表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

236/259

『神々の代償』

戦いの余韻はすでに消え去っていた。

だが、森にはまだ新しい血と焼けたマナの匂いが濃く残っていた。


十字軍――生き残ったわずかな者たちは、逃げていた。

撤退でも、再編でもない。

追い詰められた獣のように、ただ走っていた。


ある者の鎧には、ヴェリュリオンの黄金の輝きの残滓がこびりついている。

またある者は、神々の衝突から生まれた怪物に引き裂かれた、無残な死体を背負っていた。


彼らの目に宿るのは、恐怖ではない。

――見捨てられたという確信だった。


自分たちの神は、もうこちらを見ていない。


その人の流れに逆らうように、ルシアンは歩いていた。

引き裂かれた外套。

埃と他人の血にまみれた肌。

そして、あまりにも短い時間で、あまりにも多くの一線を越えてしまった者の、虚ろな瞳。


通りすがりの十字軍の一人が、彼に気づいた。


「ル、ルシアン……!」


言葉は震え、脚は言うことをきかなかった。

恐怖が、先に彼を裏切ったのだ。


ルシアンは振り返りもしなかった。

ただ、歩き続けた。


一歩ごとに、マナが空気の中で、死にかけの獣のように呻いた。

ダグラス領は、今まさに切り開かれた死体だった。


そしてその先――

引き抜かれた樹木の残骸と、湯気を立てる大地の向こうに、二つの影が待っていた。


エミリー。

カラ。


最初に駆け寄ってきたのは、エミリーだった。


「ルシアン!」


声は震えたが、必死に抑えようとしていた。


一瞬遅れて、カラが隣に立つ。

戦士としての冷たい視線で、彼を見据えた。


「怪我は?」


「いや……俺の血じゃない」


答えた声は、思っていたよりも柔らかかった。


「君は……無事か?」


エミリーは、すぐには答えなかった。

視線が、荒れ果てた光景をなぞる。

死体、砕けた鎧、粉々になった樹木。


「これ……神々がやったの?」


その声に、非難はなかった。

あったのは――裏切られた者の響き。


カラは歯を食いしばった。

怒りか、恐怖か、自分でもわからない感情を抑え込むように。


「ルシアン……あなたが追われているのは知ってる」


そして、吐き出すように続けた。


「でも、これは……次元が違う。

どうして?

何を企んでるの?

どうして、こんなやり方で、皆を罰するの?」


ルシアンは深く息を吸った。

もう、嘘をつく力は残っていなかった。

真実を飾る余裕も。


「神々は、不死じゃない」


ゆっくりと言葉を選ぶ。


「信仰が必要なんだ。祈りが……崇拝がなければ、存在できない。

マナ現象は――彼ら自身が引き起こしたものだ」


エミリーの目が、見開かれた。

世界が、音を立てて崩れるように。


「じゃあ……この人たちは……」


両手で口を覆う。


「ただの……資源、だったの?」


「そうだ」


短い一言が、底の見えない井戸に石を落としたように、重く響いた。


カラは苛立ちを爆発させ、岩を蹴った。


「ふざけるな……!

私たちは兵士よ、家畜じゃない!」


エミリーは一歩、ルシアンに近づいた。

彼の手を取る指は、震えていた。


「私たちは……あなたを助けに来たの」


囁くように言う。


「裁くためじゃない。

でも、これを見て……」


唇が、震えた。


「まだ、神々を信じる意味があるのか……わからなくなった」


赤い塵を含んだ風が、二人の周囲で小さな渦を巻いた。

世界そのものが、まだ痛みに身をよじっているかのように。


ルシアンは、沈黙した。

すべてを話したかった。

だが、それは啓示というより、狂気に聞こえるだろうと知っていた。


その時――

荒廃した森の奥から、引き裂くような叫び声が響いた。


エミリーは、ルシアンの手を強く握る。

カラは即座に剣を抜いた。


木々の間から姿を現したのは、

アレハンドロ、レオナルド、そしてシオマラだった。


アレハンドロが武器を掲げる。

その瞳には、憎しみと喪失が燃えていた。


「ルシアン!!

