「堕ちし者の遺産」
夕暮れの光が部屋の棚の隙間からかすかに差し込み、空中に漂う埃を赤く染めていた。ルシアンはベッドに横たわり、疲れ果て、打ち身だらけの体を投げ出し、半ば開いた瞳で苦しげに呼吸していた。ひとつ息を吸うたびに、自分が支払った代償を思い知らされる――肉、骨、人間性……それでもなお、生き延びていた。
囁きが部屋を横切った。冷たく、異様で、それでいて重みを帯びていた。ルシアンはゆっくりと首を動かす。そこにはケリスがいた。背を丸め、死にかけた光の中で煙のように揺らめく曖昧な姿。彼を包むエネルギーはかすれ、ほとんど幽霊のようで、その呼吸は、消えゆく世界の最後の鼓動を引きずっているかのようだった。
ルシアンは勢いよく目を見開いた。
胸の痛みが冷たい波のように広がる。部屋は溶け、世界は光の糸へとほどけ……そして再び目を開けたとき、そこにあったのは白い虚無だけだった。
周囲を満たす白の虚空には地平も境界もなかった。しかし声――あの声――が、よく知りすぎた柔らかな毒のように彼を呼んでいた。
そして、そこにいた。
ケリスが。
立っている――いや、かろうじて形を保っている。炎が苦悶の中で揺れるように、その輪郭は震えていた。その存在はなお空気を圧迫していたが、もはやかつてのようではない。崩壊しつつある神の影にすぎなかった。
「まだ死んでいないのか」
ルシアンは軽蔑の歪んだ表情で吐き捨てた。
ケリスは笑った。砕けた笑み。それでも終焉の縁に立ちながら、なお傲慢だった。
「もうすぐだ」
ルシアンは答えなかった。千の罵倒が舌先で燃えていた。だが、何のために? 憎しみはすでに役目を終えていた。
ケリスは片手を上げ、闇色の輝きが形成され始めた。
「我が最後の神性の残滓を、お前に残そう」
「いらない」
ルシアンは考えるより先に遮った。
神の瞳が苛立ちに光る。
「聞け、無知な人間め」ケリスは鼻を鳴らした。「英雄など所詮は道具に過ぎぬ。一人が死ねば、別の者が選ばれる。一人が反逆すれば、また別の者が代わる。常に誰かが仕え、常に誰かが彼らのために死ぬ」
「じゃあ……奴らは止まらないのか?」
怒りと疲労が混ざった声でルシアンが問う。
「決して止まらぬ」
ケリスは苦い勝利の気配を帯びて言った。
「お前にも、お前の同胞にも、安息はない。どんな勝利も、ただの息継ぎに過ぎぬ。輪廻が繰り返される前の、ほんの一瞬のな。神々は覚えている。神々は罰を下す。そしてお前が存在する限り、彼らの計画は歪み続ける。永遠に。お前が消える、その時まで」
ルシアンは眉をひそめ、胸の奥で怒りが炎のように燃え上がった。
「全部……お前のせいだ! この惨状も、すべて……お前の呪われた罪だ!」
拳を強く握り締め、関節が白くなる。
「なら、なぜこんなことをする? 生き延びる方法を探すべきじゃないのか? 崇拝を乞い、信徒にすがるべきじゃないのか?」
ケリスは笑った。乾いた、ひび割れた、それでも毒を満たした笑いだった。
「生き延びる、だと? もう手遅れだ。天界から追放された時点で、私はすでに断罪されていた。堕ちた神に帰る場所などない」
一歩近づく。存在しない床が震えた。
「だが、お前は……お前こそが、私の最後の復讐となる」
ルシアンはわずかに後ずさる。
「復讐、だと?」
「お前が存在する限り、奴らは苦しむ」
ケリスは囁いた。
「お前が彼らの計画を阻むたび、奴らは私にした仕打ちを思い出す。完全には私を消し去れなかったことを思い知る。お前は私の残響……そして奴らの拷問となる」
「奴らはお前を憎む、ルシアン」
塵となって崩れながら、彼は囁いた。
「その憎しみこそが、我が名となる……お前が存在するだけで、な」
次の瞬間、ケリスから溢れ出た神性のマナが、溶けた炎のようにルシアンの内へ流れ込んだ。存在のすべてを満たし、彼の闇は膨れ上がる。より濃く、より純粋に。血管は、いかなる凡人も触れたことのない太古の力で燃え上がった。筋肉は同時に収縮し、弛緩する――不可能な動きの秘密を知っているかのように。
その力が彼を貫く。それはマナとは違った。生きている。古く、飢えている。
ルシアンは息を呑み、恐怖に震えた。一瞬、自分が砕け散ると思った。
だが――砕けなかった。
彼はそれを受け止めた。
そして――それを奪い取った。
彼の黄金の瞳が内側から燃え上がる。それは自らの光ではない。今や彼の中に宿った神性の反射だった。低く唸るような振動が空気を伝い、胸を、地を、そして部屋そのものをさらに暗く染めた。周囲の影は、新たに生まれた力に敬意を払うかのように、静かに身を屈めた。
ルシアンは深く息を吸った。口を開いたとき、その声はもはや人のものだけではなかった。別の現実から響く残響を帯びていた。
「これは……俺のものだ」
体を巡る力を確かめるように、彼は呟いた。
「俺は神ではない……だが、どんな神であろうと、代償を払わずに俺に触れることはできない」
ケリスの塵はなお空中に漂っていた。神の灰は風に溶け、やがて最後の気配も消え去る。
ルシアンは独り残された。
だが、もはや同じ存在ではなかった。
憎悪、戦争、復讐から生まれた半神。存在する限り、神々に刻まれた生きた刻印となり、すべてを支配できるわけではないという事実を思い出させる存在。
彼の影は、自らの意思を持つかのように床で揺れ動いた。それは、今や彼が形作れる力の前触れ。彼の闇はもはや彼だけのものではない。あらゆる神意に抗いうる刃――だが、その代償を理解し始めたのは、まだ彼だけだった。
その闇は、祝福ではない。
それは――遺産。
最後の堕ちた神の遺産。
そして今、それは、継ぐことを望んだことなど一度もなかった一人の凡人に刻まれていた。




