広場での決闘
彼らが馬車へ戻ろうとしたその時、近くで騒ぎが起こり、散歩の静けさが途切れた。叫び声、急ぎ足、そして剣を抜く金属音が空気を震わせる。二人は瞬時に振り向いた。
広場では、小さな群衆が集まり、上品な服を着た一団の周りでざわめいていた。その中央には、若者が簡素な服装で立ち、背後の少女を体で守っている。対するのは、傲慢そうな顔の貴族で、挑戦的に剣を構えていた。
「この卑しい者め!私の名誉を汚したな!決闘を申し込む!」
貴族は叫んだ。
エミリーは眉をひそめた。
「また無意味な争い…」
ルシアンは興味深そうに観察した。
「決闘?ここでやってもいいのか?」と、デュカドの騎士の一人に小声で尋ねた。
騎士は首を横に振る。
「いえ、若き主人様。公開決闘は禁止されています。行うなら、王府の監督下にある小型コロッセオでのみです。」
「小型コロッセオ?」ルシアンは興味をそそられた。
「はい。」
騎士は説明した。「貴族には名誉を守る権利がありますが、王国は不必要な死を防ぐために規則を定めています。すべては宣誓と登録のもとで行われます。」
ルシアンはゆっくりと頷いた。その世界では、暴力でさえもルールに縛られているのだ。
その時、好奇心旺盛な見物人の一人が貴族の名前をつぶやいた。
「バロン・ジョエル・デニス・モフェ…」
ルシアンはその人物をさらに観察した。傲慢で、誰にも逆らわれないことに慣れた男だ。対照的に、挑まれた若者はごく普通の姿で、茶色の髪と暗い瞳、そして働きによって鍛えられた手をしている。二十一歳前後だろうか。背後の少女は震えているが、恐怖と決意が入り混じった目をしていた。
ルシアンは目を細めた。「権力を悪用して卑しい者を辱める…まったく典型的だ。」
群衆は好奇心と興味からざわめきながら前へ進んでいった。ルシアンとエミリーも小型コロッセオへ導かれた。建物は円形の石造りで、威厳こそあるが、壮麗というより古風な趣があった。人々のざわめきは壁に反響し、緊張感と期待感が入り混じってルシアンの眉をひそめさせた。恐怖ではなく、不快な感覚だ。文明の王国で見てはいけないものを見ている気がした。
内部に入ると、コロッセオは思ったより小さかったが、迫力は十分だった。観客席はほぼ満員で、中央の砂の床は決闘者の歩みに舞い上がる粉塵で揺れていた。ルシアンは直感的に、ここは単なる見世物ではなく、名誉、規則、そして血の可能性を含む場だと理解した。
「王命により、」監督官のアラン・ボールドウィンが低く澄んだ声で告げた。「すべての決闘は、王国の定めた条件を満たさねばなりません。」
群衆のざわめきは途端に止まった。全員が騎士の言葉に集中した。
アラン・ボールドウィンは中央に進み、淡い青の光を放つ魔法装置を掲げた。
「王命によれば、決闘前には必ず参加者のランクを確認すること。」
装置は低く唸りながら、参加者のマナ流量を測り始めた。
ルシアンは興味深く観察した。その光景は、デュカド図書館で何夜もかけて学んだ魔法規制の理論を思い起こさせた。
彼は階級制度を熟知していた。
初級者はマナをほとんど使えず
上級者は簡単な呪文を放てるがすぐに疲労する
その上には、世界の流れを変えるほどの力を持つ者がいる
装置が光る。ピッと amber色に点滅した。ルシアンはすぐに理解した。
「エドモン、レベル31。フロー安定、リザーブ十分。」
ボールドウィンは読み上げた。
光がもう一度点滅する。
「ダレン・アクレ、レベル38。マナ密度高く、不純物混入。」
ボールドウィンは視線を上げ、円の中央を見渡す。
「均衡した戦い。どちらもアデプトの範囲内。」
装置は短くピッと鳴る。
「決闘承認。」
ルシアンは心の中で頷いた。ランクは同等。王法はこの戦いを許可する。
しかし、彼の心は落ち着かなかった。自分自身は、アルバートとの修練でアデプトの上限を超えていたからだ。
ルシアンは戦士たちを冷静に観察した。立ち方、力の分配、息づかい。すべてが、剣を扱う技術と、真の制御力の差を示していた。
エミリーは隣で息を止めたように見えた。ルシアンは、彼女を単に視線や暴力から守るだけでなく、真に守りたいと感じた。
決闘の描写
戦いは慎重に始まった。互いに試し合う短い間合い。剣が触れ合うたびに鈍い鐘の音が響き、マナに満ちた空気が震える。
エドモンは火の球を放つが、顔色が変わる。マナが限界ぎりぎりだった。
ダレンは水のバリアで防ぐが、汗と蒸気が立ち上る。
次第にダレンのマナは尽きかけ、オーラは弱まった。ルシアンの目には、二人の戦いは水中で重い葉を動かすように見えた。
エドモンは隙を見て攻撃。火の剣がダレンの胸に貫通し、粉塵と共に静寂が広がった。
アラン・ボールドウィンが声を上げる。
「勝者、エドモン、アデプト級、レベル31!」
群衆は歓声を上げた。ルシアンは、命を奪う瞬間の現実に胃が締め付けられる思いだった。
バロンとの対決
バロン・ジョエル・デニス・モフェは色を失い、膝をついた。
ルシアンは冷静に立つ。彼の目の前に立つ者に許されるものは一つだけ――死。
「私の婚約者に対する無礼は、私が責任を持つ。」
ルシアンの声は穏やかだが、威圧感を伴う。
「決闘でも何でも、構わない。」
沈黙が支配する中、バロンは書類を差し出した。エミリーがそれを受け取り、サマンサに手渡す。
「これで、借金は清算された。」
彼女の言葉で、二つの命が救われた。ルシアンは理解する。力とは、単に暴力だけではなく、慈悲によっても作用するのだと。




