「天上の陰謀」
天界の広間は、目に見える光源のない、淡く神秘的な輝きに満ちていた。
足元に広がる浮遊する大理石は、物質ではなく――神意そのものによって形作られているかのようだった。
聖なる円環の周囲に、四つの存在が立っている。
炎、力、光、そして雷。
それぞれが、自らの神の本質をその身に宿した“神の代行者”――ヘラルドであった。
「始めよう」
静かで揺るぎない声が響いた。
光のヘラルド、セラフォンだった。
「諸都市は、我々の神殿の正式な開放を待っている。
反発が生まれる前に信仰を定着させるなら、迅速に動く必要がある」
「だが、すべての都市が素直に受け入れるとは限らん」
炎を宿す存在、イグニヴァルが低く唸るように言った。
その身体は、抑え込まれた業火のように揺らめいている。
「我々が意志を押し付けていると感じれば、反乱は避けられない。
説得するか……さもなくば、制御不能な炎を生む」
力のヘラルド、タロスが鼻を鳴らした。
「呼ばれた場所に神殿を開くだけだ。
政治も、不満も、俺の知ったことじゃない」
一瞬の沈黙。
セラフォンはその空気を受け止めてから、雷のヘラルドへと視線を向けた。
「ヴォルタリス。状況を」
「注意すべき領域がある」
雷光を纏うヴォルタリスが告げる。
「――ダグラス領だ。
領主への忠誠は絶対的。
闇属性の魔法が、地域全体の七割以上を支配している」
「神殿や、守護の約束だけでは不十分だ。
影でできた壁を、光で照らそうとするようなものだ」
イグニヴァルがゆっくりとうなずく。
「ならば慎重に進むべきだな。
侵略と受け取られれば、抵抗は一気に燃え広がる」
タロスは肩をすくめた。
「必要な場所を言え。
だが、村人を説得する役は勘弁してくれ」
セラフォンの周囲で、光がわずかに張り詰めた。
「もう一つ問題がある。
神託のオラクルが、未だ明確な未来を示さない」
「何かが、視界を遮っている。
道を見ずに進んでいるようなものだ。それは、あまりにも危険だ」
ヴォルタリスのオーラが、嵐の前触れのように震えた。
「記録はすべて調べた。
現在も“歪み”が発生している」
「原因は不明だが、重要な出来事を覆い隠し、予測を狂わせている。
――星のない空を航海しているようなものだ」
イグニヴァルが深く息を吸う。
「ならば、神殿の展開と同時に、その干渉を調査する必要がある。
追跡し……発生源を排除する」
タロスは諦めたように背筋を伸ばした。
「分かった。
場所を指定しろ。必要なら、俺が終わらせる」
セラフォンは強くうなずいた。
「ダグラス領では特に慎重に神殿を開く。
同時に、オラクルを妨げる異常の正体を突き止める」
「その存在の無力化を、最優先とする」
ヴォルタリスが手を伸ばすと、雷光が走り、四者の顔を照らした。
「進もう。
神殿は灯台となる」
「そして、この影に身を潜める者には理解させる。
我らの裁きは――“来る”のではない。落ちるのだ」
タロスは無言で首を縦に振った。
不満はあるが、異論はなかった。
会議は終わった。
天界の光が一瞬、揺らいだ。
まるで、神々自身でさえ――迫り来る運命の重さを感じているかのように。
神殿を開くことは、始まりに過ぎない。
真の試練は、すでに始まっていた。
そして、影の奥で――
誰かが、そのすべてを聞いていた。




