魔王女、動く
エリザベスは、十字軍がその存在を疑うよりもはるか以前に、大地の震えを感じ取っていた。
公国に関する報告と、ルシアンを抹殺せよという神託が彼女のもとに届いた瞬間、彼女の心は沈黙を拒んだ。
何世紀ものあいだ、彼女は儀式と神々に従い、使い捨ての武器として生きてきた。
だが今回は違う。
従うことが望みではない。
彼を見つけること――それだけが、彼女の願いだった。
世界であろうと、神であろうと、それを止めることはできない。
宮殿は、静寂と空虚を残して背後へと遠ざかる。
目覚めの夜に鎖は砕け、自由は黒い太陽のように胸で燃えていた。
暁の光を吸い込む髪、限界を認めない瞳。
彼女は理解していた。
自らが敵の注意を引き、公国への道を切り開く存在であることを。
森の縁から、彼女の魔王のオーラが黒い帳のように広がる。
その呼び声に応え、数え切れぬ存在が集った。
凶暴な魔獣、炎の亡霊、生きる影――すべてが彼女の意志に従う。
エリザベスは迷いなく、公国外縁に布陣する十字軍へと力を解き放った。
攻撃は、黒き奔流だった。
魔物たちは隊列を破壊し、盾を砕き、鎧を喰らい、兵士たちから悲鳴を引き裂く。
矢や槍は無秩序に放たれ、下級の魔物を倒すこともあったが、その大半は闇に呑み込まれた。
エリザベスの一挙一動が、見えぬまま死を命じていた。彼女は囁きであり、戦場そのものだった。
若い十字軍兵は霊狼に喉を裂かれ、別の兵は盾を上げた瞬間、その腕ごと砕かれた。
抵抗は短く、生き残った者たちは死体と武器を引きずりながら逃走する。
霧と闇が秩序を喰らい、士気は陣形よりも早く崩壊した。
エリザベスは静かに、儀式のような足取りで前進する。
その一歩一歩が、ルシアンへと近づいていた。
彼女の思考はただ一つの名に縛られ、それが彼女をさらに強くする。
都市はその存在に頭を垂れるかのように、影を伸ばし、歪め、主を認める。
かすかな笑みは、致命的だった。
誰も彼女を見ることはない。
だが、誰もがその代償を支払う。
「――ルシアン……」
木々の間で、彼女は囁く。
「必ず、見つけるわ」
混沌は頂点に達する。
血に染まった泥、叫びと咆哮、引き裂かれる軍旗、無残な屍。
エリザベスは遠くからそれを見下ろし、思考一つでさらに魔物を呼び寄せる。
死と破壊の一つ一つが、彼女の支配を強め、黒い潮流は止まらなかった。
やがて混乱と死が静まったとき、戦場は敗北の絵図と化していた。
散り散りの十字軍、開いた傷、霧に沈む死体。
十字軍は、かつてない痛撃を受けたのだ。
エリザベスは静かに影へと溶け込み、その勝利の残響だけを残して姿を消す。
彼女の目的は、ただ一つ。
――ルシアン。




