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「影の息吹」

夜は静かだった。


焚き火の薪がはぜる音だけが、仮設の野営地に響いていた。

炎は長い影を揺らし、ルシアンたちの疲れた顔を照らす。

火の粉が弾けるたびに、そこにはまだ新しい血の記憶が映り込んでいた。


ダヤナは、自らが操る屍の間を歩いていた。

その指先は肉をなぞり、好奇と満足が混ざり合う。

それぞれの死体は、彼女の支配の証だった。


エミリーは手についた血を拭う。

緑の瞳の奥で、黒い刻印が脈打つ。

呪いはまだ生きている。

そして、飢えている。


エリザベスはルシアンの背後に立っていた。

わずかな動きすら抑え込むように、全身が緊張している。

それは単なる敬意ではない。

均衡を崩せば――何かが壊れると理解しているからだ。


アデラは白虎を撫でる。

その瞳には焚き火が映り、まるで昨夜の虐殺など遊戯であったかのように、静かに喉を鳴らしていた。


サンダーは周囲を巡回している。

牙の間で電光が弾け、闇の奥を探る。

脅威を“感じ取る”ように。


ルシアンは炎を見つめていた。

黄金の瞳に揺れる火。

そこにあるのは恐怖でも感情でもない。


――計算。

――支配。


「……目立ちすぎたな」


低い声。

警告ではない。ただの事実。


「ここにはいられない。南の都市も、街道もだ」


エリザベスがわずかに眉を寄せる。


「では……どこへ?」


沈黙を測るような声音。


ルシアンは遠くを見る。

若い村人たち――噂を目に焼き付けた者たちの方へ。


「聞いたことがあるだろう」


「遠い大陸。人と獣が争いから離れて生きる場所」


「そこなら……“静けさ”があるかもしれない」


エミリーが顔を上げる。

皮肉と疲労の奥に、わずかな光。


「平和……危険な言葉ね」


一瞬だけ、その視線が柔らぐ。


「でも……」


「一緒なら、少しは忘れられるかもしれない」


ダヤナがくすりと笑う。


「私が死体を起こす限り、誰も追いつけないわ」


「英雄も、神も、狂信者もね」


エリザベスは何も言わない。

ただルシアンを見る。


彼はすでにすべてを計算している。

それでも――進むと決めている。


「行くぞ」


ルシアンが立ち上がる。


「夜が明ける前に」


「また“送り込まれる”前に」


白虎が立ち上がり、冷気を吐く。

火の粉が一瞬、青白く輝いた。


サンダーが隣に並ぶ。

沈黙の守護。


「……大陸へ」


その言葉は小さかった。


だが、確かに“現実”だった。


夜は彼らを包み込む。


血の匂いはまだ残っている。

それでも――


その中に、微かな温もりが灯る。


未来という名の火種。


エミリーは目を閉じ、深く息を吸う。


――追われていない。


それだけで十分だった。


ダヤナは楽しげに微笑む。

エリザベスは、わずかに力を抜く。

アデラは白虎を撫でる。

サンダーは低く鳴いた。


その瞬間だけ――


“悪魔”の伝説は、恐怖ではなく


自由の約束のように感じられた。


イザベラは船の下で立っていた。


夜風が髪を揺らす。


アルベルト――ルシアンに仕える老執事が、船の最終調整を終える。


「準備は整いました、閣下」


疲れている。だが揺るがない声。


イザベラは一歩踏み出す。

その一歩は、世界よりも重い。


そっと、ルシアンの袖に触れる。


「……一緒に行きます」


震えはある。だが、意思は折れない。


ルシアンは彼女を見る。


その瞳は、ただ見ているのではない。

“測っている”。


沈黙。


波の音だけが満ちる。


「お前は、ただの従者じゃない」


低く、静かに。


「お前がいなければ……意味がない」


イザベラは息を飲む。


それでも目を逸らさない。


「なら……離れません」


「あなたがいる限り」


布を握る指に、力がこもる。


アルベルトはそれを見ていた。


止められないと知っている。

そして、誇りにも思っている。


「……行かせてください」


彼女の声は静かだったが、揺るがない。


アルベルトは頷く。


ルシアンは手を差し出す。


イザベラがそれを取る。


その瞬間――


世界が静まる。


言葉はいらなかった。


誓いも、契約もない。


ただ一つ。


共に進むという理解。


闇と危険が待っていても


彼らは恐れない。


一人ではない。


離れない。


隣にいる。


それだけで――


十分だった。

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"読んでいただきありがとうございます!コロンビア人ですが、日本のアニメや小説が大好きで頑張って書いています。翻訳ツールを使っての投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。"
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