「憤怒と極致」
四日後、カーラは学院長であり叔父でもあるマグナスとの訓練を終えた。
その表情には、確かな自信と揺るぎない決意が宿っていた。
――今度こそ、ルシアンへの雪辱を果たす。
一階へ降り、対戦相手を探していた彼女の耳に、昇格試合のアナウンスが届いた。
その中に含まれていた名前――「ダグラス」。
カーラは即座に闘技場へと駆け出した。
到着すると、そこにはカレブ・ダグラスとレオナルド・エルカームが向かい合って立っていた。
この機会を待ち望んでいたレオナルドは、緊張に飲み込まれそうになりながらも必死にそれを抑えていた。
観客席にはイザベラとその兄弟たち。
これが彼にとって、初の総合昇格戦だった。
――完璧な結果を残さなければならない。
教官ジョシュ・ベルの合図とともに、闘技場の空気が張り詰める。
レオナルドは両手を掲げ、雷嵐の魔法を展開した。
黒雲が渦を巻き、彼の剣には唸るような雷撃が纏わりつく。
一つ一つの火花がマナを削り取っていく。
――無駄は許されない。
「うおおおおっ!」
地面を震わせながら突進し、空気そのものを裂くかのような一撃をカレブへ叩き込んだ。
対するカレブは、影のように揺らめく闇のマナに包まれ、微動だにしない。
闇属性の適性により、攻撃の一部を吸収するが、それでも負荷は大きい。
黒光りする剣を振るい、雷嵐と正面衝突――
轟音が闘技場全体に響き渡り、火花が四散した。
カレブは力強く押し返し、レオナルドを後退させると、容赦のない縦一閃を叩き込む。
レオナルドは辛うじて防ぐが、剣同士がぶつかる音は、まるで戦の咆哮だった。
間髪入れず、カレブは拳を振るう。
顔面への一撃――乾いた音とともに、血が鼻から噴き出した。
さらに四連撃。
正確で、冷酷な攻撃。
レオナルドは耐えながら悟る。
――切り札を使うしかない。
集中とともに、最強の魔法を解放。
四つの雷球が周囲を回転し、膨大なマナが急速に失われていく。
だが、一瞬だけ戦況を取り戻した。
「行けぇぇっ!」
しかし、その瞬間――
天井から七つの闇の魔力球が、悪意ある隕石のように降り注いだ。
五つは防いだ。
だが二つが直撃。
轟音とともに地面へ叩きつけられ、マナは削られ、肌には闇の残滓が刻まれる。
互いに満身創痍。
荒い息を吐きながら、二人は睨み合った。
「帝国の害獣が……まだ手札はあるか?」
カレブが嘲笑う。
「下等な血め……終わらせてやる」
レオナルドは歯を食いしばる。
次の瞬間、激突。
剣と魔法が乱舞する中、カレブはローレンスから教わった奥義を解放した。
地面から闇の魔力による鋭い棘が噴き出し、連続攻撃と同時に襲いかかる。
完全な制圧。
レオナルドは防ぎきれず、深手を負って倒れた。
とどめが振り下ろされる直前――
教官ジョシュが介入し、勝者を宣言した。
勝者、カレブ・ダグラス。
疲労困憊のカレブは、レオナルドの横を通り過ぎる。
視線の先にはイザベラ。
微笑みかけるが、彼女は一瞥すらしなかった。
その様子を、カーラは冷ややかに見下ろしていた。
――弱い。
あんな連中、問題にもならない。
視線は一人の少年に固定される。
「ルシアン!」
呼びかけに、鋼のように冷たい視線が返る。
「……何だ」
「昇格戦よ。私が挑戦する!」
「正気か? 放っておけ」
(今度はこいつか……)
「怖いの? 今度こそ潰してあげる」
「一度勝ってる。証明は済んでる」
「覚えておきなさい。今日の敗北を」
教官エンツォの声が響いた。
「昇格戦、開始!」
カーラは嵐のように突進した。
強化魔法で輝く拳と脚。
一撃ごとに衝撃波が走る。
ルシアンは最小限の動きで回避し、黒い軌跡を残す。
カーラの身体は黄金のオーラに包まれ、力と耐久を極限まで高めていた。
――短期決戦で終わらせる。
ルシアンの闇の剣は光を飲み込み、黒き魔力が地面を侵食する。
精密な闇弾で牽制し、消耗戦へと持ち込む。
七本の闇の棘が地面から噴き出す。
一本がカーラの脇腹を貫いた。
それでも彼女は剣を振るう。
防いだルシアンの肋骨が二本、砕けた。
怒りと興奮がカーラを駆り立てる。
雷鳴のような突撃。
受け止めた瞬間――
ルシアンの剣が砕け散った。
彼は折れた剣を投げつけ、隙を作る。
次の瞬間、腹部への一撃。
マナが大きく失われ、強化魔法が逆に負担となる。
最後に、渾身の一撃。
顎を打ち抜かれ、カーラは吹き飛んだ。
沈黙。
ルシアンは立ち上がり、歩み寄る。
恐怖が観客を支配する。
――そこで、止めが入った。
「そこまでだ!」
勝者、ルシアン。
マグナスは倒れたカーラを見下ろし、冷たく言い放つ。
「やはりな……ダグラスの血だ。あそこまで残酷なのは、あの愚か者どもだけだ」
闘技場には、まだ戦いの余韻が残っていた。
この一戦は、長く語り継がれることになるだろう。




