表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

231/266

神の降臨

公国の空が、千の光の亀裂に引き裂かれた。

まるで世界そのものが、最終審判を前に息を止めたかのようだった。

黒雲が不可能な螺旋を描いて渦巻き、純粋な輝きの雷光が薄闇を貫き、エリザベスが解き放った惨劇を照らし出す。

大地は生存者の足元で震え、あらゆる影が身をすくめた。

――魔物など比べ物にならない、何か“より上位の存在”が降り立ったのだ。


ルシアンは裂けた空を見上げた。

神の光が雲を切り裂き、公国全体に歪んだ影を落とす。

その一つ一つが、神々の裁きを告げているかのようだった。

だが、その壮大な光景よりも、彼の意識はもっと近くに引き寄せられていた。


戦場の残骸を呑み込む霧の中――

彼は“見覚えのある動き”を感じ取った。

目よりも先に、心がその存在を認識する。


エリザベス。


戦の咆哮の向こうから、柔らかく、それでいて確かな声が届く。

彼女だった。

限界を超えて愛した女性が、薄闇の中から彼へと歩み寄ってくる。


どこか、違っていた。

だが、その理由を考える余裕はなかった。


ルシアンは霧と散乱する死体の中に彼女を見つけると、迷うことなく強く抱きしめた。

周囲を覆う闇から守るかのように。


「どうしてここに……?」

心配が言葉の端々に滲む。

「危険だ。怪我をするかもしれない……宮殿に戻れ。そこから王都へ送られるはずだ」


エリザベスは微笑んだ。

危険と約束を孕んだ、どこか挑発的な笑み。


「いいえ……行かないわ」

その声は揺るがない。

「これが、私の望んでいた場所よ」


一瞬、世界が止まった。

周囲では戦が続き、降臨した神の光と闇がせめぎ合っている。

だが、二人の間には確かな“避難所”があった。

視線だけで交わした約束は、混沌も敵も死の奔流も消し去れない。


エリザベスは額をルシアンの額に重ねた。

夜のように深く、炎のように輝く瞳が、挑発と誘惑を同時に放つ。


「私が、あなたを傷つけさせると思う?」

遊びと脅しの刃を含んだ声。

「危険よ……あなたは戻るべき。次の攻撃がいつ来るか分からない」


ルシアンは頭を掻いた。

彼女の意志の強さを、誰よりも知っている。

ため息をつき、諦めと愛情を混ぜて言った。


「……俺のそばを離れるな」


エリザベスは一歩近づき、揺るぎない足取りで答えた。

いつも彼を無力にする、あの自信に満ちた笑顔で。


「ええ。絶対に、あなたのそばを離れない」


二人が並び立つ中、空はさらに裂けていく。

ルシアンが息を整える間もなく、

圧倒的な存在が公国へと降り立った。


――ヴェリリオン、降臨。


疲弊し、崩壊寸前の十字軍の生存者たちは、顔を上げた。

異様な静寂が戦場を覆う。

すべてが終わったかのように。


霧が歪み、木々が軋み――

そして、彼は現れた。


一筋の光が薄闇を貫く。

ヴェリリオンが天より降り、霧はその存在を前に屈した。

木々さえも、恐怖の証人のように身を低くする。

彼から放たれるマナの波動が闇を切り裂き、

十字軍の叫びと魔物の咆哮と混ざり合い、この世のものとは思えぬ轟音を生み出した。


光と影の不可能な均衡が、空気を震わせる。

疲れ果てた十字軍たちが見上げた瞬間、神のエネルギーが彼らを包んだ。

聖なる熱が全身を巡り、

傷は塞がり、疲労は消え、

砕けていた信仰が再び胸の中で燃え上がる。


「屈するな!

信仰は闇に折れぬ!

なぜ戦うのか、思い出せ!」


その声は心と森を貫き、兵士たちに決意を灯した。


軍が再編成される中、霧の奥に“空白”が生まれる。

闇が凝縮し、光を喰らう巨大な存在となった。


――ケリス。

太古に天界を追放された、闇の古神。


ヴェリリオンは立ち止まった。

本来、存在してはならない影。


「……旧友よ」

石を引きずる鉄のような声が響く。


オラクルは、蘇ってはならない死体を見るように彼を見つめた。


「ケリス……」

緊張を含んだ声。

「お前は、歴史になったはずだ」


二柱の存在に、大地が震える。

光と影のマナが衝突し、空気も木々も地面も歪めた。

十字軍には理解できなかった。

これは戦いではない――

太古から続く“清算”だった。


「嘘で私を追放したな」

ケリスの瞳が、裏切りの年月で燃える。

「偽りの幻視……捻じ曲げられた預言……

すべては、新たな女神のためだった」


ヴェリリオンの光が揺らいだ。


「均衡のためだった……」

声は、もはや確信に満ちていない。

「世界を守るために、お前は――」


「守る、だと?」

ケリスは吐き捨てた。


オラクルの声が変わる。

神性が剥がれ、人間的な恐れが滲む。


「……まさか」

震えた問い。

「この“誤り”を、この世界に持ち込んだのは……お前か?」


ケリスは冷たく微笑んだ。


「ああ、“誤り”だ」

囁くように。

「ルシアン。

存在してはならなかった人間」


ヴェリリオンの周囲で、聖なる光が砕け散る。


「異界から引き抜いたのか!」

怒りと恐怖が混じる咆哮。

「運命の書に記されぬ魂を!」


ケリスの笑いは音にならない。

希望、熱、音を喰らう“虚無”だった。


「その通りだ」

歩み寄りながら言う。

「運命を持たぬ存在。

お前の視界に映らぬ“数値”。

彼のおかげで、お前の書は血を流し……

永遠のオラクルよ、お前はもう何も見えない」


神は、言葉一つ一つに傷つくかのように身を強張らせた。

十字軍は魂で理解する。

信仰も神も、この戦争も――

今、書き換えられている。


ケリスの目的は破壊でも救済でもない。

ただ一つ。


――裏切った神を、引きずり落とすこと。


「人を操ることは許さぬ!」

ヴェリリオンが叫ぶ。


光と影が激突し、空が燃え上がる。

マナと闇が狂ったように絡み合い、

真の神性を目撃した十字軍は、再び武器を掲げた。


もはや、これは聖戦ではない。

神意と神意の衝突――

そして、人類はその狭間に立たされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
"読んでいただきありがとうございます!コロンビア人ですが、日本のアニメや小説が大好きで頑張って書いています。翻訳ツールを使っての投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。"
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