表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/241

第一章 ―― 勝利

これは、死ぬ運命を定められた一人の男が、

神々に押し付けられた結末を拒む物語である。


 


ついに、ゲーム会社ニューゲームズは発表した。


看板JRPG――

『魔導世界大戦アルケイン・ワールド・ウォー』。


その最優秀賞受賞者を。


 


公式サイトに表示された名が、モニターの中で白く浮かび上がる。


hine_pro


エルウィン・レノックスのユーザー名だった。


 


安いコーヒーの空き缶が机に積み上がっている。

指先はわずかに震えていた。


 


五十万ドル。


現実が、ようやく報われる。


 


裏ボス。

最適化。

最短攻略ルート。


常軌を逸した総プレイ時間。


それでも、やめなかった。


 


送信フォームを執念のような正確さで埋める。


認証コード。

登録証明。

スクリーンショット。


 


「……よし」


 


最後に“送信”を押す。


心臓が、強く鳴った。


人生が変わる音がした。


 


――だが。


 


彼はまだ知らない。


すでに、変わっていたことを。


 


翌朝。


 


ソファで目を覚ました瞬間、体が鉛のように重いと気づく。


呼び鈴が鳴った。


頭の奥で、昨夜のキーボード音がまだ反響している。


 


玄関を開ける。


 


黒いスーツの男が立っていた。


完璧に整えられた身なり。

だが、その笑みは目に届いていない。


 


「……どちら様で?」


 


男は答えない。


一歩、踏み出す。


 


金属の閃光。


 


冷たい衝撃が胸を貫く。


 


「あ……?」


 


温い血が喉までせり上がる。

息が、うまく吸えない。


 


理解するより早く、世界が崩れた。


床が遠ざかる。


視界の端で、男の口元が歪む。


それは、人の笑みではなかった。


 


闇が、すべてを呑み込む。


 


 


目を開ける。


 


湿った風が頬を撫でる。


苔の匂い。

濡れた土。

葉擦れの音。


 


森だった。


 


ゆっくりと身を起こす。


腕が長い。

指が細い。

体の重心が違う。


 


「……は?」


 


背後に、気配。


 


振り向く。


 


黒いローブの男。


赤い瞳が妖しく輝いている。


 


本能が告げる。


人ではない。


 


「こんな形になったことは詫びよう」


低い声が、森を震わせる。


「だが、時間がなかった」


 


「何をした……」


 


「選んだ」


 


短い答え。


 


「お前は越えた」


 


「越えた? 何をだ!」


 


赤い瞳が細まる。


 


「魔導世界大戦は遊びではない」


一拍。


 


「クーリアに適応できる魂を探すための、選別だ」


 


意味はわからない。


だが、心臓が嫌な音を立てる。


 


「ここは現実だ」


 


「神々が盤面を動かし、魂に運命が刻まれる世界」


 


赤い瞳が射抜く。


 


「――ただし、お前を除いて」


 


喉が鳴る。


 


「お前は《運命の書》に存在しない」


 


宣告だった。


 


「干渉できず、予測できず、導けない」


 


一歩、近づく。


圧力が増す。


 


「だから必要だ」


 


「何のために……」


 


わずかな沈黙。


 


「変えるためだ」


 


それ以上は語らない。


代わりに告げる。


 


「お前はルシアン・ダグラス・ド・モンドリングの肉体を得た」


 


心臓が止まりかける。


 


その名を、エルウィンは知っている。


 


物語で――


七日後、討たれる悪役。


 


「融合は七日で完了する」


 


淡々とした声。


 


「使い方を誤れば、消える」


 


記憶が流れ込む。


血。

決闘。

黒き契約印。


 


そして――


銀の髪の少女。


冷たい瞳。


 


剣が、胸を貫く未来。


 


(エミリー……)


 


ゲームのヒロイン。


自分を殺す存在。


 


七日。


あと七日で、死ぬ。


 


森の奥で、鎧の軋む音がした。


 


「すでに、始まっている」


 


男の姿が黒煙のように揺らぐ。


 


「生き延びろ」


 


「待て――!」


 


最後の言葉が落ちる。


 


「ここで死ねば、終わりだ」


 


完全な消失。


 


森の静寂。


 


震える手を見下ろす。


白い。

細い。

悪役の手。


 


――運命の外にいる。


 


ならば。


 


壊せる。


 


そのとき。


 


「……ルシアン」


 


震える声。


 


振り向く。


 


馬上の女性。


黒髪が乱れ、泥に汚れた衣。


 


その瞳に浮かぶのは、恐怖ではない。


安堵だ。


 


「無事で……よかった……」


 


その声だけが、胸に残る。


 


知らないはずの温もりが、かすかに疼く。


 


だが。


 


七日後、自分は討たれる。


 


物語では、そう決まっている。


 


ならば。


 


書き換えるしかない。


 


運命の外側から。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
"読んでいただきありがとうございます!コロンビア人ですが、日本のアニメや小説が大好きで頑張って書いています。翻訳ツールを使っての投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。"
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