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王都への旅

異議を唱える余地はなかった。

王都魔導学院の年次課程が、間もなく始まろうとしていたからだ。


ソフィアは本心では、息子を公国の保護下に置いておきたかった。

だが、公爵夫人は理解していた――これは政治的に避けられない行為だ。


貴族たちは毎年、四か月間王都へ赴き、

教育を受け、そして王冠への忠誠を示さねばならない。


その後、各自の領地へ戻る。

ダグラス公国は王国経済の要であり、

収穫の監督、

そして森に満ちる濃密なマナから溢れ出す

魔獣の繁殖期と大移動に対処しなければならなかった。


だが、本当の問題は官僚制度ではない。

運命だった。


王国の心臓部で、

ルシアンは必然的に彼女と再会する。


――エミリー。

光の聖女となる少女。

そして、彼の胸に剣を突き立てる運命の女。


事態は切迫していた。

学院の開始日。

そして、彼を内側から食い尽くそうとする

ダグラス家の分裂。


残された時間は、わずか一か月。

ルシアンは、自分が断頭台へと引きずられていく感覚を覚えていた。


旅立ちは避けられなかったが、

その編成は予想外だった。


ルシアンは反射的に、

公爵ローレンス専用の

豪奢な主馬車へ向かおうとした。


だが、

絹羊毛の外套を纏ったソフィアが、

わずかな仕草で彼を制した。


「私と一緒に乗りなさい、ルシアン」


旋律のように柔らかく、

しかし一切の拒絶を許さぬ声。


彼は記憶を辿るまでもなく理解した。


――これは、宣言だ。


ローレンス公爵は、

愛妾マーサと、その息子ケイレブと共に旅をする。


父に最も寵愛される、腹違いの弟。


一方、

王命によって公爵夫人の座にあるソフィア――

オメガ級の親和を持つ、

ダグラスの血に選ばれた女――は、

正統な後継者と共に行く。


家族は、

旅路においてすら、

二つの陣営に分かれていた。


随行する戦力は圧倒的だった。


アルベルトとガレットの指揮の下、

五百名の兵士と戦士が進軍する。


モニカ――

ソフィアの個人補佐官も、

同じ馬車に同乗する。


この布陣を見て、

ルシアンは皮肉に思った。


(盗賊も魔獣も、震えるだろうな。

……軍隊で旅をしているようなものだ)


彼は母に従い、

より控えめな馬車へ向かった。


扉に刻まれたのは、

複雑な防護ルーン。


中へ入った瞬間、

思わず目を見張る。


天鵞絨の座席。

彫刻された魔晶ガラスを通して差し込む、柔らかな光。


――そして、

馬はいなかった。


「……この世界の技術は、少し違うな」


床下で輝く

マナ・コアを見つめながら、ルシアンが呟く。


「応用魔導よ、我が子」


ソフィアは静かに腰を下ろした。


その存在だけで、

この快適さの理由が理解できる。


彼女こそが、

王国最強の女。


血統により選ばれた、

ダグラス家の要。


そして、

ローレンス公爵が軽蔑し、

愛妾マーサを露骨に贔屓した理由でもある。


馬車は、

音もなく道を滑った。


静かなマナの流れに押され、

一週間の旅路は、

まるで数日のように過ぎていく。


ルシアンは、ほとんど疲労を感じなかった。


だが、

距離が縮まるたびに、

運命は確実に近づいていた。


――王都。

――学院。

――エミリー。

光の聖女。


自分を殺す女。


彼は、

沈む夕日を眺めながら思った。


(……面倒な未来ばかりだ)


それでも、

逃げ道はもうなかった。

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