蜘蛛の巣
狩猟トーナメント三日目。空気は緊張と絶望で張り詰めていた。マヌエル・カーター率いるグループの状況は、すでに混沌としていた。
エミリーとアレハンドロは森の中を探索中、巨大なクモの巣に出くわす。退く間もなく、命をかけた戦いを強いられた。すでに四人の騎士が倒れ、残る者たちはクラスBの巨大クモとクラスDの幼体たち、合計55体の魔物と格闘していた。地面には銀色の糸に絡まった死体が散乱し、十匹の幼体は炎の呪文で焼かれていた。
エミリーは手を掲げ、魔法を発動する。ルミナス・レイディアンス。
足元に黄金色の光の円が広がり、静かな潮のように森全体に浸透していく。かつては重くねばつくようだった蜘蛛の巣の影響も消え、肺を押さえていた見えない圧力は消え去った。騎士たちは、体内にマナが再び流れ込むのを感じる。
その光はただ照らすだけではない。秩序をもたらす。群れが歪める周囲の魔力を整え、暗黒魔法を弱め、光の下で戦う者たちを強化する。
アレハンドロは躊躇なく前へ進む。剣は通常より安定し、生き生きとした炎に包まれ、木々から降りる糸を切るたび、体力の消耗は少なかった。かつてならすぐに疲労した呪文も、今は遅れてやってくる。体が予想外の効率で応えているかのようだった。
光がなければ、この先に進めなかったことは誰もが知っていた。巣の空気は毒と魔力の残留物で満ちている。エミリーの浄化なしでは、最初の幼体と戦う前に全員が倒れていただろう。
ルミナス・レイディアンスが続く限り、戦局は味方だった。
しかし、真の危険は地上にはなかった。
巨大なクモは木の天蓋の間を不自然なほどの敏捷さで移動する。影に紛れ、ほとんど見えない。上から、暗黒の糸の網を放ち、二人の兵士を絡め取る。反応する間もなく、地面から引き剥がされ、濃い森の奥へと引きずられていった。
「上だ!」アレハンドロが警告する。
生物の動きを見極め、剣を振り、広範囲の火炎を解き放つ。空中で糸を焼き、クモは一瞬退く。仲間たちもすぐに追随し、炎と火花、制御された爆発で糸を切断した。
それでも、直接攻撃が届くと、結果は歯がゆかった。
剣は体に当たっても乾いた音を立て跳ね返るだけ。モンスターの外骨格は暗黒マナに満ち、鉄製の武器では表面にかすり傷をつける程度だった。
ウィリアムだけが、クモを後退させることができた。
剣が当たるたび、外骨格は重く軋み、炭化した破片が剥がれる。しかし代償は大きい。呼吸は重くなり、体を包むオーラは揺れ、額には汗が滲む。クラスBの魔物を押さえ続けるには、マナを異常な速度で消耗する。
ウィリアムが一瞬でも手を緩めれば、クモは再び空中から戦局を支配する。
そして皆、それを理解していた。
クモは戦術を変える。天蓋の影から、油断している者たちに静かに降下し、毒を注入して再び姿を消す。ウィリアム、グループ最強の騎士、マギスターの称号を持つ彼も捕らえようとするが、クモは速すぎた。
エミリーの真上に降りた瞬間、炎の閃光が森を照らす。アレハンドロは迷わず範囲5の火炎呪文を放ち、枝を燃やし、クモを押し戻す。騎士たちは攻撃を続けるが、クモは鋭い悲鳴をあげ、幼体たちは新たな怒りで襲いかかる。兵士たちは後退し、負傷と疲労に苦しむ。
そのとき、木々の間に轟音が響く。第二のグループ、ダニエル・カーターとその部隊が到着した。子どもたちの安全を考え、ダニエルは離れすぎることはなかった。彼らの到着で戦況は一変する。数分で幼体は殲滅され、母クモは怒りに燃えて無謀に突進する。
ダニエルは前へ出る。剣は光のマナで包まれており、打つたびに怪物の暗黒エネルギーを跳ね返す。負傷しながらもウィリアムが加勢し、共にクモの脚を幾本も切断した。絶望的な最後の攻撃として、クモはウィリアムに飛びかかり、牙を肩に突き刺し毒を注入する。
「いやっ!」エミリーは手を伸ばす。
呪文を放つ前に、アレハンドロが駆け寄る。炎に包まれた剣をクモの額に突き刺す。全マナを集中し、叫ぶ。
「地獄で燃えろ!」
剣から炎が立ち上り、クモの頭部を焼く。悲鳴をあげた怪物は倒れ、動かなくなる。
後の静寂は重く、巣を焼く炎だけが聞こえた。ダニエルはウィリアムの元へ駆け寄る。ウィリアムは毒を中和する薬を飲む。
「大丈夫か?」ダニエル、真剣な声。
「大丈夫です、閣下。…計算ミスでした。」ウィリアムは立とうとする。
ダニエルは眉を寄せる。「どうしてこんなことに?」
「僕の不注意です。木に張られた糸に気づきませんでした。森の端でクラスBの魔物が出るとは思わなかった。」
