「評価と才能の発見」
アンドリューは、学院長マグナスの執務室にいた。
彼は今、下位クラスの中から発見された“異常な才能”について報告を受けていた。
その中の一人――魔力適性検査の結果、デルタ級と判定された若者がいたのだ。
それは、貴族の間でさえ極めて稀な才能だった。
王国では、すべての人間がマナを扱うことができる。
しかし、その効率や成長速度は血筋、食事、そして訓練によって大きく左右される。
大半の者は年月を重ねてもほとんど成長しないが、上位貴族やダグラス家のような名門の血統は、豊富な資源、秘伝の技術、高位魔獣の肉などによって飛躍的な成長を遂げる。
だからこそ、平民からデルタ級が現れるという事実は、学院にとって極めて戦略的価値の高い発見だった。
学院の目的は常に、王家の軍事力を強化するための優秀な人材を見つけ、育成することにある。
この報告は貴族社会に大きな波紋を広げた。
デルタ級の才能は、もはや「人材」ではなく――国家の宝だった。
それに比べ、ソフィア・ザ・モンドリングのようなオメガ級は、ほぼ絶対的な存在だった。
力も耐久力も、あらゆる相手を凌駕する。
もし当時、彼女がすでにダグラス家の後継者と婚約していなければ、王は彼女を王妃に迎えたいと願っていただろう。
オメガ級とは、それほどまでに――生ける伝説なのだ。
「……いいだろう、マグナス」
アンドリューは静かに言った。
「その若者に会いたい」
「かしこまりました、殿下。現在はEクラスの居住棟におります」
「そこまで下位なのか?」
アンドリューは興味深げに尋ねた。
「はい。平民出身ですので、最下位から導く必要があります」
マグナスは冷静に答える。
「ですが、潜在能力は計り知れません。現在の段階でも、戦士としてのマナ量は二十級相当。さらに風属性への適性がデルタ級です。
つまり――風魔法の消費マナが極端に少ない。適切な訓練を施せば、上位魔導師とも互角に渡り合えるでしょう」
「なるほど」
アンドリューは頷いた。
「それなら、こちらの思う形に育てやすい。正しく導けば、王国に忠誠を誓う優秀な従者になる」
二人は学生寮の区域へ向かった。
遠くからでも、百二十四棟の建物と千六百九十名の生徒、そして高度な授業が行われる中央棟が一望できた。
「ここです。1-38E教室」
マグナスが告げる。
「彼の名はアッシャー。デルタ級の魔力適性を持つ少年です。この才能は、完全な支援があっても再現不可能でしょう」
アンドリューは理解した。
これは単なる学生の育成ではない。
――王国の未来を左右する可能性のある存在だ。
「今すぐ呼ぶか?」
マグナスが尋ねる。
「いや、まずはクラス全員に挨拶しよう。その後で個別に呼ぶ」
アンドリューは教室に入り、四十三名の士官候補生たちに声をかけた。
生徒たちは節度ある敬礼で応じる。
その後、アッシャーだけが教員室へ呼び出された。
「なぜ呼ばれたのか、分かっていないだろう」
アンドリューが切り出す。
「は、はい……何か問題を起こしましたでしょうか?」
アッシャーは緊張を隠せない。
「安心しろ。叱責ではない」
アンドリューは穏やかに手を振る。
「提案がある。王家の従騎士にならないか?」
「……殿下、もう一度おっしゃっていただけますか?」
「王家に仕える意思はあるか?」
アッシャーは目を見開き、すぐに深く頭を下げた。
「私のような者がそのような栄誉を……ですが、もし機会を与えていただけるなら、生涯の忠誠を誓います!」
「いい答えだ」
アンドリューは満足そうに頷いた。
「才能も姿勢も評価しよう。ただし、王家の従者となる以上、他の者以上の努力を求める。我々の名に泥を塗ることは許されない」
「はい! 必ず期待に応えます!」
アッシャーの瞳には強い決意が宿っていた。
「王国近衛騎士になるのが夢でした。この機会、絶対に逃しません!」
クラスAの区域へ戻る途中、アンドリューはマグナスに尋ねた。
「アッシャーのクラス担当は誰だ?」
「ロード級の騎士、フランシスコです」
「クリスティアンを付けろ」
アンドリューは即断した。
「マギステル級だ。私の新しい従者を監督し、必要な資源はすべて与えろ。最短で昇級させる。
彼はエルカーン家の高位従者になる」
「他の生徒から嫉妬や嫌がらせを受ける可能性がありますが……」
「構わん」
アンドリューは冷たく言い切った。
「それもクリスティアンに対処させろ。王家の従者となった瞬間から、扱いは別だ。
人は平等ではない――それを教えるのも、この学院の役目だ」
その声には、命令が覆ることを知らぬ王子の威厳が宿っていた。




