「人喰いの家」
村の反対側では、エンゾはダマリスや百人以上のロード魔導師たちと共に最前線で戦っていた。
彼らは必死に耐えていたが、呪文は無慈悲に力を奪い続ける。
光の魔法を使える者は誰もおらず、呪文の源も見つけられなかった。
そのとき、死者の山をかき分けて、一つの姿が現れた。
ルシアンだった。
そして彼の背中には、まるで世界が足元から崩れ落ちるかのように、エミリーがしがみついていた。
「エンゾ!」
ルシアンが叫ぶ。
「エミリーが呪文の源を見つけられる!」
エンゾは、永遠に息を止めていたかのように深く息を吐いた。
「完璧だ。エミリー…見せてくれ」
エミリーは目を閉じ、周囲に流れる穢れた魔力を感じ取る。
「呪文は…村の中心に近い。以前は弱かったけど、今は腐敗したマナに完全に覆われている」
エンゾは厳しい顔で頷いた。
「ルシアン、アデラ、アデル。クララ先生を探せ。あの印を解除できるのは彼女だけだ。急げ!」
命令は瞬く間に伝わり、ダマリスが防衛を任される中、エンゾは五十二人の師匠たちと共に呪文の発生源へ進軍した。
広場は闇に包まれつつあった。
エミリーは迷わず、行政官の邸宅を指さす。
「ここよ」
迷いはなかった。
エンゾは剣を掲げる。
「突入する」
だが、家が彼らを飲み込んだ。
門をくぐるや否や、凄まじい待ち伏せが襲いかかる。
一撃でエンゾは建物の外へ弾き飛ばされた。
師匠があっさりと退けられる光景は、味方の心を凍らせた。
一瞬の沈黙は、戦場の騒音よりも重かった。
しかし、やがて一人が咆哮し、他の者たちも続いた。
残りのマナを集中させ、呪文の雪崩を放ち、壁や屋根を打ち破り道を切り開く。
エンゾは瓦礫の中から立ち上がった。
口元には血、瞳には怒りが燃えている。
その瞬間、学園の安穏に甘えていた自分を悟った。
「もう二度と…」
剣に純粋なマナを宿し、暴風の如く前進する。
カルト信者たちを斬り倒し、追随する味方たちは魔法ではなく、戦士として戦った。
そのとき、カルトの指導者ジェルゲスが本当の手を打った。
神聖を冒す熱意に満ちた声で、長年準備された死体を起動させた。
それは村長の妻の遺体で、腐敗したマナで徹底的に汚染されていた。
この儀式は即興ではなく、過去の戦争で集められた戦士の死体、魔力の欠片、そして血の印が長年待ち続けていた成果だった。
現実の織り目に亀裂が走る。
遺体から、冥界の幽霊が現れた。
リッチだ。
錆びた剣を握り、かつての戦士から奪った武器で、直接エンゾに襲いかかる。
大地のマナで体を硬化させていたが、それでも衝撃に耐えるのがやっとだった。
彼が弱まると、他の師匠たちは次々と倒れ、まるで敗北の盤面が傾くようだった。
その時、ルシアンがクララ先生、アグスティン、数人のロード師匠を伴って乱入した。
クララは状況を一瞬で理解し、迷わず前へ進む。
そこにあった光景は、悪夢そのものだった。
血にまみれたエンゾが膝をつき、
足元は即席の墓場と化し、
抵抗しようとした者たちの遺体が横たわる。
アグスティンは考える前に盾で一撃を防ぎ、エンゾを救った。
ジェルゲスは増援を見て呪文の雨を放ち、リッチに道を開かせる。
力を温存したいが、円を破壊させるわけにはいかない。
数メートル先で、エミリーは手を合わせ、光を集中させて封印を破ろうとしていた。
