのには何か他に理由があるのかも知れない。
この世界にも四季があるようで、日本の気候と変わりはないのだ。広大な畑も四季毎に4分割された分だけ耕すらしい。だが収穫時期によっては、収穫も終わり次の種まきの時期まで耕す場所が増える事もしばしばあるので、5歳になるまでにきっちりと教えて貰った。
と言っても筋肉の問題で、広大な土地を耕すにはとても耐久力が間に合わず、断念しながらこの数年でやっとまともにクリア出来たに過ぎないのだが。
それでも、5歳児にして鍬での1日の移動距離は馬のそれと変わらない程だ。
「よし!この数年で良い筋トレになったな!最近は何時間鍬にしがみ付いても疲れなくなったし、そろそろ筋トレを増やそうかな。だって、もう俺は某国民的アニメの野原しん◯すけと同じ歳になったんだし。なんでも出来るだろう。この歳だとまだ戦闘訓練は難しくても、土台作りの筋トレは必須だ!俺は必ず強くなる!」
そう思い、他に強化したい部分の筋トレに励む事にした。
今現在、5歳にしてシグルドは腹筋、背筋がバキバキに割れている。気になるのは、肩や腕周りだろうか、足にももう少し筋肉を付けたい。
前世で陸の頃行っていた武術の鍛錬を取り組み、体力を付ける為走り込みも追加した。
生後8ヶ月での行動以降、驚愕の連続だった両親からは、5歳児ながら近場であれば1人行動に制限はされていない。まぁ、周りには使用人達がちゃんと付いているのだが。
そういえば、本来ならそろそろ魔力を扱える年齢になる。シグルドの噂は瞬く間に広がって、土の神童と呼ばれているそうだ。
あの時測った魔力量は成人の5倍だそうで、まだまだ増えても成人の儀には皆調べ直すらしいから、今は気にしなくて良いとの事だった。
本日は父クラークが遠出していると母アンナが教えてくれた。
2時間程走り込みをしながら、ふとそんな事を思い出していると畑とは反対の領地の、森まで来ている事に気が付いた。
森か、実は来たの初めてなんだよな。あれ?気が付いたら使用人もいない。付いて来られなかったか。悪い事をしてしまった。
深い森林は前世の樹海を思わせる程だ。子供で無くても怖いだろう。
何かあっては対処が出来ない、と引き返そうかと思った時、見慣れたクラークの愛馬を発見する。
「チャゲ」
鹿毛が艶やかでしなやかな筋肉の付いた馬は、シグルドが産まれてからリオーネ家に来た、因みに同い年だ。
名付け親は当然シグルド。茶色の毛から名付けた。
シグルドに呼ばれて嬉しそうに尻尾を振り近寄って来るチャゲ。
チャゲの近くには、リオーネ侯爵家の2頭立ての馬車がある。どうやら、今は休憩も兼ねて餌を与えていたのだろう。御者がもう1頭の鹿毛の馬の毛並みを整えている。
チャゲがいるのだ、クラークも当然いるのだろう。御者と軽く挨拶を交わし周りを確認するが、近くに父は見当たらない。森の中だろうか?と考えていたら、ちょうど森の中から話し声が近づいて来た。
「いや、ディム君。その歳で射撃の腕がピカイチとは、恐れ入ったよ」
「いえ、クラーク様にはまだまだ足元にも及びませぬが、お褒め頂き恐縮至極にございます」
「そろそろ倅にも狩猟を教えたいと考えているのだがね、如何せん、妻がまだ早いと言うものでね。あれは心配性でいかんな。しかし、我が子ながら倅には驚かされているのだ。親バカと聞こえるかも知れないが、生後8ヶ月には言葉を理解し魔力を扱い畑を耕し始めたのだ。現在5歳児なのだが、今は期限以内に広大な畑を耕し終わり、けろっとしているのだ。余力もまだまだ余っていると見える。次のステージを用意するのが親心だと思わんかね?」
