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肉体と獣の発見

魂を引き剥がされてから、一週間が経った。


王国暦七一四年。


そして――


ルシアン・ダグラス・ド・モンドリングは、十五歳だった。


「……十五歳かよ」


鏡の中の少年が、こちらを見返す。


整った顔立ち。

無駄のない筋肉。

鍛え抜かれた身体。


他人の肉体。


なのに、奇妙なほど滑らかに動く。


違和感はある。

皮膚の奥に、まだ“自分ではない体温”が残っている気がする。


だが、拒絶はない。


それが、余計に気味が悪い。


侍女たちに身を清められながら、ルシアンは無言を貫いた。


温い水が肩を滑る。


慣れた手つき。

この身体を知り尽くした指先。


羞恥はある。


だが、それを表に出すほど愚かではない。


顎をわずかに上げる。


“ルシアンらしく”。


それが今の、最優先事項だ。


扉が開いた。


合図はない。


侍女たちが一斉に跪く。


入ってきたのは――


ソフィア・ダグラス・ド・モンドリング。


公爵夫人。


この身体の母。


彼女の隣を、巨大な獅子が静かに歩く。


爪が大理石を叩く乾いた音。


空気が、変わる。


ソフィアは何も言わず、ルシアンの前に立った。


蒼い光が、その指先に灯る。


圧縮された雷光。


「あなたに権限を与えるわ」


前置きはない。


命令でもない。


当然のように告げる。


「サンダー。七十六」


窓辺で伏せていた黄金の獅子が、片目を開く。


空気が震えた。


「アンバー。七十一」


闇の奥から、狼が現れる。


音もなく。


視線だけで値踏みする。


(いきなり最上級かよ)


内心で毒づく。


だが、顔には出さない。


ソフィアの指が、彼の腕に触れる。


刻印が走る。


焼けるような魔力が皮膚を裂く。


歯を食いしばる。


喉の奥で悲鳴が暴れる。


それでも、声は出さない。


「部分的な権限よ」


静かな声。


「命令には従う。でも、忠誠は私のもの」


当然だ、と言わんばかりに。


ルシアンはゆっくりと息を整える。


「……俺が死にかけたら?」


一瞬だけ。


ゲームの映像が脳裏に過る。


群衆。

石畳。

掲げられる刃。

転がる、自分の首。


胃の奥が、わずかに軋んだ。


「守るわ」


即答だった。


「命と引き換えでも」


獅子が立ち上がる。


圧倒的な存在感。


支配者の目。


ソフィアは、わずかに微笑む。


「ラリエット。クラスA・デルタ」


完全支配はできない。


だが――


「極限状態なら、あなたの声に応じるよう訓練してある」


訓練。


その言葉が、妙に引っかかった。


守護か。


監視か。


「ありがたい話だ」


ルシアンは乾いた笑みを浮かべる。


「万が一その獅子に食われたら、予備の身体を頼みますよ。母上」


一瞬の沈黙。


侍女たちの空気が凍る。


だが、ソフィアは笑った。


小さく。


「尊敬を勝ち取りなさい」


視線が鋭くなる。


「息子として」


それが母としての言葉か、公爵としての命令かは分からない。


最後の刻印が完成する。


その瞬間。


何かが繋がった。


魂の奥に、重い鎖が絡みつく感覚。


命令ではない。


契約。


群れ。


忠誠。


アンバーが近づく。


低く息を吐き、彼の手の匂いを嗅ぐ。


知性のある目。


試している。


味方ではない。


守護者。


そして監視者。


ソフィアは彼らを通して、すべてを見る。


沈黙が落ちる。


ルシアンは刻印を見つめる。


逃げ道はない。


これは準備だ。


近い。


破滅が。


ゲームでは――


ルシアンは一週間後、討たれる。


討伐隊。

裏切り。

公開処刑。


喉が渇く。


指先が、ほんのわずかに震えた。


だが。


恐怖の奥で、別の感情が芽生える。


計算。

利用価値。

勝ち筋。


(生き延びる)


そのためには。


ルシアンになれ。


完全に。


ソフィアが踵を返す。


「期待しているわ」


それだけを残して、去る。


獅子が最後に振り返る。


黄金の瞳。


試されている。


扉が閉まる。


静寂。


アンバーが影のように傍らに座る。


七日。


あと七日。


ルシアンはゆっくりと息を吐いた。


恐怖は消えない。


だが――


その奥で、何かが静かに燃え始めている。


「……上等だ」


逃げない。


壊す。


運命ごと――


この世界の理まで。


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"読んでいただきありがとうございます!コロンビア人ですが、日本のアニメや小説が大好きで頑張って書いています。翻訳ツールを使っての投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。"
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