ルシアンはウムベルに乗り、嵐の中から迫るさらに恐ろしい存在を感じていた――飢えた獣のような気配。
クララが杖を掲げる。
天が応えた。
激しい雷撃がカルト信者を打ち、雨がその力を増幅させ、水は体を貫き、守りを崩す鞭となった。
弱体化にもかかわらず、その威力に驚いたジェルゲスは、全力で対抗し、広範な魔法戦を仕掛ける。
リッチはその隙を突いた。
振り上げた剣でクララに襲いかかる――一瞬で貫かんとする勢いで。
「ウムベル!」
ルシアンが叫ぶ。
魔獣は力を解放する。
黒い球体がクララを包み、リッチの攻撃もジェルゲスの呪文も吸収する。
轟音が戦場を揺るがすが、クララは生き延びた。
ルシアンはウムベルを前線に叩き込み、嵐に乗る影の如く駆ける。
出発前に、双子とアウレウスにエミリーの護衛を命じ、カラとイザベラはルシアンの側で護衛に徹する。
ウムベルは古の戦獣のように敵陣を切り裂き、暗黒のオーラで騎手も守る。
この速度では魔法を精密に使えなくても、必要はなかった。剣が敵を次々と薙ぎ払う。
ジェルゲスは強力な呪文で止めようとする。
だがクララが許さない。
電撃の球体が彼を囲み、防御を粉砕し、後退を強いた。
その隙に、ルシアンはリッチに迫った。
そして、疲れ果てながらも決意を示すエミリーが、高度な光の呪文を放つ。
全てを捧げ、聖なる槍の如き雷が天から降り注ぎ、魔法陣を直撃した。
封印は砕け、
爆発した。
弱体化の影響は、一瞬で消え去った。
カサンドラは黄金の鷲に乗り、戦場を支配する存在へと変わった。彼女のサラマンダーは空高くから炎を吐き、村の入り口付近の敵を焼き尽くす。
アランは力の復活を、激しい目覚めのように感じた。剣は純粋なマナで燃え、ひと振りで対峙した敵の魔導師を貫いた。
ジェルゲスは雷鳴の余韻に絶望を乗せて叫ぶ。
「耐えろ!召喚完成まであと三十五分だ!」
「儀式を妨害すれば…我々は皆、絶滅する!」
信者の一人が蒼ざめ、息を切らしながら答える。
リーダーは両手を掲げ、召喚陣が紫の光を放つ、まるで冒涜の心臓のように燃える中で叫ぶ。
「地下室に近づかせるな!!必要なら喉を噛み切れ!!儀式は続行されなければならない!!」
カルトの信者たちは地下への入り口前に再集結し、必死の身体の壁を作る。
空気は邪悪なエネルギーで震え、地面は魔法の爆発ごとに轟き、負傷者の悲鳴は呼び出された魔物の咆哮にかき消される。
戦いはもはや、村だけのものではなかった。
それは、死よりも恐ろしい何かが、この世界に入り込むのを阻止する戦いだった。
エンゾとアグスティンは、怒りに身を任せてカルトの列に突入した。
弱体化の封印が破られ、二人の力は完全に解放される。
雨と炎の間を稲妻のように駆け抜け、燃えるマナの剣で敵を切り倒す。
だが、地獄のような存在の前では、その力さえも十分ではないように思えた。
リッチは圧倒的に進軍し、一歩ごとに周囲の空気を歪める。まるで現実そのものがその存在を拒絶しているかのように。
エンゾは黒い剣が振り下ろされるのをほとんど反応できずに受けた。
迷う間もなく、彼はアグスティンの前に身を挺した。
衝撃は防御を貫き、側面を裂く。
「エンゾ!」
アグスティンが怒りの咆哮をあげる。
仲間の犠牲を利用し、魂の限界までマナを集中させ、半分は痛み、半分は勝利の叫びで、不死者の光る核を貫いた。
リッチの体は痙攣し、幽霊の嘆きが村を駆け抜けた後、炎に包まれて灰と破れた悲鳴となって消え去る。
