「マナがすべてを支払う」
ロレンツォの執拗さに疲れ果てたエリザベスは、ついに彼を黙らせるために勝負を挑むことを決めた。
闘技場は緊張で震えていた。
1Aクラスの生徒たちは息を潜め、力と戦略の衝突を固唾を飲んで見守る。
ロレンツォの足音が大地を揺らす。
彼を包む風は獣のように唸り、砂塵を巻き上げ、霧を裂いて進む。
踏みしめるたび、強化された床に小さな亀裂が走る。まるでこの地面は、彼の力を受け止めるために作られていないかのようだった。
本能的に後退する生徒もいる。
驚きの声を漏らす者もいる。
「52……」
しかしロレンツォは聞いていなかった。
もはや印象づける必要などない。存在するのは、自らの身体の力と剣の刃だけだ。
――今回は、退かない。
そう心に誓う。
彼の剣が空を切り、β級の風を帯びて軋む。
空気は刃に触れまいと避けるかのように流れる。
エリザベスは黙って観察した。
一歩も下がらない。
髪が微かに浮き、周囲に蓄積された電気に引かれる。
恐怖ではない。精密な制御だ。
彼女のレベル――59――とデルタ適性により、エネルギーの消費は異常なほど効率的だった。
――最初の三撃を耐えれば、勝負は決まる。
待つ必要はなかった。
先に動いたのはロレンツォだった。
衝撃は凄まじい。
圧縮された風が大鎌のように降りかかる。
しかしエリザベスは手を掲げ、雷撃が剣より先に落ちる。
純粋な雷が胸を打ち、数メートル後退させ、倒れまいと剣を地面に突き刺すほどだった。
ロレンツォは唸る。痛みが走る。
鎧に火花が散る。
「悪くないな…姫君」
血を吐きながらつぶやくロレンツォ。
エリザベスは返答しない。
滑らかな動きで五つの雷の球を召喚し、周囲を回転させる。
耳に刺さる低い唸りを放ち、各球が計算された放電で攻撃を強制する。
風を使って防御するロレンツォの耐久は、みるみる削られていった。
彼は戦略の危険性に気づく。
――マナを管理している…そして俺に回復できない消耗を強いている。
速攻で倒そうとはしていない。疲れさせるつもりだ。
痛みよりも、その確信が不安を呼んだ。
焦りに駆られ、膝で床を蹴り、周囲に渦巻く風を解き放つ。
空気が鋭利に切れ、エリザベスは後方に跳んで避ける。
だが一撃が太ももをかすめ、裂けるような風傷を残す。
血が滲む。
しかし彼女は微かに笑った。
傲慢ではなく、純粋な興味から。
「面白いわね」
ロレンツォは息が荒くなる。
筋肉が燃え、支えていた風も次第に散っていく。
対照的にエリザベスは動じない。
球はまだ彼女の周囲で舞い、最後の一撃の前に獲物のように周回する。
彼は理解した。
盾が崩れ、力も尽きた。
エリザベスは手を下ろす。
「計算終了」
空から雷撃が降りる。
集中し、静かに。
ロレンツォを正確に打つ。
叫び声はない。ただ、力の差に屈する乾いた衝撃音だけが響く。
戦士は倒れ、意識を失った。
闘技場が衝撃で震える。
エリザベスを包む電気は徐々に消え、彼女は穏やかに息を吐く。
――傲慢さはない。
「もう邪魔しないでね」
低く言う。
「次はもっとひどいことになるわよ」
沈黙を破る者はいなかった。
生徒たちは拍手を始める。最初はまばらに、やがて力強く波のように観客席を駆け抜ける。
立ち上がる者、信じられないとつぶやく者もいる。
誰も、これほど緻密な勝利を予想してはいなかった。
力任せではない、効率と適性、戦略の授業だった。
エリザベスは深く息を吸う。
体に微かな震えは残るが、視線は揺らがない。
笑うことも喜ぶこともなく、倒れたロレンツォを静かに見つめる。
全力を出し切った者の尊厳がそこにあった。
しばしの敬意ある沈黙。
ロレンツォは限界を超えて耐えた。
戦士の強さを再確認させた。
だが、この勝負で明らかになったのは、自然の才能、レベル差、デルタ適性を持つエリザベスの力が、肉体の強さを超えることだった。
エネルギーの完全な制御、距離の正確な管理、長時間の高位呪文維持――その全てが勝敗を決めた。
無駄なく勝利した。
力を誇示せず、動き一つも無駄にせず。
クララ先生はナオミの元に軽やかに歩み寄る。
目を輝かせ、手は興奮でかすかに震えていた。
「素晴らしかったわ!」
抑えきれず声を弾ませる。
「魔法使いが戦士に勝ったのよ!」
手を振り、まるで呪文を放つかのように誇らしげに語る。
「見たでしょ?才能に速度、そしてほんの少しの魔法的センスが加わると、こうなるの」
軽やかに回転し、近くの生徒たちに熱気を伝える。
「覚えておくこと。重要なのは力だけじゃない――召喚の速さ、計算の精度、そして敵を過小評価しないこと。たとえ最強の騎士でも。
エリザベスがあの攻撃を維持できたのは、戦略を武器に変えたからよ」
生徒たちは目を合わせ、驚きと感動に包まれる。
クララは頬の赤みを見て微笑む。
「さあ…」
ウインクを添えて、
「練習よ!眠らないようにね。小さな“学習的火傷”をすることになるかもしれないから――もちろん、教育的にだけど」




