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『親密の中でも、人は震える』

太陽が沈みかける頃、ルシアンと英雄たちは、公国近郊の森の一角を進んでいた。

斥候からの報告によれば、悪魔的飽和の影響を受けた下位の変異生物が確認されているという。

灼熱の眼を持つ狼、純粋なエネルギーを散らす角を生やした鹿、そして腐食に引き寄せられた中級レベルの魔物が数体。


任務は明確だった。

これらの存在を排除、もしくは追い払うことで、周辺集落に被害が及ぶ前に芽を摘む。

ルシアンの命を脅かす戦いではないが、民の命を守るためには欠かせない行動だった。


「街に近づかせるわけにはいかないわ」

木々が不自然に軋む音を警戒しながら、エミリーが光の杖を握り直す。

「この魔物たちが、公国を狙う他の群れと合流したら……取り返しがつかない」


ルシアンは無言でうなずき、即座に獣たちへ指示を飛ばした。

サンダーとアンバーは一瞬の遅れもなく応じ、木立の向こうで待機していたラリエットと完璧に連携する。


戦闘は、ほんの数分で終わった。

すべての魔物は迅速に無力化され、英雄たちに傷はない。

森には再び静寂が戻り、そよぐ風と、戦闘の名残である魔力の余韻だけが残った。


キャンプへ戻ると、ルシアンはアデラに迎えられた。

彼女は輝くような笑顔で一歩前に出る。


「お誕生日おめでとうございます、我が主!」

そう言って、丁寧に一礼する。


ルシアンは、ここ数時間で初めて微笑んだ。

その直後に到着したエミリーは、一瞬立ち止まり、はっとした表情を浮かべる。

ここ数日の出来事に追われ、完全に忘れていたのだ。


頬を赤らめ、彼女は小さな声で告げた。

「……お誕生日、おめでとう。ルシアン」


その夜、エミリーは緊張した面持ちで、公爵の天幕を訪れた。


獣たちは外で休み、聞こえるのはキャンプの微かなざわめきだけ。

天幕の内側という閉ざされた空間で、エミリーは深く息を吸った。

何も準備できなかったことを悔やみながらも――もう遅いと悟り、彼女は絶対的な信頼のもと、贈り物を差し出した。

それは形あるもの以上のもの。

彼女自身だった。


そこには、他者の視線も、外的な力も存在しない。

ただ二人の絆と、共有される温もり、そしてこの瞬間が人生を変えるという確信だけがあった。


その夜、ルシアン公爵は誕生日の贈り物を受け取り、

光の英雄エミリーは、自身の人生における新たな章を知ることになる。


迫り来る混沌のただ中で交わされたその親密な時間は、

二人を予想もしなかった形で、そして決定的に結びつけていた。

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