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「学院の一日の始まり」

カーラ教官は施設案内を終えると、学生たちに授業の時間割を配布し、その日の業務を締めくくった。

その後、生徒たちは各自、休息を取るよう指示される。


クラスA棟の医務室で、カーラ・ボーランスはゆっくりと目を覚ました。

担当の治癒魔術師は簡単な検査を終え、問題がないことを確認してから部屋を後にする。


「目が覚めたか、姪っ子。具合はどうだ?」


そう声をかけたのは、学院長であり叔父のマグナスだった。

威厳の中に、隠しきれない心配が滲んでいる。


「……何があったの? ここは……?」


激しい戦闘の記憶が曖昧で、カーラは困惑した様子だった。


「ルシアンに相当強く打たれたらしいな。少し頭が混乱しているようだ」


「ルシアン……そうだ……私、負けたのね……」


プラットフォームに倒れ、意識を失った瞬間を思い出し、カーラは悔しそうに歯を噛みしめる。


「完全な敗北だった」

マグナスは率直に言った。

「気持ちは分かる。若い頃、私もアルバートという忌々しい男に何度も負けた。しかしな、そのおかげで強くなれた」


カーラは勢いよく上体を起こし、苛立ちを隠そうともしない。


「再戦するわ。全力を出してなかっただけ。次は絶対に勝てる!」


「違う」


マグナスはきっぱりと否定する。


「私は全て見ていた。ルシアンはお前の攻撃を読み切り、一切の隙を見せなかった。同じ戦い方をすれば、結果は変わらん」


カーラは一瞬視線を落としたが、すぐに顔を上げる。


「……叔父さん。私を鍛えて。勝たなきゃ気が済まない」


必死な声だった。


「できない」

マグナスは首を振る。

「私は学院長だ。公平でなければならない」


「お願い……」


カーラは眉を下げ、子犬のような表情を浮かべる。

それが、彼の弱点だと分かっていて。


マグナスは深くため息をついた。


(……この顔には弱い)


「分かった。放課後、私の執務室に来い。ただし、誰にも知られるな」


「……っ!」


カーラは小さく、しかし確かな勝利の笑みを浮かべた。

マグナスはその姿を見つめながら、これが将来どんな波紋を生むのかを思い、わずかな不安を覚える。


――翌日。


クラス1Aの教室で、クララ教師が魔法の授業を開始した。


「今日は、この王国が誇る英雄――マギステル級魔導師、ガレント・プロットの話をしましょう」


教室が静まり返る。


「彼はたった一人で千人以上の敵兵と戦い、多くの民を守るため命を落としました。その魔法は敵を殲滅し、誰一人立ち上がれなかったと言われています。彼は死してなお、伝説です」


クララは続けた。


「基礎魔法は不器用な騎士でも扱えますが、高位魔法は魔導師の領域です。戦士志望で、高位魔法を学びたい者は残りなさい。自分の限界を理解している者は、闘技場へ。オースティン・エヴァンス教官が待っています」


「必修じゃないんですか?」

カスパーが手を挙げる。


「奇跡は起きません」

クララは即答した。

「騎士が高位魔法を使えた例はありません。肉体に頼る者には無理です。知性ある魔導師だけが扱える」


「魔導師も、戦士の技は学べませんけどね」


ルシアンの皮肉に、数人が苦笑する。


ルシアン、カスパー、コーウィン、ニルソン、クレイグ、ダリリン、コーウィックは闘技場へ向かい、

エミリー、ジェナ、サマー、ナオミ、アベル、ジャスリンは教室に残った。


「筋肉頼みがいなくなったわね」

クララは満足げに言う。

「では始めましょう。高位魔法は膨大なマナを消費します。威力が高いほど、その消耗も大きい。第二段階では、支援・攻撃用の魔導具への魔法刻印を学びます。第三段階は補助魔法です」


「どこで練習するんですか?」

生徒が尋ねる。


「校舎の隣に訓練場があります。そこで実践しなさい」


一方、闘技場へ向かう途中――

ジャン・ザ・モンドリングがルシアンに声をかけた。


「ルシアン様、昨日の勝利、おめでとうございます」


「ありがとう……えっと、君は?」


「覚えていませんか? アルバートは私の叔父です」


「ああ……そうだった。ごめん」


「気にしないでください。最後に会ってから、かなり経っていますから。訓練場へ?」


「ええ。クララ先生、戦士にちょっと恨みがあるみたいで」


「劣等感か、過去のトラウマでしょうね。大会はいつも魔導師が制しますから」


小さく笑うジャン。


「ところで、叔父との訓練は本当に厳しかったんですか? あの実力を見る限り、相当だったでしょう」


「……正直に言うと、地獄でした。訓練というより、殴打ですね」


「ふふ、それは事実です。私も経験しました。優しくされた記憶はありません。でも、そのおかげで、今の順位にいます」


ジャンは誇らしげに言う。


「あなたも同じでしょう?」


「ええ。あれがなければ、昨日は負けていました」

ルシアンは一瞬考え、提案した。

「よければ、模擬戦をしませんか? 魔法なし、剣だけで」


「構いませんよ、ルシアン様。ただし――本気は出しません。負けても文句はなしで」


「問題ない。できるなら、倒してみてください」


ルシアンの瞳には、静かな闘志が宿っていた。


――学院の朝は、こうして静かに、しかし確実に火花を散らしながら始まっていく。

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