「戦士の戦略(ウォリアー・ストラテジー)」
ルシアンは、光の閃光の合間を縫う影のように、真っ先に動いた。
常人であれば跡形もなく消し飛んでいたであろう攻撃を、彼は本能に近い精度で回避していく。
ノセロンの一撃、一羽ばたき、光の爆発――
すべては起こる前に読み切られ、即座に対応されていた。
一切の攻撃が、彼の身体に触れない。
それは、エルウィンの経験と、ルシアンの肉体が完全に融合した状態だった。
それでも、先ほど犯しかけた小さなミスが、脳裏から消えない。
――どれほど準備していても、人は人間だ。
ノセロンは休みなく攻撃を続けていた。
眩い爆発のたびに、自身のマナを削りながら。
だが、ルシアンは無理に前へ出ない。
獣の動きを「知っている」かのように、光の合間を踊るように移動し、
間合いを保ったまま、正確で無駄のない斬撃を返す。
その目的はただ一つ。
――ノセロンに、光の防壁を維持させ続けること。
エーテリオンの剣は、斬るたびに低く囁き、
光の防御に触れるたび、闇の火花が音を立てて散った。
最初のかすり傷は、極めて小さい。
ルシアンは即座に計算する。
(約四百……いや、三百九十台)
致命傷には程遠い。
だが、それでいい。
二撃目はさらに浅い。
およそ二百二十。
その瞬間、防壁が僅かに揺らいだ。
光が不規則に瞬き、小さな乱れが生じる。
一瞬――
ノセロンの鱗に、これまで見せなかった「疲労」が浮かんだ。
三撃目。
今度は、確実に捉えた。
(……四百十前後)
衝撃が腕に伝わり、ノセロンが怒りの唸り声を上げる。
光のコートは明らかに不安定になり、維持できていない。
――初めて、巨神が「脆さ」を見せた。
ルシアンは、水が岩の間を流れるように、攻防の間を行き来する。
一挙一動はすべて最適化され、
自身のマナ消費と、敵の消耗を正確に把握していた。
これは力比べではない。
完全に計算された戦略戦だ。
エルウィンの記憶――
蓄積された知識、行動パターン、反応速度。
それらが、すべての回避と斬撃に反映されている。
空気は焼けた光と闇の魔力の匂いに満ち、
両者の間の緊張は、肌で感じ取れるほど濃密だった。
ノセロンが咆哮する。
大地が震え、空間すら歪む。
放たれるのは、純粋な光の奔流。
人間なら即死の攻撃が、連続して襲いかかる。
ルシアンは跳び、回り、滑る。
切り裂くような熱が、皮膚すれすれを通過する。
エーテリオンの鎧が放射を吸収し、
内部に宿る闇のマナは、まだ温存されていた。
――その時を待っている。
回避するたび、ノセロンのマナは削られる。
横薙ぎの一閃ごとに、防壁はさらに弱まる。
光のコートは、もはや炎のように揺らぎ、
今にも消えそうだった。
ルシアンは確信する。
(……来たな)
ノセロンは疲弊していた。
力は落ち、防御は崩れ始めている。
谷全体が、戦闘の余波で震え続ける。
一秒一秒が引き伸ばされるように感じられた。
これは戦闘ではない。
マナと意志の決闘だ。
そして――
ついに。
ノセロンのマナが尽きた。
光の防壁が、一瞬だけ瞬き、
そのまま――消失した。
ルシアンは、迷わない。
闇のマナを纏い、跳躍。
身体は、圧縮されたエネルギーそのものとなる。
エーテリオンの剣が、深い闇の輝きを放ち、
一直線に――巨神の心臓へ。
直撃。
(――八百六十五)
凄まじい衝撃と共に、ノセロンを包んでいた光が完全に消え去った。
最後の咆哮が、谷に反響し――
やがて、
すべてが静寂に沈む。
重く、
完全な、
沈黙。




