『敵は、すでに内側にいた』
公国近郊の三つの村で、民に紛れ込んでいたカルト信徒たちが、一斉に悪魔の遺物を起動させた。
――共鳴崩壊のルーン。
低く、不吉な振動音が空気を走る。
ルーンは反マナ周波の衝撃波を放ち、都市防壁を内側から震わせた。
わずか三十秒。防御率は四〇%も低下した。
ダグラス家の隊長たちは、互いに顔を見合わせ、凍りつく。
「……異常だ」
「内側から結界を破っている……!」
「誰がこんな遺物の持ち込みを許可した!?」
「どうやって……どうやって公国に侵入したんだ……?」
次の瞬間、信徒たちは声を張り上げ、唱和した。
「――深淵の主の再生のために!」
そして、躊躇なく自爆した。
暗黒マナの爆発が彼らを飲み込み、その衝撃で防御結界はさらに六〇%崩壊する。
もはや抑止は存在しない。
レベル80〜90の魔物の大群が、何の制限もなく城壁を越えてきた。
遠くで太鼓が鳴り響く。
角笛が戦を告げる。
迫り来る混沌の咆哮に、大地が震えた。
防衛都市は明らかに破壊されつつあった。
倒壊した塔、燃え上がる家屋、空へ立ち昇る黒煙。
戦鼓が鳴る中、レベル80〜90の魔物たちは致死的な連携で前進する。
魔獣騎兵とダグラス軍は、必死に食い止めるのが精一杯だった。
危機感は、もはや圧迫するほどに重い。
――そのとき。
地平線の彼方に、白い光が灯った。
魔力を帯びて嘶く白き軍馬が、揺るぎない足取りで戦場へ踏み出す。
その背にあるのは、ソフィア・ダグラス・ド・モンドリング。
優雅さと断固たる意志を宿し、槍を構えるその姿は、まさしく支配者のそれだった。
彼女の背後で、レベル92の獅子が咆哮する。
隆起した筋肉、輝く鬣――戦場を統べる“自然の王”の威圧。
兵たちの声が、雪崩のように重なった。
「公爵様だ!」
「ソフィア様が来たぞ!」
「道を開けろ! 開けろ!」
ソフィアのオーラが拡散する。
それは単なる輝きではない。
権威の宣言であり、味方すべてへ響く号令だった。
彼女は片手を掲げ、固有能力を解放する。
――《アルファ同調・群れの絆》。
一瞬で、騎兵と魔獣の力が増幅される。
筋力も、反応も、連携も――すべてが倍化。
咆哮と嘶きが共鳴し、調和した轟音となって戦場を揺らし、
最凶の魔物ですら、たじろいだ。
群れのアルファが子らを導き、
巨躯の爬虫類は一歩ごとに岩と樹を砕き、
巨大な鳥獣は一瞬目を焼くほどのオーラを纏って空を裂く。
魔狼と魔猫は完璧な陣形で疾走し、
亜竜たちは空気を震わせる純粋エネルギーを放つ。
エリート級、上位魔物でさえ後退した。
――ソフィアの“存在”そのものが、戦の法則を歪めていた。
さらにその背後。
中央都市から、ダグラス軍の精鋭が姿を現す。
五千〜七千のロード級戦士が、不壊の陣形で進軍。
三百〜五百のマギステルが雷と炎、そして舞うマナ障壁を同時展開。
そして、ごく少数のチャンピオン――
そのオーラだけで、陽光すら呑み込む存在。
精鋭部隊は致死精度で機動し、
魔導砲撃は丘ごと粉砕し、
デルタおよびイプシロン適性の弓兵が、制御された雷の矢を放つ。
――ほんの数瞬前まで、敗北は確定していた。
だが今。
戦況は、確かに均衡へと引き戻され始めていた。




