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「王宮の晩餐会」

ルシアンはその夜、静かに身体を休めながら、ここ最近の出来事を振り返っていた。

狩猟大会は確かに大きな試練だったが、それ以上に、王国の防衛に潜む綻びと、貴族たちと帝国勢力の間に横たわる避けがたい緊張を浮き彫りにした出来事でもあった。


夜明けとともに、彼は再び王都へと向かう。そこでは、大会参加者への正式な表彰式が執り行われる予定だった。


王宮での晩餐会当日、ルシアンはエミリーを伴って会場に姿を現した。

広間は祝賀の空気に満ち、活気にあふれている。玉座には国王フィリップ・エルクハン・ケスラーが座し、その右には王妃アデリーナ、王太子アンドリューとその婚約者ロキシー・ブリッグス・バーン、そして王女エリザベス。左側には王の寵姫アレッシア・フェルッシ、公子レオナルド、その弟ミカエルの姿があった。


貴族たちはあちこちで集まり、狩猟大会での体験談を楽しげに語り合っている。

ルシアンは高級なワインが並ぶテーブルへと足を向けた。


エミリーは少し距離を保ちながら彼の後を追う。胸の奥がきゅっと締め付けられる感覚を無視できなかった。ルシアンの存在は、それだけで彼女を緊張させる。


「無理に飲まなくていい」


落ち着いた、しかし芯の通った声でルシアンが言った。

一言一言を慎重に選んでいるのが分かる。


エミリーはわずかに震える手でグラスを握り、小さく頷いた。

直接的な強要がなかったことに、心から安堵する。ほんの一口だけ口に含み、体を巡る緊張を抑えようとした。


ルシアンは黙って彼女を見つめていた。

その視線は、仕草や反応のすべてを読み取ろうとしているかのようで、エミリーの心臓は早鐘を打つ。彼女は思わず視線を伏せた。


――いつかは、彼を受け入れなければならない。

そう分かっていても、まだ心を許す準備はできていなかった。


二人を包む沈黙は、重く、しかし不快ではない。

言葉以上の意味が、視線や呼吸の間に満ちていた。


そこへソフィアがやってきて、ルシアンの頬を軽くつねりながら言う。


「飲みすぎないようにね」


愛情混じりの小言を交わした後、彼女はその場を離れ、再び二人きりになった。


エミリーはどう距離を縮めるべきか迷っていた。

その様子に気づいたルシアンは、軽く手を動かし、広間の中央へと誘う。


「心配しなくていい。ただ、俺について来ればいい」


慎重に頷きながら、エミリーは震える指でグラスを置き、一歩ずつ彼へと近づく。

恐怖、敬意、そして無視できない好奇心が胸の中でせめぎ合っていた。


少し離れた場所では、カーラ・ボーランスが父であるケイラー公爵と話していた。

だが、その視線はルシアンから離れない。


「不公平よ、父上。魔獣を大会に連れてくるなんて、禁止されるべきだわ」


公爵はため息をつき、諦めたように笑う。


「あの家は、いつだって抜け道を見つけるものだ」


カーラはルシアンを睨みつけた。


「見てよ、あのバカ。公爵夫人の力を借りて勝ったくせに、何とも思っていない。戦士とは呼べないわ」


「母親に甘やかされた坊ちゃんさ」

公爵は肩をすくめる。

「お前と本気で戦えば、きっと無様な結果になるだろう」


カーラは挑戦前に見せる、あの緊張した笑みを浮かべた。


「見てなさい、父上。学園で、きっちり歓迎してあげるわ」


「やりすぎるなよ。ソフィア公爵夫人は、ルシアン絡みだと特に敏感だからな。アンドリュー王子の腕を折った時も大変だった」


「心配しないで」

カーラは一切ためらわず、少しだけ声を和らげる。

「軽い骨折で済ませるから」


公爵は楽しげに頷いた。


別の一角では、イザベラ・アーメットが苛立ちを隠せずにいた。

カレブの執拗な求愛にうんざりしていたところへ、今度はレオナルド王子がダンスを申し込んできたのだ。


即座にカレブが割って入り、場の空気が張り詰める。


「イザベラ嬢、代役の王子と踊る気はないのかい?」


挑発的な口調に、レオナルドは鋭く言い返す。


「自分の弟にも敵わない男が言うことか」


火花が散る二人の間に、エリザベスが通りかかり、足を止めた。

彼女はこの因縁をよく知っている。そして、父とローレンス公爵の取り決めにより、イザベラ自身が相手を選べることも。


「イザベラ、こちらへ来て。静かな場所があるわ」


差し出された手を、イザベラは感謝とともに取った。


「まだ放ってくれないのね」

歩きながらエリザベスが尋ねる。


「もう限界よ。拒むこともできないし、家には止める力もないもの」


「分かるわ。私も父がいなければ、立場を利用しようとする人たちにどう対処していいか……」


エリザベスは、隙あらば近づいてくるロレンツォ・デニスに冷たい視線を向けた。


その途中、休憩室へ向かうルシアンと鉢合わせる。

疲労と、どこか上の空な表情を浮かべていた。


「ルシアン様、ごきげんよう」


「エリザベス王女、イザベラ嬢」


丁寧に頭を下げると、彼の疲れは少し和らいだように見えた。

彼女の存在は、いつも彼の注意を引いてしまう。


「休憩ですか? それとも……誰かを夢に見るとか?」


イザベラは、ルシアンがエリザベスに向ける視線に違和感を覚えながら言った。


「いや、人混みを避けたいだけだ」


そう答えつつも、彼の目はわずかな関心を隠しきれていなかった。

アンドリューが見ていたら、間違いなく眉をひそめていただろう。


一方、ルシアンと別れた後のエミリーは、松明に照らされた庭を望む窓辺で、兄の婚約者クラリス・スタンリーと出会った。


「元気? 兄は?」


平静を装った声の奥に、不安が滲む。


「こんにちは、エミリー。飲み物を取りに行ってるわ」


クラリスはかすかに微笑んだ。


その表情を見て、エミリーは眉をひそめる。


「元気がないみたい。何かあったの?」


「……家族が、マヌエルとの婚約を解消しろって」


エミリーは胸に手を当てた。


「私のせいだわ……ルシアンと婚約したから……」


「違うわ」

クラリスはきっぱりと言う。

「父が、面倒な問題に関わりたくないだけ」


エミリーは視線を落とし、考え込む。


「……あなたは、どうするつもり?」


「婚約は破棄しない」

クラリスの声には揺るぎない決意があった。

「家族の圧力でも、何でも。これは私の選択よ」


その時、マヌエルとアレハンドロが現れ、何も知らないまま明るく挨拶した。

会話は和やかに進み、ほろ苦い安堵の空気が流れる。


だがエミリーの胸の奥では、また新たな葛藤が、静かに形を成し始めていた。

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