表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/188

『王子の血』

夜明けは、奇妙な沈黙を連れてきた。

カルパシア王国の城壁では鐘は鳴らず、風も旗をかすめる程度だった。

だが王宮の回廊に満ちるその静けさは、嵐の前触れにほかならなかった。


評議の間へ、一人の使者が駆け込んできた。

全身は埃と乾いた血にまみれ、玉座の前で膝をつき、帝国の紋章――三翼の鷹――が刻まれた封蝋付きの羊皮紙を差し出す。


「へ、陛下……」

震える声で、彼は告げた。

「第三皇子殿下が……死亡されました。王国領内にて……」


王は立ち上がり、その鎧の鳴る音は雷鳴のように響いた。

居並ぶ貴族たちは蒼白な顔で互いを見交わす。

沈黙を切り裂いたのは、ただ一言。


「――帝国は、血には血で応えるだろう」


灰色の空がカルパシア王国の首都を覆う中、帝国の使者が正門をくぐった。


深紅の外套をまとい、手には金色の軍旗。

そこには、帝国を象徴する双頭の竜が描かれている。

その歩みは遅く、重く、背後には黒き甲冑に身を包んだ六人の騎士が続いた。

金属装甲を施された軍馬の蹄が石畳を打つたび、不吉な予感が街に広がっていく。


第九皇子レオポルド・フェルッシの暗殺――

その噂は二週間もの間、諸侯の宮廷を震撼させていた。

帝国は王国が陰謀に関与したと断じ、

貴族たちは小声で議論し、神殿では平和を祈った。

だが、もはや誰一人として、それを信じてはいなかった。


使者が中央広場に到達すると、赤い封蝋の羊皮紙を広げた。

魔術によって増幅されたその声が、屋根の上まで轟く。


「――『千の王冠を戴く神聖皇帝、アルデウス・フェルッシ・ベッカーの御名において宣告する。

帝国の血は異国の地にて流された。

カルパシア王国は、帝国の神性に対する大罪を犯した。

よって、裁きに先立ち、贖罪の機会を与える』」


広場は水を打ったように静まり返った。

ただ、塔に掲げられた王国の旗だけが、風に揺れている。


「――『皇帝は、全面戦争を回避するため、三つの条件を提示する』」


使者が手袋に包まれた手を掲げると、青い炎が空中に灯り、一つずつ刻まれていった。


一、カルパシア王国は無条件降伏し、帝国の属国となり、永遠の忠誠を誓うこと。

二、皇子レオポルド暗殺の首謀者とされる、モンドリングのルシアン・ダグラスを即刻引き渡すこと。

三、カルパシアより一万の兵を東部戦線へ派遣し、帝国旗の下、スパルタコス遠征に従軍させること。


最後の言葉は、氷のような余韻を残して響いた。


「――『猶予は七日。

それを過ぎれば、帝国の軍団は進軍を開始する』」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