「まさか、それは噂に聞く土の神童では!?そうですか。クラーク様の御子息様でいらっしゃいましたか。素晴らしい御子をお持ちでいらっしゃいますね。今お話を伺った私の意見で恐縮にございますが、私がクラーク様の御立場でも同じ気持ちになると思います」
話をしながら、父たちは森から姿を現した。父と話していたのは、癖のある黒髪の長身の青年だった。
父さんとはどんな関係なんだろう。アレ?黒髪だ!日本思い出すなー。そういえば、こっちでは、見かけないな。
それより、そんな褒めるなよー!ほんと、父さんは親バカだなぁ!それに、次のステップか!むしろこっちからお願いしたいくらいなんだが。
「シグではないか!どうしたのだ?シグの使用人が見当たらないが。ここには御者がいるとはいえ、1人で森になど来ては危険ではないか!」
「すみません。お父様。最近畑を耕すだけでは余力が出てきましたので、追加の筋力トレーニングと2時間程走り込みをしていましたら、チャゲを見付けまして、お父様がお近くにいるのでは?と勝手ながら待たせて頂いておりました」
「そうか。素晴らしい心掛けだが、森周辺には魔獣が出る故、今後一切1人では近付いてはならぬぞ。ふむ、とはいえ使用人が付いてこられ無い程か。シグには専属の護衛も付けねばならぬな。だが、今回は丁度良い。今シグの話をしていた所なのだ。シグ、お前に狩猟を教えてやろう。良いかなディム君?」
「こんなに素晴らしい場面に立ち会えるなど喜ばしい限りです。私は大賛成ですよ」
やった!!これで猟銃を使えるようになれば、護りの土と、攻撃の猟銃で愛称も良いんじゃないか!?
こうして、5歳にして森で狩猟をする事になった。きちんと挨拶を交わし、一行は森へ。
森は入り口でも、暗かったが中は更に暗く、まだ昼過ぎで天気の良いこんな日でも肌寒い。
耳を済ませば木々の擦れる音、虫や鳥の鳴き声だけじゃなく、確かに感じるのは、獣の鳴き声と殺気。この森は危険だと肌でビリビリと感じる。
「なんだ怖いのか?やはりまだまだ5歳児だな」
陽気なクラークは慣れているのか、笑って茶化す余裕がある。
そーだよな、これでもまだ5歳児だからな。体が恐怖を感じてるみたいだ。だけどこれ、さすがに大人でも不気味だろう!?なんでそんな余裕なんだよ!
「この辺りで良いだろう」
猟銃を構えるクラーク。茂みに隠れて狙うのは一匹の低級魔獣で角の生えた兎型の魔獣、名はセフラビット。Fランクだそうだ。ここは、狩猟ポイントでセフラビットの巣があるらしい。
農業が盛んなリオーネ領は、狩猟も盛んだと教わった。砂漠地帯なのに、不思議なものだ。
魔獣は増え過ぎると危険な為、定期的に駆除しなくてはならないのだ。もちろん狩った後はギルドに卸したり我が家でもてなしてくれる。最初は魔獣食えるの?と驚いたが味は案外美味しかった。
日頃から狩猟に慣れた父さんがいるのだ、心配のし過ぎかな。でも、強くなる為にはちゃんと学ばないと!
銃の握り方、狙い方、撃ち方に付いて細かく父に教えられ、初めての狩猟はだんだんと慣れて来た。
獲ったセフラビットの解体も忘れない。血を抜き、皮を剥ぎ、内臓を取る。
やっぱり体の中には魔石があるらしい。魔獣だからな。この魔石がまた生活必需品になるのかな?
暫く狩りをして高揚感を覚えた。銃楽しいな。俺には結構向いてるらしい!
そんな自分の新たな一面を感じていたが、セフラビット狩りも10羽を超えた頃、悪い予感は的中した。
突然、熊の魔獣が現れたのだっ!
熊っ!熊だ!!
前世では魔獣ですら無いただの熊が、最強動物に分類されてたじゃないか!
