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回廊とマナの狭間で

三日後――

部屋に閉じこもり続けることに耐えきれなくなったルシアンは、城内を歩いて回ることにした。


アンバーは吐息の温もりが感じられるほど近くを歩いている。

それは護衛なのか……それとも監視なのか。

その少し後ろを、アルベルトの娘であり、ソフィアの側近でもあるモニカ嬢が続いていた。

彼女は忍耐強く、ルシアンの一挙一動を測るように観察している。


「今度は俺まで監視か、モニカ?」

ルシアンは半笑いでそう言った。


モニカは眼鏡を直す。

わずかで、正確な動作。

そして、訓練された冷静さで答えた。


「監視ではございません、ルシアン様。監督です」

完璧な礼儀のまま、彼女は続ける。

「公爵夫人より、“再び問題を起こさないよう見張れ”と命じられておりますので」


「再び、だと?」

ルシアンは憤慨したふりをした。

「死んだのは一度だけだぞ。それを“問題”に数えるのはどうかと思うが」


モニカは一瞬、瞬きをした。

理解に追いつかない様子だった。


ルシアンは微笑み、歩みを進める。

壮麗な城の中で、かつての“本物のルシアン”の痕跡を探しながら。

飾られた戦利品、壁に掛けられた武器、輝くルーン文字の刻まれた書物。


(……この世界、あまりにも現実すぎる)


そう、心の中で呟いた。


日が過ぎ、やがてルシアンは一つの問題に突き当たる。

それは、彼を絶望の縁へと追い込むものだった。


ゲームで覚えている技や理論はいくらでもあった。

だが――決定的な隔たりがあった。


マナを、感じられない。


何度も試した。

皆が口にする“流れ”“振動”“脈動”を、自分の内側に探し続けた。

だが、そこにあったのは――沈黙だけ。


失敗を重ねるたび、彼の自信は少しずつ削られていく。

この王国において、マナを感知できないことは、

単なる不利ではない。


それは、死刑宣告だった。


胸の奥に広がる空白は、力の欠如ではない。

命の終わりを告げる静かな判決だった。


数日後、ソフィアは判断を下した。

心身の回復のため、領地の外へ出るべきだと。


彼らはスルインへ向かった。

小さく、温かみのある交易都市。


市場は活気に満ち、商人たちは荒れた声で品を呼び込み、

焼きたてのパン、治癒用の薬草、炙られた肉の香りが空気に漂う。

石畳の通りには、傾斜屋根と花で溢れるバルコニーを持つ木造家屋が並び、

子どもたちは馬や荷車の間を縫うように駆け回っていた。


交易と歓待を重んじるこの街には、歴史の気配が残っている。

低い城壁と、かつての侵略を耐え抜いた見張り塔。

夕暮れとともに灯る鉄製の街灯が、石畳に揺れる影を落とす。


近くにある同名の遺跡が、ルシアンの心をざわつかせた。

未知を探索する高揚と――

それが現実の危険であるという恐怖。


その時、不気味で奇妙な記憶が蘇る。


ゲームの中で、スルインは廃墟だった。

崩れ落ちた建物、壊れた防壁、巨大な魔物の爪痕。

目の前の現実とは、あまりにもかけ離れている。


安全な街。

清潔な通り。

恐れるものなど何もない日常。


だが、ルシアンの記憶には、

マップも、クエストも、試練も――すべてが残っていた。


(……これは、まだ存在しない未来だ)


その事実が、背筋を凍らせた。


彼が知っているスルインは、

これから壊される街だった。


現在の安寧と、記憶する破滅との落差が、彼を混乱させる。

通りの一つ一つ、角の一つ一つが謎に見えた。


――結末を知る者は、

まだ壊れていない現在で、どう振る舞えばいい?


未来を変えようとすれば、

その行動自体が、破滅を早めてしまうかもしれないというのに。

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"読んでいただきありがとうございます!コロンビア人ですが、日本のアニメや小説が大好きで頑張って書いています。翻訳ツールを使っての投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。"
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