信徒の軍勢、ドゥカート領へ
神々が最初の聖なる十字軍を招集してから、すでに数か月が経過していた。
その間、ドゥカート公国は城壁を強化し、兵を鍛え、人々を来たるべき運命に備えさせていた。
世界各地から集められた男女は、ただ一つの誓約のもとに結束していた。
――神託によって予言され、人類の滅亡をもたらすとされた“あの男”を討つこと。
数週間にわたり、神殿は使者を送り、兵士たちに祝福を授け、浄化の儀式を執り行った。
訓練場はやがて“生け贄の神殿”へと姿を変え、鉄と信仰が同じ炎の中で鍛えられていった。
この十字軍は、単なる戦争ではない。
それは神命であり、行軍するすべての魂は――神々の意思に殉ずるならば、死は名誉であるという確信を胸に刻んでいた。
地平線が、白と金に染まる。
アレハンドロ・マルチェンは軍勢の先頭から一歩前に出て、進軍する信徒たちを見渡した。
その動きは軍事的でありながら、どこか神聖ですらあった。
神々の紋章と古きルーンが刺繍された軍旗が、詠唱のリズムに合わせて揺れ、
兵士たちは筋肉にも、心臓にも、信仰を刻み込むように進んでいく。
背筋を冷たいものが走った。
人類がこれほどの力を結集できることへの誇り――そして、それを上回る恐怖。
この闇が討ち払われるその瞬間まで、この感覚が消えることはないと、彼は理解していた。
一方、軍の別の列では、エミリーが慎重でためらいがちな足取りで進んでいた。
その一歩一歩は、まるで世界の重みを背負っているかのようだった。
鎧は松明の光を反射し、かろうじて希望の形を保っているように見えたが、
彼女の表情は隠しきれない真実を映していた。
蓄積した疲労。眠れぬ夜。
そして、“義務”をどう果たせばいいのかわからないという緊張。
彼女の動きも呼吸も、すべてが抑制され、計算されていた。
――世界を変えかねない秘密を抱える者のように。
十字軍が止められないことは理解している。
それでも、胸の奥では、闇へと踏み込むその一歩一歩が、
彼女自身が愛するものへの裏切りであるかのように感じられていた。
軍勢がドゥカート領に足を踏み入れた瞬間、
濃密な闇が幕のように彼らを包み込み、すべての光を吸い込んだ。
やがて、自分の手すら見えなくなる。
火の神殿の司祭が前へ進み、松明に火を灯し、
太鼓と詠唱の轟音を貫くように声を張り上げた。
「恐れるな! 神々は我らと共にある!」
その言葉は、アレハンドロの心に深く突き刺さった。
一瞬、彼はただの戦士ではなく、
迫り来る闇に立ち向かうために選ばれた“守護者”であると感じた。
歯を食いしばる。
家族を失って以来、初めて――
神の炎が、単なる力の約束ではなく、
己の義務を思い出させるものとして、彼と共にあると感じた。
だが鎧の下、守護者としての確信の奥底で、
さらに暗い感情が蠢いていた。
復讐。
両親を失った痛み。
ダグラス家の手によって、すべてを奪われた記憶。
最初の兵士たちが領境を越えた瞬間、大地が震えた。
しかし、すぐに進軍は止まる。
闇が濃すぎる。何も見えない。
英雄たちは集まり、連携を取り直した。
エミリーが手を上げると、淡い光の輪が周囲の兵士たちを包み込む。
闇は数歩後退し、
それだけの隙を得て、英雄たちは前へ進んだ。
最初の戦闘が、今まさに始まろうとしていた。
その沈黙は、どんな鬨の声よりも脅威だった。
それは、信徒と英雄たちが築き上げてきたすべてを試す沈黙。
風は、火薬、マナ、信仰の匂いを運び、
そこに、アレハンドロがこれまで嗅いだことのない、
湿った土と影の異様な香りが混じっていた。
一歩進むごとに、ドゥカート領の奥は挑戦を突きつけてくる。
落ち葉は足元で軋み、
木々は彼らを見つめているかのようで、
森の薄闇には、夜の魔力が凝縮されていた。
光を喰らうために――
じっと、待ち構えながら。




