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「迫り来る戦争(ガレア・インミネンテ)」

ローレンス公爵の軍勢は、すでに出陣の準備を整えていた。

信頼厚い将軍――アレフ・ダグラスが公爵の前に進み出て、全軍が即応可能であることを報告する。


ローレンスは状況を鋭い眼差しで見極め、迷いなく命令を下した。


「直ちに進軍を開始せよ」


デニッセ領までの行軍は、およそ二週間。

その間、どんな異変にも即座に対応できるよう、すべての兵に最大限の警戒が求められた。



一方その頃――

ヴァイレンシティの街では、エドワード、リチャード、そしてケイタロウが、目を覆いたくなる光景を前に凍りついていた。


黒いローブをまとった男たちが、無数の死体を積み上げ、炎の魔法で焼き払っていく。

子供も、女性も、男も――数分で姿を消していった。


生き残った者たちは、口を揃えて証言する。

「死の直後、必ず悪魔が現れた」と。


「……これは、ただの疫病じゃない」


エドワードが歯を食いしばり、低く呟く。


「人々を生贄にして、悪魔を召喚しているんだ」


三人はケイタロウの空間転移を使い、

エルクハム家が密かに管理する森の拠点へと移動した。


無謀に姿を晒すことなく、

どうすればこの大虐殺を止められるのか――

その策を練るために。



その頃、学院では――

魔女部門の決勝戦が始まっていた。


ロキシー・ブリッグス vs イザベラ・アーメット。


ロキシーが召喚したのは、燃え盛る炎の海。

灼熱の奔流が、地を這うように迫る。


対するイザベラは、巨大な風の竜巻を展開。

炎を吸い込み、拡散し、空に壮麗な光景を描き出した。


イザベラは、寸分の狂いもなく四本の風槍を放つ。

ロキシーは炎の壁で迎え撃つが、

竜巻に支えられた槍は勢いを失わず、鋭さを保ったままだ。


灼熱と暴風。

ロキシーは自身の炎のマナを使い、防御に徹するしかなかった。


やがて――

二人の魔女は、限界まで消耗する。


最後の力を振り絞り、ロキシーは必死の火球を放つが、

その瞬間、教師クララが介入し、勝敗を告げた。


「勝者――ロキシー・ブリッグス!」



その戦いを見つめていたエミリーは、思わず息を呑んでいた。

圧倒的な魔力の応酬に、身体が強張る。


そこへ、ルシアンが近づき、

彼女の頭をそっと撫でる。


「……いつも、俺の試合を見に来てるのか?」


驚いたように、エミリーが見上げた。


「ただ、君が怪我しないか心配でね」


ルシアンは穏やかに答える。


「仲間の無事は、大事だから」


その言葉に、エミリーの胸は温かくなった。

――彼の本当の理由を、まだ知らないまま。



再び前線へ――


ローレンス公爵軍は、デニッセ領を進軍していた。

一歩進むごとに、緊張は増していく。


悪魔とカルトの噂は、

無数の死体と、生存者の証言によって現実となっていた。


リチャードとエドワードは、

ケイタロウを導きながら情報を集めていく。


やがて、森の開けた場所で――

最初の悪魔との戦闘が勃発した。


魔力の火花が散り、炎と雷が空を裂く。


ケイタロウは正確な空間跳躍で兵士たちを転移させ、

敵の攻撃を回避。


エルクハム家の戦士たちは、防衛線を死守する。


一つ一つの戦闘が、

持久力と戦術を試す試練だった。


そして――

時間は、容赦なく迫っていた。



その頃、学院の闘技場では――

再び別の戦いが始まろうとしていた。


コンウィック・ブリッグス vs カスパー・ボーランス。


誇りと因縁がぶつかる一戦。


コンウィックは、進化した金属形態を解放し、

圧倒的な力と防御力を誇示する。


だが、

最近の修練を思い出しながら、

カスパーは冷静に攻撃を捌き、的確に打ち返していく。


そして――

決定的な一撃。


金属の防御を貫き、

コンウィックは戦闘不能となった。


観客席は歓声に包まれる。


だが――

ルシアンとエミリーは、ほとんどその声を聞いていなかった。


闘技場の外で、

本当の戦争が、すぐそこまで迫っていることを――

二人は、肌で感じていたのだから。


週の終わり、リチャードは国王の前に立ち、デニッセ家についての報告を行った。

トマス伯爵と悪魔崇拝の教団との同盟、そして悪魔召喚のために行われている大規模な市民の生贄――そのすべてが事実であると確認された。


この脅威を前に、国王は即座にすべての貴族へ召集をかけ、同盟の結成を宣言した。


「……もう終わりか?」

不安そうにケイタロウが尋ねる。


「今のところはな」

リチャードは頷きながら答えた。

「どうした? やけに急いでいるな」


