『王冠の前に立つ英雄たち』
数日後、使命は彼女を神殿の外へと呼び出した。
王宮の大広間は、祈りが捧げられる直前の大聖堂のような静寂に包まれていた。
貴族たちはバルコニーから見下ろし、
将軍たちは背筋を伸ばして立ち、
幾度もの危機に疲れ切った眼差しを湛えたフィリップ・エルクハン王は、玉座に身を預けていた。
そのとき、扉が開かれた。
深紅の絨毯の上を、四つの影が進む。
淡い光の輪をまとったエミリー。
呼吸の奥で炎を震わせるアレハンドロ。
電光のように落ち着きのないレオナルド。
そして、要塞のごとき重みを放つカラ。
その背後に――使徒たち。
彼らは歩いてはいなかった。
まるで、空気そのものに支えられて進んでいるかのようだった。
鎧は光を映さない。
――光を、喰らっていた。
光のヘラルドが一歩前へ出る。
跪きはしない。だが、そこには確かな荘厳さがあった。
「陛下」
その声は広間に響いたのではない。
そこにいる者すべての内側に、直接鳴り渡った。
「神々は、凡なる者たちの叫びを聞き届けられました。
そして、その慈悲により……応えられたのです」
張り詰めた息が、広間を走る。
「だが、英雄は神ではない」
ヘラルドは続けた。
「彼らは神意の具現。
ゆえに……全人類の支えを必要とする」
奥で、聖職者たちが唱和する。
『信仰なき奇跡なし。
結束なき救済なし』
王は敬意をもって頷いた。
「ならば、この王国が彼らを支えよう。
炎、光、力、そして雷に――ここを故郷として与えよう」
完璧な儀式に見えた。
――アレハンドロが、一歩前に出るまでは。
「陛下……」
その声は硬く、鋭かった。
「その“支え”は……
人類に対して残虐行為を働いた者たちにも、及ぶのですか?」
緊張が、錨のように落ちた。
視線が一斉に向けられる。
数人の公爵とともに脇に立つ、ルシアン・ダグラスへと。
彼の手はわずかに震えたが、それでも立ち姿は崩れなかった。
貴族たちがざわめく。
沈黙のまま、成り行きを待つ者もいる。
レオナルドが、さらに一歩踏み出した。
「まだ、血は正義を求めて叫んでいる」
反応が広がる前に、エミリーが口を開いた。
「英雄は……」
その声は、聖職者でさえ驚くほど静かだった。
「過去を裁くために呼ばれたのではありません。
迫り来るものから、皆を守るためにここにいるのです」
アレハンドロは拳を握りしめる。
「君の故郷を滅ぼした者たちも、守るというのか?」
エミリーは視線を逸らさなかった。
「明日のために戦える者なら……私は、誰であろうと守ります」
光のヘラルドは介入しなかった。
だが、その表情の奥で――何かが、張り詰めた。
そのとき、カラが前に出た。
「罪人を探すなら、まずは魔物からだ」
冷ややかに言い放つ。
「戦場で私が見たのは、貴族でも平民でもない。
共に死んでいく、兵士たちだった」
レオナルドは彼女を睨みつけた。
「お前は、ダグラス家に家族を奪われていない」
「ええ」
瞬きひとつせず、カラは答えた。
「だが、憎しみが誰かを守るとは思えない」
ざわめきが広がる。
貴族たちは安堵の息を吐き、
一部の聖職者は、居心地悪そうに視線を逸らした。
雷のヘラルドが、アレハンドロへとわずかに身を寄せる。
視線は向けない。
ただ、その声――嵐の前触れのように静かな響きが、耳元を撫でた。
「英雄よ……正義は、要求するものではない。
世界が受け入れる準備を整えた時、自ら姿を現す」
一拍。
思考の間で、火花が散るような沈黙。
「焦りは、凡人の性だ。
だが、お前は――もはや彼らだけの存在ではない」
そして、ほとんど気づかれぬほど小さな、最後の教え。
「待て。
時を誤って動く者は……一つの戦いに勝ち、戦争に敗れる」
アレハンドロは目を伏せた。
それは服従ではない。
――剣を抜かずして、破壊する術を教えられたのだと、理解したからだ。
彼の瞳の炎は、ほんの一瞬だけ静まった。
レオナルドは頷いた。
だが、その視線はなお、ルシアンに突き刺さったままだった。
広間は再び、荘厳さを取り戻す。
光のヘラルドが、締めくくるように手を上げる。
「本日、英雄は王冠の前に立った。
明日は……世界の前に立つだろう」
四人の英雄は、息を合わせて一礼した。
儀式は、勝利に満ちたものに見えた。
だが、貴族たちが拍手を送るその裏で――
二人の英雄は、すでに影を落とし、
そしてもう二人は……運命に、亀裂を刻んでいた。