時速60キロで走ってたって話も聞いた事あるぞ。しかもこいつは魔獣だ。更に速いかもしれない。
何が起きてもおかしくは無いな。血の匂いを嗅いで近付いて来たのか?林の影から突然現れたこいつは、殺気立っている!いや、興奮してる筈なのに、俺たちをゆっくりと値踏みするように観察している!!
この熊の魔獣からは逃げられそうにないぞ!これは、ヤバイんじゃないか?!
しかし、この熊の魔獣、明らかに俺を狙っているようだな。子供だ。弱い者から狙うのは野生では当たり前だろうが。普通こんな状況なら子供らしく恐怖に泣き叫ぶ所だが、さっきから不思議と冷静でいられている。命の危機にタガでも外れたのか?しかし、前世でならともかく、今の体では、まだ戦えないだろうな。最悪、土魔法でなんとかしないとな。
そんな事を考えながらクラークを見ると真剣な表情に変わっていた。肌がピリつく程に威圧感を放ち猟銃に弾を入れ、構え始めた!
「親の目の前で倅を狙うか。舐めた真似をするではないか」
威圧感を放ち、牽制し合うクラークと熊の魔獣。どんどん空気は張り詰めていく。
一歩も動かない両者だったが痺れを切らし突然熊の魔獣が150メートル程先から猛烈に突進をして来た!!
来たっっ!!!
一気に緊張が走る!!
速いっ!!熊の魔獣の突進は、体幹だと時速100キロを超えている!父さんは対処できるのかっ!?後手に回ったらやられる!!
ズガァァァァァァァンッッ!!!
前方では、視界を失う程の閃光を放ち、耳を覆いたくなる程のけたたましい爆発音を立て、クラークの猟銃が眩く光を放ち火を吹いたのだ!!
ゴホゴホっ、熊は、熊はどうなったんだ。
むせかえる程の土煙が晴れ、ようやく熊の魔獣が確認出来た。
熊の魔獣にヒットした弾丸はそのまま熊を50メートル程吹き飛ばし巨木に背中を打ち付け絶命している!!
血反吐を吐きながら座るように死んだ熊の魔獣の腹に打ち込まれた弾丸は、肉を抉り内臓を通り越し背中の皮一枚で止まっていた。
「怖かったな。もう、大丈夫だ」
「一発ですか!いや、お見事です。いかに爆裂弾でも、一流の使い手でもうこうはいきません」
一発!!
父さんが、こんなに強かった事を初めて知った!
いや、思ったよりマジで怖かったです
おとうさま。
クラークが使っていた銃は、実は魔道具で、魔力を込めた銃弾を放つ事が出来るそうだ。もちろん魔力量によっては威力はまったく出ないし、魔力を込め過ぎたら逆に暴発し、自信の腕を吹き飛ばす可能性すらある危険なものらしい。クラークだから一撃で仕留められたのだと、ディムが教えてくれた。
先程打った銃弾が、爆裂弾。
着弾と同時に爆発するので超強力なのだとか。いつか俺も使ってみたい!
解体も終わり、日も傾いてきた。
狩猟は終わりだな。というクラークの一言で狩りは終了し、森の出口に向かう一行。
しかし、危なかった。
咄嗟に、地面に手を突き土魔法を放とうと思って待機しちゃったよ。
クラークは気付いていなかったが、黒髪の青年ディムは、シグルドの異常性をずっと凝視していた。
5歳児が腕の良い父の指導があったとはいえ、初めての射撃で10羽のセフラビットを射止めた。銃を撃つと当然反動が来るが、よろめきもせず、怪我の一つもしていない。殺生にも動じず、剥ぎ取りや解体にも進んで参加し、怯えも一切見せない。
熊の魔獣である、Dランクのナサンベアに最初に気付いたのも、この幼な子なのだ。
クラークや私がいる中で。
しかも、自分が狙われている事に気付きながら慌てず怯えず、父の射撃が失敗した時の保険まで用意している。
激しい閃光にも目を閉じず警戒を緩めず、爆音にも動じない。
土の神童とは、末恐ろしいものを見た。
今のうちに知れて良かったと思い帰路に就くディムであった。
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