2転生
「お目覚めですか?」
目を開けたら霧がかった何も無い場所が目に入った。
意識を失っていたようだ。体を起こし周りを見回すとびっくりする程何もなかった。
部屋ではない。外にしても地平線すらない。
何も存在しない空間。
すると突然目の前に、白い光が後光のように輝く女性が現れた。顔はヴェールで隠されているので見えないが。
「ここは?あなたは?」
「私は女神。ここは、次元の狭間。あなたは死んだのです」
「そう…ですか。女神様の御姿を拝見出来た事を嬉しく思います」
死んだショックからなのか、女神と出会えた感動からなのか、両の瞳からスーッと涙が流れる。
まだ意識がはっきりしてはいないが、なぜか素直に受け入れる事が出来た。
崇拝していた女神様と出会えたとて、驚きはしない。敬虔な信徒であったからこそ素直に受け入れられるのかもしれない。
「…ハッ!澄は!?一緒にいた妹は、大丈夫なのでしょうか!?」
「妹さんですか。すみません。ここは亡くなった方の中で適性がある方が集められる場所なんです。亡くなったからといってどなたでも来られる訳ではありません」
「それでも生きてるか死んでるかくらいは分かりませんか?!妹なんです!!どうか、どうか女神様の敬虔な信徒であるわたくしの願いをお聞きください!お願い申し上げますっ!」
「残念ながら、この世界はあなたが今までいた世界とは別なのです。異世界の事には干渉し合わないのがルール。ただ、適性がある者にはこちらの世界に転生して頂く事が決まりです」
そんな…俺が死んだのは仕方ない。それは良いんだ…それより澄の安否が分からないなんて…。
女神様には、異世界に招き入れる役割があって、元の世界で起きた事は伝える事が出来ない、のか…。さすがに、これ以上お聞きするのは失礼にあたる…よな。澄、どうか、どうか無事でいてくれ…。
膝を降りうずくまる。肉体があれば不安から心臓が激しく脈打ち、パニックになってしまったであろう程取り乱す。しかし魂だけの存在となった今、女神の後光の影響なのか、次第に冷静さを取り戻す事が出来た陸は、女神の言葉を反復し、ある事に気付いた。
って、えっ!異世界転生!?ファンタジーの…!?それって異世界に行ったら、よけい澄の安否も分からないじゃないか!?
「仮にあなたが元の世界の『あの世』に行っても、情報は提供しては貰えませんよ。残念ですが諦める事です。そしてあなたの世界では、どういった訳か異世界転生の事は広く知れ渡っているのでしたね。概ねあなたのイメージした通りの世界で合っています。そしてそれが今回あなた達に白羽の矢が立ったという事です」
そうなのか。…そりゃあそうか。あの世に行って現世と関われたら未練になって成仏出来ないとか色々あるんだろうな。今は澄の安否を信じるしか出来ないのか…。
澄…どうか無事でいてくれ。父さんも母さんも、ちゃんと長生きしてくれよ。…俺の…俺の分まで、どうか幸せになってくれ。
目を閉じ、家族の幸せを願う陸。もう会う事の出来ない家族を思い目頭が熱くなる。
再度心を落ち着かせた陸は、女神の言葉を受け止め、現状の理解に努めた。
「女神様が異世界を管理されておられるという事は、異世界に行っても女神様への信仰は続けて行けるのでしょうか?」
「ええ。あなたが望んでくれるのであれば。逆にどうやって知って頂けたのか、今まであなたがいた世界での私の方が異質な存在と言えるでしょうからね」
「異質だなどと、そんな事はございません!確かに人数こそ、少数でしたがあなた様への信仰心は皆深く抱いておりました!それにしてもなんという幸運!来世でも信心致します!」
よし、これから俺は異世界に旅立つのか。
って、異世界転生!?いやいや、物語の中でだけの事だと思っていたのに、いきなり納得するのは難しいだろう!?しかも俺のイメージ通りなら、剣とか魔法とかのファンタジーの世界だぞ。武闘家だった俺が、剣と魔法って
ん?…達?さっき、あなた達って仰ったような。
周りを見回すと、霧でよく見えなかったが俺の右隣には、7歳くらいの少女がいる。
…!!
…そうか。こんな小さな子まで亡くなったのか。これも、あの事故が原因なのか?かわいそうに…。
不安そうに強張った表情の少女は、陸の方をジッと見つめる。
「女神様、不躾で申し訳ありませんが、この子はまだ幼いです。転生はわたくしだけにして、元の世界に帰して頂けないでしょうか」
「残念ながらそれは出来ません。そして、転生するので、私の世界で赤子からやり直して頂きます。つまり、今までの年齢はさして何の関係もありません」
そんな、と声を漏らし、少女は今にも泣き出しそうである。
「そんなに悲観的にならなくても大丈夫ですよ。転生に当たって、あなた達には願いを一つ叶えてあげますので。何か願いはありますか?」
帰りたいとか、生き返るとかは出来ませんが。と女神は付け加える。
俺は自分の事より少女が心配で、少女の返答を待った。
「魔法少女になりたい」
えっ?!
少女の思わぬ申し出に陸は少々驚いた。案外即答で答える少女にもびっくりである。
「えっ!?異世界に行くから魔法は使えるだろうし、わざわざ魔法少女にならなくても」
「えっ、そうなんだ。異世界に行くだけで、ハートの魔法少女になれる?」
魔法少女にハートとかってあったか?アニメは見る方だけど。
さっぱり分からないので返答に困る陸。
「ハートの魔法少女が何か分かりませんが、ハートをモチーフに唯一属性を扱う事なら可能です」
少女の不安そうだった顔は、パーっと明るいものに変わった。
「凄い!あのね!魔法少女って、力も強いし、凄く高い所まで飛べるし、頑丈で、動きも凄く早いの!あと、魔法少女は1人じゃないの!同じくらい強い仲間がいるの!」
少女は目をキラキラさせて、前のめりになり、手振りを加えながら必死に説明している。
うん、凄い順応してるな。本当に好きなんだろうけど、小さい頃の憧れをそのまま叶えて貰うのは、後々後悔しないのか不安になる。だが、今だけでも不安に思う気持ちが紛れたなら良かったかもしれない。
ただ、よくよく考えると異世界で魔法少女って、なかなかにチートな気もするな。
「概ね理解しました。その願い、叶えましょう」
少女が、わーいと何度も飛び跳ねながら喜んでいる。よっぽど嬉しかったのだろう。
「しゃうがない、乗りかかった船だし付き合うよ。では、わたくしは魔法少女のお仲間さんで、お願いします」
少女を1人で放っておく訳にもいかないからな。魔法少女ならぬ、魔法少年とかかな?ん?魔法使いじゃ、やっぱり違うのかな?そもそも魔ほーーー
「それは出来ません」
チートそうだし、俺もって、ええっ!?
「先程もお伝えしましたが、適性がある方が転生されます。あなたは、土属性の適性。唯一属性の適性ではありません。これからあなた達が転生される世界は、基本の四属性である火水風土の属性がある世界です。まぁその他の属性もありますが、基本は四属性です。そして、あなたの世界でも知られる通り土属性はあまり評価の高い属性ではありません」
「えっ!もう属性って決まってるんですか」
「ええ。先程からあなたの周りがオレンジ色に光っているでしょう?まぁ向こうの世界での呼び名は橙色ですので言い方は統一して下さいね」
「えっ土属性ってオレンジ色、あっ、橙色なんですか?茶色とかじゃなくて?」
「ええ。元来、茶色も橙色も色相は同じですからね」
た、確かにそうだ。三原色である赤青黄の間の中間色である紫緑橙を入れると、色は一周する。例えば、火は赤で水は青で風は緑なんだろう。そして土は茶色と同じ色相の橙色。
分かるんだが、橙色って…。
例えば戦隊ものは、リーダーの赤、知的なサブリーダー青、あとは、黄色とか緑とかきて、ピンク。
それこそ、魔法少女モノでも、ピンク、水色、紫、黄色ときて、赤とか。
あの有名な六つ子アニメも、赤青緑紫黄ときてピンク。
クドイようだけど三原色の間を埋めたら6色なんだから、赤青黄紫緑橙で、6色なんだ。この中に橙色は入ってる!6色選ばれるなら、最後で全然良いから橙色を選ぶだろう!?
だが、選ばれ無いんだ。
とあるアイドルアニメでは橙色ポジションをサーモンピンクだとか言っていたりもする。
いや、かくいう俺も橙色が不遇なのは分からなくは無いんだよ?
例えば赤とか黄色とかのキャラクターがいた場合、どちらも、橙色寄りの色味が一部だけでもキャラクターに使われている事が多い。
赤が橙色寄りの赤だったり、黄色が橙色寄りの黄色だったりする。そこに橙色が加わると映えないからだ!
だから、キャラクターイメージの強いピンクを持って来る形なのだろう。
いや、ピンクは赤の色相ですけど!?
しかも、ピンクって薄い紫と色が結構似てるから、むしろ紫がキャラクターにいるなら、橙色にしなよ!
とかは、ずっと思っていた。
土属性もそうだ。
アニメで土属性って、何故か筋肉ムキムキの力自慢で、えっ?土の魔法使わないの?バリに肉弾戦闘で、使ってもザコばっかり。仲間でも敵でも、だいたいが、かませ犬で終わったりする。四属性の中では不遇なのだ。
そう。俺は、不遇の橙色の土属性らしいのだ。
「ふふっ、面白い方ですね。そうです。残念ですが、あなたの常識はこれから転生する世界でも変わりません」
思考を巡らせていてずっと沈黙していた陸に向かって、女神は吹き出した。
「思考を読むのはマナー違反ですよ」
「すみません。少々お時間がありませんので。それで?何を願いますか?」
ジト目を向けた陸に対し悪びれる事無く言ってのける女神。
「じゃあ、せめて…来世でこの子を守れるようにして下さい!」
目を見開き驚いた女神は、少しだけ微笑みを浮かべ「お優しいんですね」と呟き光を放つ。
「その願い叶えましょう!特別に貴方には『女神の加護』をサービスしておきます」
光に包まれた陸と少女の2人は意識を手放しながら
「どうか今度こそ、幸多からん事を…。」
と言う女神の声と共に異世界に旅出つのだった。
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