噂と呪われた継承
夕暮れが落ちる頃、ルシアンは治療棟を後にした。
空気には、雨の前夜特有の金属めいた冷たい匂いが漂い、学院の鐘の遠い音が、見えない蛇のように廊下を這う囁きと溶け合っていた。
中央中庭には多くの生徒が集まっていた。
ある者は声を潜め、ある者は禁じられた噂に対する歪んだ興奮を隠そうともしていない。
「ダグラス公爵が皆殺しにしたらしい……子供まで」
「いや、雷の魔女と呼ばれた奥方だ」
「どっちにせよ……あの一族には近づかない方がいい」
ルシアンは視線を落とした。
右腕を三角巾で吊り、もう一方の手を外套のポケットに突っ込んだまま、ゆっくりと歩く。聞こえていないふりをしても、その言葉一つ一つが、冷たく鋭い刃となって皮膚の下に突き刺さった。
集団の恐怖の声は、自分の姓が乗るとき、まったく違う重みを持つ。
学院の塔の上空は、琥珀と紫に燃えていた。
黄昏の光が本館のステンドグラスを黄金に染め、風が乾いた落ち葉を大理石の階段へと運ぶ。ルシアンは立ち止まり、ゆっくりと息を整えた。
光は彼の顔で砕け、二つの半身に分ける――クーリアで生まれた自分と、もはや存在しない世界から引きずられてきた自分。
空気が変わった。
予兆――抑え込まれた電気のような緊張が、壁の内側を走る。
デニッセ家は滅びた。
それと共に、王国の力の均衡も崩れた。
ルシアンは、背筋が凍るほどの明晰さで理解した。
歴史が、動き始めている。
どれほど距離を取ろうとも、彼はその流れの中にいた。
呪われた血を継ぐ者。
魔力の大きさで命の価値が量られる世界における、一人の相続者。
彼は一瞬、目を閉じ、風のざわめきに周囲の声をかき消させた。
そして、炎に刻まれた呪文のように、単純で剥き出しの思考が形を取る。
――生き延びろ。
――ただ、生き延びればいい。
真実の代償
アルデノール王宮 ― 玉座の間
将軍スティーブ・アーカムの軍靴の反響が、大理石の床に重く響いた。
彼は玉座の前まで進み出ると膝をつき、埃と乾いた血に汚れた外套をそのまま垂らした。
「陛下」
低く重みのある声で告げる。
「北方での作戦は完了しました。デニッセ家はダグラス家の軍勢によって捕縛されています。主流・分家の区別なく、反逆罪の容疑で拘束中です。裁きはこれからとなります」
王フェリペは黙したまま将軍を見つめていた。
その眼差しは、幾多の戦をくぐり抜け、勝利よりも高くつく代償があることを知る男のものだった。
「……証拠は?」
唇をほとんど動かさずに問う。
アーカムは封印された小箱を差し出した。
「帝国の金貨が詰まった箱、白き竜の紋章で封じられた文書を発見しました。北方を不安定化させ、内乱を引き起こすための直接命令です。
それから……名前もありました、陛下。他にも関与した貴族家の名が」
ざわめきが、炎の走るように廷臣たちの間を駆け抜けた。
王は封印を破り、文書に目を通す。行を追うごとに、その表情は硬くなっていった。
「土地を与え、栄誉を授け、王冠の庇護を与えた……」
怒りを抑えきれず、声が震える。
「それで、この仕打ちか! 自らの巣を敵に売り渡す、下劣な鼠め!」
拳が玉座の肘掛けを叩き、衝撃音が柱に反響した。
「連れて来い!」
衛兵たちが囚人を引きずるようにして、広間の中央へと連れてきた。
末子の継承者、クレイグ・デニッセは立っているのがやっとだった。顔は煤と涙で汚れている。
「陛下!」
膝を突き、叫ぶ。
「私は何も知りませんでした! 誓います! 父がすべてを隠していたのです……学院から連れ出された時には、もう手遅れで、何もできなかった!」
フェリペは、血が凍るほど静かな視線で彼を見下ろした。
「それが真実かどうか……すぐに分かる」
王はサングス神殿の僧を呼ぶよう命じた。
侍従たちがいくつかの松明を消し、やがて広間には聖なる香の匂いが満ちる。
赤い法衣に黒い仮面を纏った僧たちが行列を成し、真実の神サングスの小像を掲げて入場した。
像は召喚陣の中央に据えられ、僧たちは古語で詠唱を始める。
床のルーンが黄金色に輝き、空気は重く張り詰めた。
まるで玉座の間そのものが、息を止めたかのようだった。
「アンマスクを開始せよ」
大僧正が命じる。
最初に問われたのは、裏切り者の公爵の長子――ロレンツォ・デニッセ。
光に包まれ、少年の身体は小刻みに震えていた。
王は低く、ほとんど慈悲深い声で問いかける。しかし、その一語一語には刃があった。
「答えよ、ロレンツォ……父の蛮行を知っていたな?」
ロレンツォは喉を鳴らした。
「は……はい、陛下……ですが、私は……被害者です。父に強要されただけで、望んでなど――」
言葉は、最後まで届かなかった。
陣の光が赤く染まり、引き裂くような叫びが静寂を破る。
ロレンツォは床に倒れ、痙攣するようにもがいた。サングス像から、冷たい光が漏れ出す。
魔術は、嘘を見抜いたのだ。
居並ぶ貴族たちは、恐怖に後ずさった。
王は視線を逸らすことなく、恐ろしいほど平静な声で呟く。
「……ならば、もはや語るべきことはない」




