血の一年(ちのいちねん)
ソフィア・ダグラス・オブ・モンドリングの死から、
一年が過ぎていた。
ルシアンは、自らに“思い出すこと”を強いた。
前の人生――
あの“ゲーム”の不完全な記憶の断片を頼りに、
王国内に存在する悪魔教団のすべての隠れ家、
すべての巣窟、
すべての死角を、必死に組み上げていく。
思考が焼き切れるまで。
頭痛で視界が歪むまで。
一つの見落としが、死の味を伴うほどになるまで。
確信を得たとき、
彼は机の上に地図を広げた。
黒いインクで、地点を一つずつ刻む。
――それは、未来の墓標だった。
そして、
狩りが始まった。
だが王国は、
暦が進んだことで“それ”を知ったのではない。
血の匂いで、気づいたのだ。
灰と化した悪魔教団の神殿。
月のない夜に消えた、途切れた悲鳴。
震えながら都に辿り着く伝令たちの囁き。
「北の公爵が……
また、狩りを始めた……」
あの日、滅ぼすと誓ってから――
ルシアンは、一度も止まらなかった。
一年で、
「ルシアン・ダグラス」という名は、
光の届かぬ場所で囁かれる“恐怖”となった。
農民たちは語った。
白き雷と、影でできた狼を従えて旅をすると。
兵士たちは断言した。
一人の教団員を追って、森を丸ごと踏破したのを見たと。
貴族たちは――
語らなかった。
語る勇気がなかった。
だが、教団員だけは違った。
彼らは、真実を知っていた。
それは、
音もなく落ちる嵐だった。
数十年かけて築かれた秘密神殿と隠れ家は、
わずか数か月で消し飛んだ。
かつて好き放題に振る舞っていた闇の司祭たちは、
今や、ネズミのように逃げ惑っていた。
最初の冬、
ルシアンは“血の系統”を司る大司祭を見つけ出し、処刑した。
春には、
フラクタル山脈で三つの召喚核を殲滅。
夏には、
汚染されたマナを運ぶ密輸キャラバンを丸ごと潰した。
そして――
秋。
一人だけ、
言葉を残せた教団員がいた。
恐怖で命尽きる直前、
彼は四語だけを吐き出した。
「……あの子供は……化け物だ……」
狩りと狩りの合間も、
ルシアンは休まなかった。
エミリーは見ている。
百本以上の剣を折る姿を。
凍った地面に倒れる姿を。
肉が裂けた手で立ち上がる姿を。
血が肘まで滴り落ちても、
彼は剣を振るのをやめなかった。
食事は、
高濃度マナを含む肉と抽出液。
人間が摂取してはならない量だ。
一口ごとに、マナ中毒へ近づいていく。
それでも彼は進んだ。
自然な成長ではない。
純粋な暴力と、歪んだ意志で――
無理やり“レベル”を引き上げていた。
夜、意識を失った彼を、
サンダーが城まで運ぶこともあった。
アンバーは、
常にその傍らで眠り、目を光らせていた。
エリザベスは……
できる限り彼に同行していた。
彼は、
闇がまだ息づく場所に、
彼女を近づけまいとしていたが。
なぜなら――
恐怖は、消えていなかった。
決して口にしない、その恐怖。
――もし、教団に見つかったら。
――もし、彼女を器として狙われたら。
――もし、“ゲームの未来”に気づかれたら。
許さない。
死んでも。
生きていても。
どんな現実であろうとも。
雪が、
王国北部の森に静かに降っていた。
闇の中、
小さな悪魔教団員の一団が逃げ惑う。
誰かが転び、
誰かが呪い、
最年少の者が泣き出した。
「振り返るな!
振り返るな――!」
白い雷が、
彼らの間に落ちた。
指導者の身体が、
炭と化して吹き飛ぶ。
サンダーが、
雷鳴のような咆哮を上げた。
アンバーが、
木々の間から現れる。
牙を備えた、生きる影。
そして――
ルシアンが、
馬上から降り立つ。
より高く。
より強く。
より冷たく。
その瞳に、
慈悲は一片もなかった。
「お前たちには――」
剣を握りしめる。
「生きる資格がない」
悲鳴。
ほんの数秒。
残ったのは――
引き裂かれた肉体だけだった。