「アイリスが妊娠している。そばにいてほしいと言われたんだ」

ケイタロウは真剣な表情でそう告げた。


リチャードは一瞬だけ目を細め、それから優しく笑った。

「行ってこい、坊主。兵士でいる限り、“次”があるとは限らないからな」



ローレンス公爵軍がデニッセ領へ進軍する一方で、

学院ではトーナメントが最終局面を迎えていた。


闘技場では、ルシアン、アンドリュー、そしてジャン・ザ・モンドリングが、

最後の準決勝進出者を見極めようと視線を注いでいた。


カラは闘技台に堂々と立ち、

相手――アレハンドロを見下ろすように睨む。


「今回は、前みたいにすぐ降参しないでくれるといいけど?」

挑発的な声音。前回の敗北を、わざと掘り返す。


アレハンドロは深く息を吸い、剣の柄を強く握りしめた。

あの屈辱は、今も鮮明に脳裏に焼きついている。

――だが、もう同じではない。


「……俺を甘く見るな」

声は震えなかったが、心臓は激しく脈打っていた。


戦いは、爆発的な速度で始まった。


カラは連続した鋭い打撃を放つ。

その一撃一撃には微細なマナの光が宿り、軌道を読むことすら難しい。


アレハンドロは炎を纏った剣で必死に防ぐ。

熱が手首を焼き、腕全体に走る。

金属同士の衝突は、骨に直接響くような衝撃だった。


カラは疾風のように動き、

アレハンドロの反撃を正確にかわしていく。


汗が額を伝う。

――本当に、追いつけるのか?

その疑念が、一瞬だけ胸をよぎる。


だが、立ち止まるわけにはいかなかった。


やがて、決定的な瞬間が訪れる。


カラは全マナを解放し、

広範囲を薙ぎ払う衝撃波を放った。


闘技台が揺れ、土煙が舞い上がる。


アレハンドロは反射的に、

炎の斬撃を放ち、正面からぶつけた。


閃光。

爆音。


二人は同時に弾き飛ばされ、

息を荒くしながら距離を取る。

闘技台には、細かな亀裂が走っていた。


アレハンドロの背中を汗が流れ落ち、

腕が小刻みに震え始める。


――マナの消費が激しすぎる。

決めるしかない。


最後の力を振り絞り、

背後からの奇襲に賭けた。


しかし――

カラは完全に読んでいた。


素早い回転で攻撃を弾き、

その勢いを利用して、アレハンドロを闘技台の外へ叩き出す。


落下の瞬間、右腕に走る激痛。

乾いた音が響き、骨が折れたことを悟った。


息が詰まり、立ち上がることすら困難だった。


審判がカラの手を高く掲げる。

勝者――カラ。


観客は息を呑み、そして歓声を上げた。


カラは荒い呼吸のまま、

汗で張り付いた髪をかき上げ、ルシアンを見た。


「次は――あんたよ」


「……くそ、どうしても超えられないのが腹立つ」

ルシアンは眉をひそめ、拳を強く握りしめた。


エミリーは静かに彼を見つめ、

そっと腕に手を置く。


「分かってるでしょ? 断れないって。学院の規則よ」


「分かってる!」

ルシアンは苛立ったように息を吐いた。

「分かってても、腹は立つんだよ……」


エミリーは微笑み、

緊張を和らげるように髪を耳にかける。


「でも、その分――しばらく休めるわ。

もうすぐ、各貴族は領地に戻るんだから」


ルシアンは少し驚いたように顔を上げ、

肩の力を抜いた。


「……そうだな。しばらく会えなくなる」


「うん。八か月くらい」

エミリーは一歩近づき、彼の腕に触れた。

「ダグラス領に戻ったら……私の領地に、来てくれる?」


ルシアンは深く息を吸い、

一瞬だけ目を閉じる。


「もちろん。できるだけ早く行くよ」


そう答えながら、彼の脳裏には、

やがて訪れる世界を変えるほどの破滅的な災厄の影がよぎっていた。



続いて行われたのは、

魔女部門第一試合――

エリザベス vs カテリーヌ・ザ・モンドリング。


雷と水が激突し、

最終的にエリザベスが勝利を収める。


そして、エミリー vs ロキシー。


緊張を抑え、

エミリーは〈ルシディウム〉を展開。


光の障壁がすべての攻撃を反射し、

最後はロキシー自身を打ち返した。


勝者――エミリー。


ルシアンは誇らしげに歩み寄り、

彼女の肩に手を置いた。


「少し休め。マナを使いすぎた。でも……よくやった」



一方、デニッセ領――

不穏な黄金色の夕陽が、大地を照らしていた。


ローレンスとダグラス軍が野営地を築き、

軍の魔導士たちは警戒用の結界を展開する。


ソフィアは魔獣に跨り、

陣地の周囲を巡回しながら、

マナの流れと伏兵の兆候を探っていた。


――戦争は、すでに始まっていた。

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