一瞬、勝利のように思えた。
しかし、その勝利は鼓動一つで消えた。
操り人形を失った怒りに震えるジェルゲスは、血塗られたルーンを手に掲げる。
「俺が倒れるなら…お前も道連れだ!」
狂気に満ちた声で自爆の印を発動する。
地面が轟く。
その瞬間、ウムベルは古の獣のように反応した。
暗黒のオーラで全身を覆い、必死の跳躍でルシアンをその影に覆い隠す。
爆発が二人を飲み込む直前だった。
轟音により二人は空中へ投げ出され、人形のように転がった。
ルシアンは即座に意識を失い、
焦げた毛と裂けた肉のウムベルは、辛うじて立ち上がる。
体は瀕死ながらも騎手を背に乗せ、片足を引きずりながら戦場を離れた。
その後ろには、血の跡が石畳に黒く残る。まるで命が一歩ごとに溶け出していくかのように。
衝撃波は戦線全体の均衡を崩す。
信者たちは倒れ、呆然と立ち尽くす者も多く、儀式はぐらつき始める。
「南側の円が崩れた!」
一人の従者が叫ぶ。
「他のポイントを補強しろ!ポータルが不安定になれば、全員死ぬぞ!」
別の者が恐怖に駆られ答える。
ジェルゲスは地下に突入し、傷と埃にまみれ、目を見開いて叫ぶ。
「包囲されている!今すぐ撤退だ!」
「なぜ押されている!?」「もう一度地面が揺れる中、信者の一人が問いかける。
「光の魔導師が弱体化の封印を破ったのだ!今や奴らは以前よりも強い!」
ジェルゲスが吐き捨てる。
「でも儀式が失敗すれば、高位評議会に処刑される!」
従者の一人が呻く。
「ここに留まれば、どうせ死ぬ!逃げる方がましだ!」
ジェルゲスは石の祭壇を叩きながら吐き捨てた。
アグスティンは階段を降り、瓦礫をかき分け、災厄から現れた巨人のように進む。
血にまみれた鎧、燃えるような鋼の視線。
信者たちは阻もうとしたが、天井の一部が崩れ、数名を押し潰し、他の召喚円を崩壊させる。
外では雷が絶え間なく落ち、嵐の中に隠れた十人の魔導師が建物を容赦なく攻撃していた。
クララは離れた場所から見守る。
雨に打たれ、顔は険しい。戦いはもはや軍事防衛の枠を超えていた。
これは学園そのものの魂を賭けた戦いだった。
アグスティンはジェルゲスの首を掴み、石壁に叩きつける。
「話せ。計画は何だ?」
低く唸る声で問い詰める。
ジェルゲスは血の味を伴いながら息を切らして答える。
「殺さないと約束するなら…話す…」
アグスティンはさらに力を加える。
「今すぐ話せ。さもなければ、死を望むことになる」
ジェルゲスは目を閉じ、崩れ落ちる。
「学園への襲撃は陽動…学生をここに誘き寄せるためだった。リーダーは悪魔召喚を命じた…高位の悪魔を呼び出すつもりだ…冥界の伯爵を」
クララは階段を降り、厳しい表情で近づく。
「そんな狂気じみた儀式に、どんな意味が…?」
「一万人の人間の魂…学生、子供でも十分だ。他に四箇所の召喚点がある。生かしてくれれば導ける…」
ジェルゲスはかすれた声で囁く。
雨のように重い沈黙。
クララは拳を握る。
指先に小さな稲妻が踊る。
「狂人ども…子供を犠牲にして欲望を満たす?一歩も許さない」
その間、戦場の中心から離れた場所で、ウムベルは血まみれの体で雨の中を駆ける。
傍らにアウレウス、双子、カラ、イザベラ、エミリーが影とアンデッドの間を切り開く。
ルシアンの意識はなく、ウムベルの背に乗せられている。
