「死とマナの講義」
数日後。
夜は深い影となって森を覆っていた。
ルシアンは木々の間を、音もなく進んでいた。
正確に、冷酷に、無駄なく。
彼の前に倒れる魔物たちは、自分に何が起きたのかを理解することすらできなかった。
闇の魔法が彼の身体を包み込み、姿をほとんど溶かす。
根と葉の隙間を進むその姿は――まるで、ゆっくりと歩く“死”そのものだった。
ガレットは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
腕を組み、口元には誇らしげな笑み。
(――これだ)
感心していたのは、ルシアンの身体能力だけではない。
彼が戦いの最中、常にマナを計算し、
呪文一つ一つを外科医のような正確さで調整している点だった。
「よく見ておけ、ルシアン」
低く、はっきりとした声が木立の間に響く。
「ただ魔物を倒せばいいわけじゃない。
魔法には必ず“代価”がある。
計算せずに撃てば、戦いの半ばでマナ切れだ」
「今夜は――効率を学ばせる」
森が静まり返った。
ルシアンがマナを集中させると、影さえ息を潜めたかのようだった。
ガレットは、茂みの向こうで草を食んでいる巨大な魔鹿を指さす。
「レベル五十。
基礎マナは五百」
「お前のエプシロン適性なら、
一槍あたりの消費は二十一。
それを五回……さらに半減」
ルシアンは一瞬で計算を終えた。
「五十二です」
迷いのない声。
「――必要十分ですね」
虚空から、黒い槍が六本出現した。
魔鹿は顔を上げる間もなく、その場に崩れ落ちた。
ガレットは満足そうにうなずく。
「そうだ。力より、知性だ」
そして、教師としての口調に戻る。
「魔法は“ダメージを与える”ためだけのものじゃない。
“管理する”ためのものだ」
「必要以上に使うな。
すべての呪文に意味を持たせろ。
すべての動きは、考え抜かれたものであれ」
「それが――ただのレギオネールと、
本物のマギステルの違いだ」
ルシアンは一言一句を逃さず、心に刻んでいた。
闇の森。
倒れた魔物たち。
身を包む影。
すべてが、戦略と制御、そして規律を学ぶための“教室”だった。
「覚えておけ」
ガレットの声が、最後に低く響く。
「マナは有限だ。
エプシロン適性があっても、使いすぎれば隙が生まれる」
「真の戦士とは、
魔物を倒す者ではない」
「正確に、無駄なく、冷静に倒す者だ。
――見えぬまま歩く、死のようにな」
ルシアンは深く息を吸った。
体内を流れるマナの感覚が、これまでになく明確だった。
その夜、師の視線の下で――
彼はただ狩りをしていたのではない。
心と魔法、その両方を鍛え、
“戦士”として鍛え直されていたのだ。




