『堕ちし最初の英雄――アルノス』
戦場の空気が震えていた。
大地は鉄と、無数の足音によって巻き上げられた砂埃の匂いに満ちている。砕けた兜と屍の間で、アルノスは倒れることを拒む山のように立ち上がった。大地の巨人は獣のような怒りを帯びて呼吸し、黄金の鎧はひび割れ、血に染まりながらも、その剣はなお聖なる遺物のように輝いていた。
その足元で、若い兵士ダグラスが必死に這いずって逃げようとしていた。アルノスは彼の首を掴み、容易く持ち上げると、剣の刃を喉元へ押し当てた。
「よく見ろ、ルシアン!」
祈りが砕けたかのような怒号だった。
「降伏しなければ、全員死ぬぞ……! 全員だ!」
風が止まった。
戦場の誰もが息を呑む。
ルシアンはただ歩み寄った。
剣を抜かず、叫びもせず、ただ耐えがたいほどの静けさで彼を見据えた。
「それが、お前の正義か?」
「剣を持たぬ兵を脅すことが?」
アルノスは奥歯を噛みしめた。
それは恐怖ではない。傷ついた誇りだった。
「俺こそが彼らの剣だ! 神々は俺を通して語った! 俺を裁くことなどできぬ!」
「それは、殺人者が皆口にする言葉だ。」
その瞬間――ルシアンは剣を抜いた。
鋼の音が、押し殺された雷鳴のように響く。アルノスは咆哮し、若い兵を放り投げると、ルシアンを両断せんと振り下ろした。
それは純粋で凶暴な力――大地そのものを砕こうとするかのようだった。
だが、その剣は空を裂いただけだった。
ルシアンは横へ一歩。
正確に、計算されたように――いや、予測していたかのように。
アルノスが振り向くより早く、ルシアンの漆黒の刃が鎧に火花を散らした。
それは力ではない。技だった。読解だった。知識だった。
「貴様、自分の力が十分だと思っているのか!」
苛立ちを滲ませ、アルノスは怒涛の一撃を放つ。
ルシアンは再び見切る。
一歩。
もう一度の完璧な受け流し。
「なぜ神に従い続ける?」
ルシアンは静かに問いかけた。
「お前は、ただ利用されているだけだ。」
アルノスは聞こうとしなかった。
疲労が筋肉へ染み込み、呼吸は荒れ、吸う空気すら焼けつくようだった。再び放たれた一撃は城壁すら崩せる破壊力を持っていた。
だがルシアンは退かなかった。
むしろ前へ踏み込み、攻撃の拍子を崩し、アルノスの守りを破り、聖なる鎧の装甲を一枚剥ぎ取った。
巨人は喘ぎ、誇りと怒りを内に押し込めた咆哮を漏らす。
アルノスは再び剣を振り下ろす。
壁すら断つほどの一撃。
ルシアンは回避しようと動いた――
だが今回は、アルノスは同じ過ちを犯さなかった。
巨人は手首を捻る。
それは神に授けられた技ではない。
肉と痛みの中で学んだ動きだった。
剣が落下の途中で軌道を変える。
一瞬。
鼓動一つ。
わずかな誤差。
刃がルシアンの頬をかすめ、空気を裂きながら細い血の線を刻んだ。
戦場が凍りつく。
アルノスは笑った。
傲慢ではない。まだ殺せると知った男の怒りの笑みだった。
「貴様には……俺は倒せん。」
ルシアンは初めて一歩退いた。
恐怖ではない――
アルノスが神の技を捨て、もっと恐ろしいものとして戦っていると理解したからだ。
絶望した一人の人間として。
「いいだろう。」
ルシアンは顎を伝う血を拭いながら言う。
「ならば神なしのお前を見せてみろ。」
アルノスは咆哮し突撃した。
予測不能な動き。即興のフェイント。砕けた力。不完全に見える罠。
ルシアンはその場で読みを修正せざるを得なかった。
その読解は、もはや完全ではない。
ほんの一瞬――
二人は対等だった。
二人の男。
二つの情念。
二つの怒りが激突する。
そして、アルノスが人としての最後の火花を燃やし尽くした時――
ルシアンは隙を見つけた。
「選ばれし者を……殺せると思うのか……!」
アルノスは信仰と称号に縋る。
「いや。」
ルシアンの瞳は冷たく――どこか慈悲すら帯びていた。
「称号の裏に隠れた男を殺す。」
アルノスは叫んだ。
それは戦争ではない。誇りでもない。
神へ縋る祈りだった。
最後の突撃。
己のすべてを賭けた一撃。
ルシアンは避けない。
退かない。
ただ前へ出た。
刃はまず砕けた防御を貫き――
そして喉を貫いた。
アルノスは静止した。
空を見上げ、答えを探すように。
だが、もはや声も祭壇も、彼に応える神も存在しなかった。
首が血に濡れた草の上へ転がり落ちたとき、その表情は驚愕に満ちていた。
まるで最後に、神など最初から存在しなかったと理解したかのように。
その後に訪れた静寂は、勝利ではない。
啓示だった。
――英雄は死ぬ。




