全面戦争(トータル・ウォー)
ヴェリリオンの声が雷鳴のように生存した十字軍の上に響き渡った。
「進め!
ルシアンを逃がすな!
公国は滅び、運命の誤りは正される!」
神の存在そのものが、兵士たちを燃え上がらせた。
鎧は震え、旗は炎を宿したかのように揺れ、
十字軍一人ひとりが、自らの物語を書き換えられていくのを感じていた。
彼らは、もはや人ではない。
――神罰そのものだった。
空では、ヴェリリオンとケリスの神戦が頂点に達していた。
大地が軋み、
川は液体の蛇のように天へと巻き上がり、
山々は石の牙のように宙に浮かぶ。
純粋な光の雷撃が、闇の奔流と激突し、空間そのものを粉砕していく。
世界が、神々の怒りに耐えきれず歪んでいた。
それでも――
その大災厄の下で、十字軍は進軍を止めなかった。
ルシアンは仲間を集結させていた。
闇と覚悟に鍛え上げられた軍勢。
数では三倍劣るにもかかわらず、
ダグラス軍は一つの生き物のように動いた。
緻密な陣形。
完璧に守られた側面。
煙と影から放たれる弓と魔法の奇襲。
「突破させるな!」
ルシアンが剣を掲げて吼える。
霧の中、ダグラスの旗が翻る。
「この地を守って倒れろ!
侵略者を一人たりとも通すな!」
激突は一瞬だった。
鋼と鋼が噛み合い、
天から降り注ぐマナの波に悲鳴が飲み込まれる。
燃える矢、奔流するエネルギーが空を裂き、
神々の戦いを映すかのような混沌が地上を覆う。
十字軍の攻勢を率いるのはタマラ。
火と雷を吐き、守備陣を焼き払う。
デローラは影のように森を滑り、
警告が上がる前に喉を裂いていく。
光輪に包まれたエミリーは負傷者を支え続け、
サー・エドランとライラは容赦ない力で突破口を開き、
十字軍はさらに深く、公国へと踏み込んでいった。
――だが、ダグラスは一歩も譲らない。
倒れた者の代わりに、
この森、この街路、この罠を知り尽くした者が即座に前に出る。
彼らの防衛は舞踏だった。
進路を読み、影の障壁を張り、
守るべきもののために、必要な犠牲だけを払う。
戦場全体が意志の衝突で震える。
重力は揺らぎ、
葉はガラスのように震え、
空は不可能な色で裂けていく。
――世界が、神々を真似ているかのように。
「進め!」
ヴェリリオンの声が永遠の雷のように広がる。
「何ものも、お前たちを止められぬ!」
祝福に包まれた十字軍は、
光の壁となって前進した。
カラは前線を支え、
他の兵なら砕ける衝撃を身体で受け止める。
「押せ!
左をカバーしろ!」
一歩ずつ後退しながら、
彼女は攻撃よりも“守る”ことを選んでいた。
ケイタロウは瞬間移動を繰り返し、
負傷兵を肩に担ぎ、戦線から脱出させる。
剣を振るわない。
ただ命を救う。
そのたびに、戦場の地図が書き換えられていく。
一本のダグラスの旗が倒れた。
泥と血にまみれた若者が、それを拾い上げ、叫ぶ。
「ここは、俺たちの故郷だ!」
アレハンドロが火の壁を展開し、
突っ込みすぎた十字軍とダグラスの防衛線を分断する。
即死の惨劇を防ぐために。
ライラは天へと光線を放った。
敵ではない。
混沌を照らすために。
一瞬、
相反するマナを鎖のようにぶつけ合う神々の輪郭が浮かび上がる。
サー・エドランは剛力で押し返し、
剣で半円を描きながら叫んだ。
「負傷者を下げろ!
道を空けろ!」
エミリーは震えながら、
倒れかけた兵士たちの上に光の障壁を展開した。
息ができない。
ルシアンを見られない。
“敵側”を助けていると、彼に見られるのが怖かった。
――その障壁は、二十人を救った。
そして、彼女は膝をついた。
痛みではない。
恐怖だった。
ダグラスは再び隊列を閉じる。
耐え続ける。
十字軍に対して。
敵神に対して。
そして――消される運命に対して。
その頭上で、
空が今にも砕けそうなほどに軋む中――
ヴェリリオンとケリスは、
再び激突した。




