「戦い」
ルシアンが手を伸ばすと、
彼の周囲に――十七個の闇色の魔力球が次々と具現化した。
全身が張り詰める。
摂取したバジルコの肉は、いまだ彼の魔力核を強化し続けていた。
力が、血管の中を奔流のように駆け巡るのを感じる。
アルベルトは片眉を上げ、楽しげに笑った。
「ほう……面白い。
どれほど成長したのか、見せてもらおうか」
間を置かず、ルシアンは魔力球を一斉に放ち、正面から踏み込んだ。
衝撃で空気が震える。
だがアルベルトは、片腕を軽く振っただけでそれを受け止め、余裕の笑みを浮かべる。
――次の瞬間。
ルシアンは、新たに編み出した魔法を起動した。
闇のマナで構成された一本の剣が、
意思を持つかのように彼の周囲を螺旋状に回転する。
アルベルトが破壊しても、
それは即座に再構築され、あらゆる角度から襲いかかった。
範囲型・持続攻撃魔法。
尽きることのない、連続攻撃。
アルベルトは目を細め、ついに本気の色を見せる。
「……なるほど。
これが、お前の新作か。実に興味深い」
三十分もの間、訓練場は閃光と金属音に満ちた。
アルベルトは回避し、防ぎ、反撃する。
だがルシアンは止まらない。
一撃ごとに速く。
一撃ごとに正確に。
そして――一撃ごとに、必死に。
やがて、ルシアンのマナは尽きた。
魔法は崩壊し、
彼の身体は膝から崩れ落ちる。
荒い息をつきながら。
アルベルトは、相変わらずの笑みを浮かべたまま、ゆっくりと近づいた。
「実に面白い魔法だ」
純粋な好奇心を宿した目で、彼を見下ろす。
「なるほどな。
森で剣を実体化させ続けていた理由は、それか」
ルシアンは悔しそうに息を吐いた。
「……ああ。でも、失敗だ」
「一度も、触れられなかった」
「アニメで見た魔法を再現しようとしたんだ。
魔導師が、何百本もの剣を生み出すやつ」
「……俺が作れたのは、一本だけ」
アルベルトは腹を抱えて笑った。
「その奇妙な魔法、ぜひ続けて磨け」
「ジーンが万全だったら、その真価を見せてやれたんだがな」
「おめでとう、坊主。
なかなか楽しい時間を過ごさせてもらった」
力尽きたルシアンは、床に倒れたままのジーンの隣へと身を投げ出した。
「……調子はどうだ?」
かすかな笑みを浮かべて問いかける。
「もう、起き上がれそうか?」
ジーンは天井をぼんやりと見つめたまま答えた。
「無理。今日はここで一日過ごすと思う」
「でも……訓練は見てたわ」
「あなたのあの魔法……正直、怖い」
「本当に?」
ルシアンは眉を上げる。
「そこまで大したものには、見えないけど」
ジーンは弱々しく微笑んだ。
「魔導師相手なら、そうかもね」
「でも、剣士相手なら――悪夢よ」
「あれじゃ、近づく前に切り刻まれる」
ルシアンは黙り込み、考え込んだ。
やがて、冗談めかして言う。
「なるほど……」
「じゃあさ。
俺も一日中、ここで一緒に寝転んでてもいいか?」
ジーンは楽しそうに彼を見る。
「あなたも、脚の感覚がないの?」
ルシアンは諦めたようにため息をついた。
「……ない」
「くそ、アルベルトめ」
ジーンは小さく笑い、
数秒の沈黙の後、声を潜めて言った。
「ねえ……一つ、お願いがあるんだけど」
「いいよ」
ルシアンは目を閉じたまま答える。
「お願い一件につき、十セントな」
ジーンは、かすかに笑った。
「イザベラのこと」
「今回の件で、すごく不安がってる」
「……助けてあげられない?」
ルシアンはゆっくりと目を開き、考え込む。
「正直、俺にはできることは少ない」
「父との関係は、最悪だからな……」
「でも、母には話せる」
「彼女なら、介入できるかもしれない」
ジーンは、小さく頷いた。
その瞳に、わずかな希望を宿して。