ダニエルは子どもたちの元へ。エミリーとマヌエルは汗まみれだが無事。
「エミリー、母親と一緒にいるべきだったのに。どうして来たんだ?」
「父上…強い魔物がいるとは知らなかったのです。まだ奥まで入っていませんでした。」
ダニエルはため息。「今はモンスターの子が生まれる時期。親は子を守るため散らばる。王国がトーナメントを開くのは、森を清め、首都に脅威が迫らないようにするためだ。」
マヌエルは憤る。「つまり、貴族たちが王国の汚れ仕事をやらされているだけか。」
ダニエルは苦笑。「そうだ。しかし楽しむ者もいる…」
マヌエルは意味を理解した。「だからダグラス家はいつも勝つんだな。彼らにとって義務ではなく、力を誇示するチャンスだ。」
ダニエルは叱ったが、エミリーの気持ちは理解していた。ルシアンとの約束、貴族の噂で孤立した彼女の想い。自分で立証したかっただけだ。
死体の処理と巣の焼却を指示し、ダニエルは去った。アレハンドロは兄妹に近づく。
「怒られ方、大丈夫だったか?」疲れた笑み。
「想像以上に…」マヌエルは諦めたように答える。「父は激怒していた。」
エミリーは視線を落とす。「私のせいです。来たことを主張しなければ、騎士たちは生きていたのに…」
マヌエルは肩に手を置く。「そんなこと言うな。死は騎士の道の一部だ。主や仲間を守って命を落とす以上の名誉はない。」
エミリーは涙をこらえ、感謝して抱きつく。しかし心は別の名――ルシアンへ。彼ならどうしただろうか。
アレハンドロは眉をひそめる。「どうした、エミリー? あの“アクセサリー”と一緒にいたほうがよかったのか?」
「アクセサリー?」エミリー、困惑。
「アレハンドロの呼び方さ。称号に値しない甘やかされた貴族だ。」マヌエル、皮肉交じりに言う。
アレハンドロは地面を打ち、苛立つ。「あいつは皆より上だと思っている。ダグラスの名と家の恐怖で生きている。」
エミリーは厳しい目で。「言うな、アレハンドロ。ジョエル男爵がダグラスを侮辱してどうなったか知っているだろう。」
沈黙が重く、緊張感に包まれる。
マヌエルが最初に口を開く。「男爵は侮辱した…そしてルシアンは処刑を命じたんだろ?」
エミリーは視線を落とす。「違う…」
「理解していない」エミリーは小さく囁く。「男爵は脅した。ルシアンは守るために反応した。でもその後のことは…私のせい。口を開かなければ、何も起きなかった。」
アレハンドロは拳を握る。「それでも、あの男は恐怖に囲まれて生きている。いつか誰かが終わらせるべきだ。」
エミリーは心配で見つめる。「無茶するな。あの家の力を理解していない。ルシアンは父親とは違うが、挑発すれば代償は大きい。」
アレハンドロは焚火を見つめ、眉をひそめる。火花ひとつひとつが怒り、無力さ、屈辱を思い出させる。
「だから…」声を固くして、「カーター伯爵の騎士をやめ、王国騎士団に入る。いつか家名を取り戻し、ダグラスの力を終わらせる。」
言葉には冷たい決意が宿り、エミリーも震える。
マヌエルは黙って聞き、拳を握る。「それが君の道なら、俺は支える。妹が苦しむのを黙って見てはいられない。」
エミリーは恐怖で見つめる。「マヌエル、言わないで! 何を言っているのかわかってない。」
しかしマヌエルは怒りと無力感に駆られ続ける。「カーター家の名誉と王国の正義を聞いて育った。でも、その正義がダグラスの好き放題を許すなら、もう関係ない。」
アレハンドロは驚くも、承認の色が一瞬浮かぶ。「つまり、俺は一人じゃない…」
エミリーは顔を覆い、涙を流す。「お願い…やめて! 私のせいで死なないで。わかって…ルシアンは、あの人たちじゃない。」
アレハンドロは眉をひそめる。「何を言っている?」
エミリーは息を震わせ、あの邸宅での光景を思い出す。「彼が震えていたのを見た…恐怖を見た。怪物じゃない。何か…壊れている。」
マヌエルは驚きと困惑の入り混じった目で見つめる。「好きなのか?」
一瞬、視線を上げる。火の反射が疲れた瞳に黄金の光を描く。
「あなたたちは理解していない。ダグラスに立ち向かうのは勇気の問題ではなく、死刑判決だ。すべての動き、すべての言葉に代償がある。間違えば家族も巻き込まれる。」
マヌエルは頭を下げ、妹の口調に居心地悪さを覚える。
アレハンドロは悔しさと痛みの入り混じった目で、焚火を見つめる。
「あの男に君まで奪わせはしない。」歯を食いしばり、痛みを感じるほどに決意する。




