「使い手と獣たち」
カサンドラは二人を訓練場へ案内した。ここで、彼女の特別なデモンストレーションが行われるのだ。
入ると、黒髪に黄色い瞳を持つ若い女性と、優雅な猫のような獣が目に入った。ルシアンを見るや否や、その女性は素早く近づき、跪いた。
「ようこそ、私の主。ここでお会いできるとは光栄です」
彼女の声には深い敬意が込められていた。
しかし、カサンドラ先生の声が鋭く響いた。
「アデラ・ダグラス、立ちなさい。ここはそういう場所ではありません」
アデラは毅然と答える。
「申し訳ありません、先生。しかし、未来のダグラス家の将軍として、主への敬意を示すのは私の務めです」
ルシアンは落ち着いた声で手を挙げた。
「ここでは必要ない」
アデラは従い、立ち上がる。
「かしこまりました、主よ」
カサンドラは訓練場の指揮を取り戻すと、ルシアンを真剣な眼差しで見た。
「さあ、ルシアン。ここで君の獣の扱いを見せてもらう」
彼女は正確に説明を始める。
アルファ、ベータ、ガンマの使い手は一生一匹の獣と絆を結ぶ。
デルタとイプシロンは二匹まで。オメガは三匹まで。
絆は永久で、獣の死以外では断てない。その痛みは使い手に耐えられない震えをもたらす。
最初の試練は、訓練場に散らばる十個の標的を破壊すること。
ルシアンはウルバ―に命じ、獣は軽々と標的を破壊していく。
カサンドラは口を開けたまま驚愕した。通常、このレベルの獣をこの精度で操作するには長年の修行が必要だ。だが、ルシアンは正式な使い手ですらない。それをあたかも簡単なことのように扱った。
次の試練は障害物コース。
ウルバ―はルシアンの思考だけで進む。
一跳び、一旋回、一避けもミスなし。
カサンドラの目は離せない。もしソフィア公爵夫人がここにいれば、彼女が操作していると思っただろう。しかし、現実は違う。ルシアンが真の支配者だ。
第三の試練は、ウルバ―を別の獣と戦わせること。
ウルバ―のカテゴリから、相手はカサンドラのサラマンダーしか適していない。
体高1.10メートル、体長2.50メートル、B-ガンマの迫力ある獣だ。
「魔法の補助なしで。命令だけで戦わせなさい」
カサンドラは冷静に告げる。
「承知しました、先生。その他に注意点は?」
ルシアンは冷静に応じる。
「獣たちの安全は保証する。怪我はあるかもしれないが、治療法はある」
戦いが始まる。
サラマンダーは火球を放つが、ウルバ―は超人的な俊敏さで回避。
反撃として闇のマナ球を放つ。その軌道は精密そのもの。
ルシアンはサラマンダーの弱点を知っていた。喉への一撃で攻撃を封じられることを。
機を見たウルバ―は戦術を調整。
闇のマナ球がサラマンダーの喉下に命中し、煙を吐きながら動きを止める。
カサンドラが反応する間もなく、ウルバ―は一歩踏み出し、前足をサラマンダーの頭に置く。戦いはここで決着。
カサンドラは言葉を失った。
ルシアンはまるで公式の使い手のようにウルバ―を扱った。
だが彼は正式な使い手ではない。母の呪文によって、ウルバ―を自在に制御していたのだ。
アデラは喜び、ルシアンに後で会おうと頼んだ。
建物を出ると、ルシアンはエミリーに向き直る。
「腹が減った。何か食べに行こうか」
エミリーは笑みを浮かべ、喜んで同意する。
店に入ると、群衆の中にアンドリューとエリザベスの姿もあった。
ルシアンはエリザベスに戦績を称えたい気持ちを押さえつつ、エミリーを空いている席に案内する。
座ると、ルシアンはエミリーに何を食べたいか尋ねる。
エミリーは冗談めかして「燻製サラマンダーのリブがあるか見てみたい」と笑う。
二人の会話には、さっきの魔獣戦の余韻が軽く残っていた。
店員が注文を取りに来て去る。
「見た?ロレンツォとエリザベスの戦い。すごかったわ。私もあんな風になりたい」
エミリーの目は輝いている。
ルシアンは心の中で「彼女ならもっと上手くなる」と思ったが、口にするまでに少し間を置く。
そして静かに告げた。
「君は彼女を超えるだろう」
エミリーは驚き、笑顔になる。
「ありがとう…そんな風に見てくれてたなんて」
ルシアンはさらに続ける。
「魔法が好きで、大切な人を守りたいことも知っている。子供のころから魔法書を読み、強くなる努力をして、独自の魔法を作ろうとしてきた。君は無邪気で夢を大きく持つ少女だ…世界をより良くしたいと思っている」
エミリーは言葉に圧倒され、問う。
「どうしてそんなに私のことを…?」
「婚約者として調べるのは自然なことさ」
ルシアンの声は穏やかだが、心の中で危うさも感じていた。
エミリーは少し戸惑う。
「正直、あなたのことはまだよく知らない」
ルシアンは柔らかく笑う。
「それでいい。今は学業と夢に集中するんだ。君なら叶えられる」
エミリーは感謝し、ルシアンは「どういたしまして」と答える。
だが内心、彼は開きすぎていることに気づき、危険を覚える。
エミリーは将来的に敵になり得る存在だからだ。
エミリーは少し不安げに問う。
「それってどういう意味?」
ルシアンは話題を変え、懐かしげに笑う。
「忘れてくれ…ちょっと考え事をしていただけさ」
食事を終え、二人は店を出る。午後の街は活気に満ち、1Aクラスの予選戦に向けて学生たちが急ぎ足で向かう。
「今日はアカデミーも賑やかね」
エミリーが観察する。
「そうだ。今日は初戦の日だ。君の仲間たちもすぐに戦う」
ルシアンは目を光らせながら答える。
エミリーは少し戦慄を覚える。
期待と緊張が入り混じる感覚だった。
遠くで観衆の歓声と魔法の炸裂音が聞こえる。
ルシアンは眉をひそめ、状況を見極める。
「介入せず、近くで見ているのが賢明だ。観察も学びになる」
エミリーはうなずき、ルシアンの意図を理解した。
安全を確保しつつ、目の前の光景を学ぶのだ。
「今日は、すごく濃い一日になりそうね」
エミリーが小さくつぶやく。
「そうだな。でも大丈夫、落ち着いて楽しもう」
ルシアンは微笑み、午後の賑わいに身を任せた。




