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「ファルドモルド学院への到着」

五日後、ルシアンはアクロポリス市の外れに位置する小さな城塞都市――ファルドモルド学院へと到着した。

馬車の窓から、登録を待つ生徒や家族たちの長い列を眺めながら、彼はわずかな苛立ちを滲ませて口を開く。


「……列、かなり時間かかりそう?」


アルバートはくすりと笑い、父親のような仕草で彼の頭を撫でた。


「良い冗談ですな、坊ちゃま」


ダグラス家の馬車は、上級貴族専用の入口へと進み、正門に集まる人混みを避けて敷地内へ入っていった。

受付では、副学院長アクセル・トンプソンが二人を迎え、その鋭い視線がルシアンとアンバーを値踏みするように走る。


「ようこそ、ファルドモルド学院へ。ここから先、関係者以外の立ち入りは禁止です。学生の安全は王家によって保証されています」


アクセルは硬い口調で告げた。


アルバートはルシアンに軽く一礼し、小さな魔法の指輪を手渡す。


「ここまでです、坊ちゃま。この指輪があれば、学院外に出る必要が生じた際、私が居場所を把握できます。どうか単独行動はお控えください」


「……子ども扱いしすぎだよ、アルバート」


そう言いながらも、内心ではその気遣いをありがたく思っていた。


しかし、魔獣を伴って入ろうとした瞬間、副学院長が即座に制止する。


「申し訳ありません、ダグラス卿。学院内に魔獣を連れ込むことは認められていません」


アルバートが明らかに不快そうに口を開こうとした、その時――。


「騒がしいな」


低く響く声とともに、マグナス・ボーランスが姿を現した。

マギステル・デルタ級の戦士としての威圧感が場を包み、空気が一瞬で静まり返る。


学院長であり、かつてアルバートの好敵手だった男。

若く頑固だったアルバートが、決闘や試練で何度も自分を打ち負かした日々を、マグナスは尊敬と可笑しさを交えて思い出す。


その因縁は、今もなお互いの間に確かな敬意として残っていた。


「部下の教育がなっていないぞ、マグナス」


アルバートは怒りを隠さず言った。


「アルバート、ただの行き違いだ」

マグナスは笑いながら肩をすくめる。

「若きダグラスの邪魔をするつもりはない。公爵夫人を怒らせたくはないからな」


やがてアルバートはその場を離れた。


マグナスの合図により、ルシアンはアンバーとともに入学を許可される。

案内された私室を見て、彼は思わず目を見張った。


――豪華だ。


ソフィアが手配したであろう、過剰とも言える設備。

使用人たちが荷物を整える間、ルシアンは部屋の隅々まで目を走らせる。


これから四か月間、二十五日間の集中学習と、わずか五日の休息。

過酷だが、無駄はない。


ルシアンが居室へ向かった後、マグナスはアクセルに向き直った。

穏やかだが、逆らえぬ眼差しだった。


「アクセル。ダグラス家に思うところがあるのは分かっている」


アクセルの拳が強く握られる。


「だが、私怨で動けば破滅だ。あの一族を制御できる者はいない。正面衝突など、我々には手に負えん」


「……黙って見ていろというのですか」


怒りを抑えきれない声。


「聞け」

マグナスはきっぱりと言った。

「学院はダグラス家と敵対できない。影響力が大きすぎるし、彼らに関する噂も危険だ。軽率な行動は、我々全員を危険に晒す。憎しみに任せれば、お前だけでなく、この学院そのものを壊すことになる」


アクセルは唾を飲み込み、その重みを理解した。


「……分かりました。肝に銘じます」


「よし」

マグナスは頷く。

「火を消せとは言わん。ただし、制御しろ。学院と学生の安定が最優先だ」


――翌日。


四階建ての校舎、その一室で、クラス1Aの生徒たちは教官の到着を待っていた。

ルシアン、エミリーをはじめ、

ニルソン・スタンリー、ジャスリン・エルクハン、コーウィック・ブリッグス、ナオミ・スナイダー、サマー・ケスラー、ダリリン・マカリスター、カスパー・ボーランス、アベル・ブラウン、ジェナ・モンドリング、コーウィン・アーメット、サンドラ・ザ・モンドリング、クレイグ・デニス。

全員が静かに席についていた。


「私の名はカーラ・ベイカー。今後四か月間、あなたたちのクラスディレクターを務めます」


凛とした声が教室に響く。


「まず理解しておきなさい。ファルドモルド学院では、身分は一切意味を持ちません。全員が等しく学生です。あなたたちはクラス1Aの代表として、模範的な行動を求められます」


数歩進み、全員を見渡す。


「また、その地位は固定ではありません。下位クラスの学生が、評価・決闘・内部任務で上回れば昇格します。逆に、1Aで基準に達しなければ降格。ここでは、追い越されることに現実的な代償があります」


張り詰めた沈黙。


ナオミが手を挙げた。


「先生、下のクラスの学生たちは、どれほど強いのですか?」


「学院では、戦闘力・技量・戦略的潜在力で分類します」


カーラは説明を続ける。


「クラスは五段階に分かれています。

1A――精鋭。軍人、戦士、魔術師として突出した能力を持つ者たち。あなたたちは世代の頂点です。

1Bから1E――一か月の集中訓練で頭角を現した候補生。弱くはありません。まだ力を固めている段階です」


クレイグが眉をひそめる。


「……関わることは?」


「ほとんどありません」

カーラは即答した。

「彼らは昇格か降格回避で手一杯です。ただし覚えておきなさい。1Aだから偉いのではない。ここでの序列は責任です。慢心は、戦闘で罰せられます」


エミリーが興味深そうに尋ねる。


「じゃあ、目立てば私たちのクラスに上がれるんですか?」


「その通りです」

カーラは頷く。

「毎月、総合評価を見直します。活躍した者、昇格戦に勝った者は即1Aへ。不適格者の席を奪う形で」


カスパーが顔を上げた。


「クラス間の決闘は?」


「教育の重要な一環です」

カーラは答える。

「下位クラスは月に一度、上位に挑戦可能。あなたたちも互いに行います。同系統三戦、異系統一戦。技量、戦術、成長を評価します」


控えめに、ルシアンが質問した。


「先生……上位クラスと衝突した場合は?」


「戦闘で解決します」

カーラの声は厳しかった。

「ただし挑戦は月一回まで。その制限が秩序を保ちます」


説明を終えると、カーラは生徒たちを連れて学院内を案内した。

美術室、音楽室、錬金術研究室、魔獣使いの教室、食堂。

そして廊下の突き当たりに、全クラス共用の大図書館が静かに佇んでいた。


――ここから、彼らの本当の試練が始まる。

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