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「アーメット邸」

その頃、王都の反対側では――

アーメット邸が、不安と焦燥に包まれていた。


ノア・アーメット伯爵は一族全員を大広間に集めていた。

蒼白な顔。震える声。

空気は恐怖で満ちている。


ベンジャミンは妹の方へ振り返り、絞り出すような声で言った。


「イザベラ……頼む、嘘だと言ってくれ。

あの手紙を書いたのが、お前じゃないって……」


喪服に身を包んだイザベラは、ゆっくりと顔を上げた。

その手は、かすかに震えている。


「違うわ、ベン……私じゃない」

「でも、魔導師たちは言ってる。

封印も、筆跡も、本物だって……誰かが私を真似たの。

私たちを――滅ぼそうとしている誰かが」


ベンジャミンは髪をかき乱し、歯を食いしばった。


「ダグラス家は、もう話を聞く気はない……

戦争が始まれば、俺たちは生き残れない」


イザベラは拳を握りしめ、涙を必死に堪えながら言った。


「だったら、私が必ず見つける……

これを仕組んだ犯人を。

この名にかけて、必ず」


その瞬間、大広間の灯りが不気味に揺らめいた。

そして外では、王国の使者たちが正式に告げていた。


――ダグラス家とアーメット家の開戦を。



回廊の大きな窓から差し込む陽光が、

ダグラス家の紋章を描いたタペストリーを黄金色に染めていた。


外では、剣が打ち合う金属音、

魔獣の蹄が地を叩く重低音が響いている。


公爵領は、静かに、だが確実に――戦争への準備を始めていた。


兵士たちは中庭で鍛錬に励み、

魔導師たちは強化魔法を詠唱し、

鍛冶師たちは休むことなく炉に向かう。


すべては、ソフィアの厳重な指示のもとで行われていた。



一方、東棟の一室で、ルシアンは遅れて目を覚ました。


身体は森での疲労を引きずっていたが、

心はそれ以上に落ち着かなかった。


――静けさが欲しい。

せめて、思考を整理する時間が。


そう決めると、彼は剣を手に取り、訓練場へ向かった。


扉を開けた、その瞬間――

思いもよらぬ光景が目に飛び込んできた。


床に倒れている一人の少女。

その傍らで、アルベルトが腕を組み、

楽しげで残酷な笑みを浮かべて大笑いしていた。


「おや、遅かったな、ルシアン」

アルベルトは肩をすくめる。

「訓練相手を呼んでいたんだが……どうやら、もう無理そうだ」


ルシアンは眉をひそめ、倒れている人物を見て息を呑んだ。


「……自分の姪にすら、情けをかけないのか。

この悪魔め」


怒りを抑えた声で吐き捨てる。


アルベルトは低く笑った。

そこに、後悔の色は一切ない。


「それが、俺なりの愛情表現だ」


その皮肉な口調が、

彼の歪んだ本性を雄弁に物語っていた。


ルシアンはしゃがみ込み、少女――ジーンを見つめる。


「大丈夫か?」


ジーンは汗に濡れた顔で、かすかに微笑もうとした。


「……脚の感覚が、ないの……」


「心配するな。一時的なものだ」

「エネルギーを使いすぎただけだよ」


ルシアンがそう告げると、

アルベルトが一歩前に出て、意地の悪い笑みを浮かべた。


「で、お前はどうする?」

「慰めに来ただけか?

それとも――俺とも、訓練する気か?」


ルシアンは拳を強く握りしめた。

アルベルトと向き合う時が、いずれ来ることは分かっていた。


深く息を吸い、剣を抜く。


「……いいだろう」

「口先だけじゃないところを、見せてもらう」

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