カラとアデルが追跡者と戦い、イザベラは風の刃で雨を切り裂き道を作る。
アデラはアウレウスに乗り空から護衛。
エミリーはルシアンの体を抱え、残った少ないマナで生命を維持していた。
ウムベルの体が震え、歩みは鈍く、呼吸は荒くなる。
ついに泥に膝をつき、疲れ果て倒れる。
エミリーはすぐに降り、彼の傍に跪く。
ルシアンの頭を膝に置き、手に青白い微光を宿す。
その光は存在する許可を乞うかのようにかすかな輝き。
「耐えて…お願い…耐えて…」
壊れた声で囁く。
癒しの呪文は最後のマナと共に消えた。
雨は降り続き、血を土に流し込む。
雷鳴は遠くで戦の太鼓のように鳴り響く。
戦いはまだ終わらない。
だが、生き残るための真の代償は、ようやく姿を現し始めた。
戦場は炎、鋼、咆哮の混沌。
衝撃と魔法の衝突で空気が振動する。
アランは必死に立っている。息は荒く、体のマナは夜明けに抗うろうそくのように消耗していく。
目の前で、悪魔教団のリーダーがうなり声をあげ、暗黒の力で剣を掲げる。
アランは、死のみが与える覚悟で理解する。
もし倒れれば…王子たちが次に犠牲になる。
「…失敗できない…」
歯を食いしばりながら呟き、再び襲いかかる剣を防ぐ。
敵が止めを刺す構えを取った。
その瞬間、風を切る笛の音。
黄金に輝く槍が、カルトのリーダーの頭を貫き、儀式のような厳粛さで倒れる。
馬が雷のようにアランの横を駆け抜け、泥・塵・血を巻き上げる。
騎手は正確無比に回転し、一振りで敵を倒す。
その後ろで、黄金の獅子が煙の中から現れ、魔導師に襲いかかり、嵐の力で頭を打ち砕く。
アランは見上げた。
ソフィア・ダグラス公爵夫人が到着した。
自然の力のごとく前進する。
鎧は雨の中でも輝き、視線は揺るがず、存在そのものが荘厳で冷徹。
混沌の中に深い静寂を生む。
彼女はアランの前で立ち止まった。
「何があった?なぜここに?」
アランは息を整え、息を切らす。
「公爵夫人…光栄です。学園が怪物の襲撃を受け、学生を避難させようとしましたが、悪魔教団に待ち伏せされました。状況は…非常に危険です」
ソフィアは眉を寄せ、赤く染まる地平線を見る。
本能が告げる。これは、より恐ろしいことの前触れに過ぎない。
その瞬間、魂の振動を感じる。
断たれたウムベルとの絆を通して、そして…
ルシアン。
負傷、危険。
ためらわず。
遠くで、霧の中から騎兵の集団が突入する。
魔法生物に乗る二十人の戦士、ダグラス家の銀の旗を掲げる。
追いつこうとしたが、彼女の乗る騎獣は理性を超える速度。
ソフィアは残された者たちを置き去りにし、ある力に突き動かされる:
守ると誓った者を失う、原始的な恐怖。
騎兵は息を切らし、彼女の前で止まる。
ソフィアは手を上げ、森の縁に指をさす。
魔力が心臓のように腐敗して漂う場所。
「二手に分かれろ。見つけた信者を全て排除せよ」
騎兵たちは頷き、木々の間に消える。
獣たちが咆哮し、暗闇に呑まれていく。
ソフィアは鞭を打ち、森の中へ単身突入する。
風が顔を叩き、血の匂いが空気を満たす。
鼓動ごとに、心が叫ぶ場所へ近づく。
ルシアンがいる。
遠く、カサンドラは黄金の稲妻のように森を駆け抜けるソフィアを見た。
声をかけたくても出なかった。止める言葉はない。
ソフィアは光であり、嵐である。
何も彼女を止められない。




