「会合と陰謀」
デレク・スナイダー公爵の私室では、松明の明かりが集まった者たちの張り詰めた表情を照らしていた。
空気は煙と不信感に満ちている。
そこに集っていたのは、トマス・デニス伯、ノア・アーメット伯、ブランディ・ブラウン伯、そしてマテオ・カルーソ。
全員が、苛立ちを隠そうともしないデレクを見つめていた。
「それで、トマス。君の計画は失敗したというわけか?」
皮肉に満ちた声でデレクが言い放つ。その言葉には露骨な侮蔑が滲んでいた。
トマスは椅子にもたれ、腕を組みながら落ち着いた口調で答える。
「ただの小さな誤算だ。計画自体は順調に進んでいる。王国の行く末は、すでに定められている」
自信に満ちた言葉とは裏腹に、その瞳の奥にはわずかな焦りが宿っていた。
「小さな誤算だと!?」
デレクは怒鳴り声を上げる。
「狩猟大会の真っ最中に王子暗殺を仕掛けたんだぞ! それなのに追加の兵も出さないとは、事の重大さが分からんのか!」
ブランディが身を乗り出し、慎重さと好奇心を織り交ぜた声で言う。
「そうだ、トマス。人手が足りない。なぜ第二陣の暗殺者を送らなかった? 失敗すれば全てが台無しになる」
トマスは指を組み、冷静ながらも揺るぎない表情で答えた。
「人を増やしてどうする? 発覚するだけだ。帝国の戦士を四十人も紛れ込ませられたこと自体が奇跡だった。二度目の試みは無謀だ。あの作戦は限界だった。一つ間違えば、すべてを失っていた」
「だが成功していれば、王子は死んでいた!」
マテオが苛立ちを露わにする。
「今さら追加で動けば、ダグラス家が王国中の村を掘り返してでも追跡するだろう」
低い声でノアが口を挟む。
「トマスの言う通りだ。慎重さこそが、我々が先を行くための唯一の手段だ」
トマスはゆっくりと立ち上がった。その威圧感は、他の者たちの沈黙と対照的だった。
「よく聞け」
鋭い声が室内に響く。
「無能は許されない。成果を望むなら、覚悟しろ。即時の野心よりも、慎重さの方が価値がある。帝国は失敗を許さない。ダグラスも同様だ。王国を裏切る者は、例外なく消される。一歩誤れば、この国は炎に包まれる。その時、財宝も遺物も、お前たちを救いはしない」
――その頃。
大広間では晩餐会が最高潮を迎え、若者たちは王立学院への入学を控えて胸を高鳴らせていた。
しかし、王の居室とダグラス家の区画の奥には、密やかな会合のための隠し部屋が存在していた。
そこでは国王フィリップとローレンス公爵が向かい合っていた。
フィリップは厳しい視線で彼を見つめる。最後に会ってから、かなりの時が経っていた。
王としての誓いとは裏腹に、建国以来続く硬直した権力構造を変えられない自分への無力感が胸を締めつける。
スナイダー公爵家は行政を、ボーランス公爵家は治安を、そして――ダグラス家は異端審問を掌握している。
恐れられ、忌み嫌われるその名の裏にある真実。
彼らの使命は、貴族の腐敗と、王国を脅かすあらゆる存在から、この国を守ることだった。
「久しぶりだな、ローレンス。元気にしていたか?」
フィリップは緊張を和らげようと声をかける。
「はい、陛下。陛下こそ、国政の方はいかがですか?」
ローレンスは言葉を慎重に選んで答えた。
「正直、芳しくない」
フィリップはため息をつく。
「帝国が、我が国に対して動き始めたようだ。それと……息子の命を救ってくれたルシアンに、感謝を伝えてくれ。相応の褒賞は必ず与える」
ローレンスはその名にわずかに驚いた。
ルシアンは、自身の行動を一切報告していなかったのだ。
「必ずお伝えします、陛下。帝国の件については、直ちに調査を開始します。内部に協力者がいる可能性も高いでしょう。貴族の中に」
「構わん。協力者を特定し、必要なら排除せよ。支援が必要なら、私に知らせる」
断固とした命令だった。
「御意に」
フィリップは、ダグラス家の過激な手段を快く思ってはいなかった。
それでも、この冷徹で計算された在り方が、危機の中では頼もしく感じられるのも事実だった。
やがて場面は再び大広間へと戻る。
フィリップは玉座に座り、各家の代表を呼び出し、狩猟大会の褒賞を授与していく。
祝辞、礼、そして囁き声。
若者たちは、王立魔法・戦技学院で始まる新たな人生へと歩み出そうとしていた。
国王は礼儀正しく微笑む。
その光の裏側で、王国の影は静かに蠢いているとも知らずに。
――ダグラス家。
誰にも知られることなく、腐敗と裏切りが居場所を得ぬよう、今日も密かに監視を続けていた。