ようやく見つけたぞ!!」


炎の奔流が彼の手から噴き上がり、葉と枝を焼き尽くす。

ルシアンは即座に反応し、根や瓦礫を操って炎を逸らす。

爆発の光が、彼の顔に集中と警戒を映し出した。


だが、二撃目を放とうとした瞬間――


「アレハンドロ、やめて!!」


エミリーが叫び、彼に駆け寄った。


「こんなことをするのは、あなたじゃない!」


一瞬。

アレハンドロとルシアンの動きが止まる。


怒りに満ちたアレハンドロの瞳が、エミリーとぶつかる。

ルシアンも、彼女の介入に驚き、わずかな隙を見せた。


――それを、レオナルドは見逃さなかった。


第三王子は、葉陰を滑る刃のように側面へ回り込む。

雷撃がルシアンの背中を撃ち抜き、肩を焼いた。

喉を押し殺した叫びが漏れ、身体がよろめく。


その隙を突き、アレハンドロの炎が襲いかかる。

苦悶と集中が、ルシアンの表情に交錯する。

必死の回避。

だが、痛みは消えない。


「やめなさい、レオナルド!!」


カラが叫び、二人の間に割って入る。

全力で雷を受け止め、逸らす。


「彼に触れるな!!」


ルシアンは荒く息をし、肩から血を流しながら立っていた。

一瞬、迷いが彼を縛る。

身体中が悲鳴を上げていた。


――だが、止まれない。


マナを操り、地面から棘を生やす。

アレハンドロの足を絡め取り、地面へ引き倒す。


一閃。

正確で、容赦のない一撃。


エミリーの幼馴染だった男の怒りは、そこで終わった。


しかし、戦いはまだ終わらない。


レオナルドとシオマラは、カラとエミリーの叫びを無視し、前進する。

雷が火花と折れた幹を生み、

シオマラは水を鞭のように変え、致命的な精度で打ちつける。


傷つき、消耗したルシアンは悟っていた。

もう、後退はできない。


カラがレオナルドの雷撃を防ぎ、逸らす間、

ルシアンはシオマラに集中する。


計算された動きでマナを操り、水流を反転させる。

シオマラ自身の水が、彼女を包み込み、拘束する。


必死に抗う彼女の顔には、信じられないという思いと、覚悟が浮かんでいた。

だが、逃げ場はない。


最後の操作で、決着はついた。


シオマラは倒れ、濡れそぼち、力尽きた。

森は、その重さに息を潜めていた。


レオナルドは咆哮する。

もはや止められない狂気。


カラとエミリーが叫び、押し、懇願するが、進撃は止まらない。


その瞬間――

カラともみ合う一瞬の隙。


ルシアンは、残されたすべてのマナを解き放った。


背中から、心臓を貫く一撃。


正確で、冷酷な一太刀が、執念と怒りを断ち切った。


レオナルドは倒れ、最後の咆哮の余韻が森を震わせた。


ルシアンは膝をついた。

全身が震え、無数の小さな傷と火傷に覆われている。


呼吸一つ一つが重く、

鼓動は、代償を刻み続けていた。


カラとエミリーが駆け寄る。

恐怖と疲労に顔を歪めながら。


アレハンドロ、シオマラ、レオナルドの亡骸が、動かずに横たわる。


破壊された森。

折れた枝。

消えかけの炎。

水たまりに映る、歪んだ空。


そして――

闇が、ルシアンを連れ去った。


視界が滲み、

彼は根と瓦礫の中に倒れ込む。


完全な沈黙の中で。


森だけが、勝利の代償を知る、無言の証人としてそこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
"読んでいただきありがとうございます!コロンビア人ですが、日本のアニメや小説が大好きで頑張って書いています。翻訳ツールを使っての投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。"
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