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帝国の英雄 — ケイルとミリエル

風はまだ、空気に氷の粒を運んでいた。

王国の英雄たちと、帝国から新たに到着した英雄たちは、マルチータ・ヘラダの退却の後、静かに集まっていた。


雪は凍った兵士たちの死体を覆い、重苦しい静寂が支配していた。わずかに割れる氷の音だけが、アレハンドロの炎でゆっくりと溶ける大地から聞こえた。


アレハンドロは額の汗をぬぐい、仲間たち――ルシアン、カーラ、エミリー、ドリアン――を見渡す。

反対側では、新たに到着した二人の帝国の英雄――エリックとセレーネ――が冷静な目で状況を観察していた。神器は小さく光を放ち、マルチータ・ヘラダが去った後も、いかなる脅威にも対応できる準備を整えている。


沈黙を破ったのはカーラだった。


「残った兵士はどれくらい?」


帝国の将校がうなだれ、憂いを帯びた声で答える。


「……半分もいない。この地域に進軍していた二つの軍団は、壊滅した。ほとんどは凍死し、残った者も機能停止状態だ」


ルシアンは異様な興味をもってその光景を見つめていた。

誰も知らなかったが、彼はかつて、別の世界の、別の人生でマルチータ・ヘラダと対峙したことがある。

その生き物の動きはすべて、彼には馴染み深いものだった。

知識があるゆえに、冷静に分析できる――あの化け物は知性があり、忍耐強く、絶対的な有利がない限り攻撃しない。


震えるエミリーがアレハンドロの元へ近づいた。


「信じられない……あなた……止めたのね……」

彼女は溶けた氷を指差す。

「本当に……すごかった」


アレハンドロは頭を振り、荒い息をつく。


「止めたわけじゃない。

ただ……戦う価値がないと納得させただけだ」


「納得させた?」

セレーネが眉を上げる。

「私たちには、この手段はない。こういう捕食者に直面したら、容赦は効かない」


カーラはルシアンに目を向ける。

彼は後方に残った兵たちを連れて、ただプリンセス・エリザベスを守るためだけに来ていた。


ルシアンは腕を組み、表情は変わらない。

頭の中では冷静に計算している――もしマルチータ・ヘラダが戻れば、どう抑え、どうすれば撃退できるか。ただし大きなリスクを伴う。

今の優先事項はエリザベスの安全と、帝都まで無事に届けることだった。


エリックが低く、重い声で話す。


「帝国は損失を確認中だ。即座の援軍がなければ、この地域は無防備だ」


ルシアンは少しだけ頭を傾け、冷静さを崩さず答える。


「帝国を救う義務はない。

我々の任務はプリンセスを安全に帝都へ届けること。それ以外は後回しでいい」


帝国の英雄たちは不信と怒りの目で彼を見た。

一人が一歩前に出て、緊張した声で問う。


「お前は誰だ?なぜ我々と戦わない?」


ルシアンは一瞬、彼らを見つめる。

時間をかけず、腕を組み、低く、しかし重みのある声で告げた。


「私はモンドリングのルシアン・ダグラスだ」


その名は、冷たい一撃のように響き、空気は、マルチータ・ヘラダの退去後の静寂よりも重く感じられた。


兵たちは互いに目を合わせ、顔を青ざめさせる。

帝国のベテランたちは、かろうじて恐怖を抑えつつつぶやく――

「死の死神」……ダグラス家の戦記は誰もが知るところ。

彼の戦歴は王国と帝国の両方に血と炎の跡を残していた。


誰も反論できない。アレハンドロも、レオナルドも、帝国の英雄たちも。

たとえマルチータ・ヘラダがそこにいたとしても、この人間の圧倒的な力を前にすれば、感じ取らざるを得なかっただろう。


カーラは一歩前に出て、ルシアンが全員に与える影響を理解し、声を少し落として説明した。


「彼は……プリンセスを守っている。それだけで十分」


エリザベスはうなずく。

帝国の英雄たちは、ルシアンの名と彼の存在が持つ重みを理解した。

ルシアンは英雄ではない。人間の自然の力そのものだ。

意図は明確でも、恐怖と尊敬は、雪のように濃く降り積もっていた。


マルチータ・ヘラダは遠くへ去ったが、その残した冷気は依然として彼らを覆っていた。

雪は白い裏切りの帳のように大地を覆い、凍った兵士や民の遺体は、ほんの数分前に起きた惨劇を思い出させた。


キャンプは迅速に組織された。

ルーンで強化されたテントが松林に立ち、青い焔が夜を照らし、生存者たちから寒さを追い払った。

負傷者はカーラとエリザベスの側近たちにより手当てされ、英雄たちは状況を評価する時間を持った。


その時、帝国からの二人の新たな英雄が目立った。


サー・ケイル・ヴェイロン――氷のオメガ適性を持つ、元素制御の達人。

言葉は不要だった。

彼が杖を動かすだけで、負傷兵を守る雪と氷の障壁が瞬時に生まれる。

冷たい瞳は、キャンプの隅々を読み、潜在的危険を予測している。

傲慢さはなく、神に選ばれた者の、戦争を精密に制御する静かな集中があるのみ。


雪はキャンプに降り続け、負傷者は毛布の上で横たわり、空気は鉄と残留マナの匂いに満ちる。

兵士たちはマルチータ・ヘラダを思い出し、恐怖のささやきが列に広がる。


そこに、ケイル・ヴェイロンとミリエル――神々に選ばれし若き平民英雄――が現れた。

大げさな言葉は不要。

動きは正確で決然としており、混沌に慣れていることを示す。


ケイルが杖を掲げると、瞬く間に氷の柱が立ち、キャンプの側面を守る。

ミリエルは根と土を操り、負傷者を囲む自然の防壁を作り出す。


アレハンドロ、レオナルド、カーラ、エミリーは沈黙して見守る。

敵対ではないことは明白だった――全員がオメガ英雄、神に祝福され、同じ責任を背負う者たちだ。


「負傷者は確保した。安全に前進する準備ができる」

アレハンドロが配置を確認しながら告げる。


ケイルはわずかにうなずき、ミリエルは盾を調整。足元の地面を強化するルーンが光る。

すべての行動は正確、効率的、誇示ではなく、優先は生存と保護。


雪に覆われたキャンプの中、主要テントでは地図が広げられ、松明の光が英雄たちの緊張した顔に影を落とす。

エミリーが会議を進め、カーラとアレハンドロが耳を傾ける。

レオナルドは沈黙し、軍と地形を評価していた。


ケイルとミリエル、神々に祝福された新たな英雄たちは、決意をその動作に刻み込む。


「マルチータ・ヘラダと対峙するなら、全ての資源が必要だ」

ケイルが低く、確固たる声で言う。

「軍は我々と共に進むべきだ」


「駄目」

エミリーが介入する。怒りと苛立ちを抑えながら。

「この軍は我々のものではない。プリンセス・エリザベスの指揮下にある」


キャンプは新雪に覆われ、兵士たちは負傷者の手当てに静かに働く。

テント内でケイルとミリエルは強く主張する。


「ここに留まれない」

ケイルが告げる。

「マルチータ・ヘラダは全てを破壊し続ける」


ミリエルもうなずく。

大地の瞳が決意に輝く。


エミリーは深呼吸し、恐怖と苛立ちを抑える。


「分かっている。

でもルシアンはプリンセスから離れない。我々の任務はエリザベスを帝都まで護ること。

誰も、何も、それを変えられない」


英雄たちは目を合わせ、決定の重みを理解する。

プリンセスの安全が最優先。

モンスターを放置すれば周辺都市に危険が及ぶかもしれないが、それは受け入れざるを得ない。


最終的にアレハンドロが口を開く。


「なら早く行こう。マルチータ・ヘラダを追う。我々はもう待てない」


ケイルとミリエルはうなずき、王国の英雄たちと共にモンスターと対峙する覚悟を決める。


レオナルドは冷静ながらも強い声で言った。


「ここに留まれない。時間が経つほど、モンスターは進み、南方の村々が代償を払う」

ルシアンを見つめるが、彼は動じない。

「帝都に向かい、軍を再編成し、そこで討伐を計画する」


エミリーは負傷兵とキャンプの残骸を抜け、ルシアンの元へ進む。

彼は立ち、雪を見つめ、傍らにはエリザベスがいた。彼女は静かに状況を案じていた。


「ルシアン――」

エミリーは心配混じりに、しかし毅然と告げる。

「英雄たちはマルチータ・ヘラダを追う。放置すればこの地域は危険です」


ルシアンは息を吐き、視線をエリザベスから外さず、表情に緊張を漂わせる。

次に彼女を見ると、義務と愛情が混じる複雑な感情が読み取れた。


「なら、帝都へ向かう」

ルシアンは決意を込めて言う。

「エリザベスは私から離れない。私も彼女から離れない」


エミリーは眉をひそめ、苛立ちと諦めを交えた表情。しかし、心は揺れた。

ルシアンが譲らないこと、そしてプリンセスを守ることが最優先だと理解していた。


「分かった」

エミリーは小さく、抑えた愛情の声でつぶやく。


「気をつけて、やりすぎないで」

ルシアンは腕に軽く触れる。ほとんど感じないその仕草が、千の言葉より雄弁に愛情を伝えていた。

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