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脈打つ空の下での交渉

交渉用の天幕には、

インクと汗、そして怨嗟の匂いが充満していた。


外では、帝国軍と王国軍が

毒のような沈黙の中で互いを睨み合っている。


内側では、

二人の王が正面から向かい合って座っていた。


皇帝フェルッシ。

威厳に満ち、疲労を隠しきれず、

眉を寄せたまま王冠を戴いている。


そして、

幾月にも及ぶ戦争に鍛えられた男――

フィリップ・エルクハン王。


傷を負った捕食者のような眼差し。


皇帝の右には、

王女ナイラが座っていた。


スカートの上で握り締められた指。

抑えきれない苛立ち。


――勝利は、目前だった。


書記官たちが最後の条項を確認している間、

皇帝が何気ない口調で言った。


だが、その声には

誰もが感じ取る緊張が含まれていた。


「フィリップ王……

私の娘、アレッシアの具合はいかがかな?」


重い沈黙が、

卓上に落ちた。


――王女アレッシア。


同盟を結ぶために王国へ送られた

帝国の側室。


王を魅了し、

帝国の血と王家の血を引く子を産み、

その子に王位を継がせることで

世代を超える戦争を防ぐ――はずだった存在。


だが、その計画は、すでに死んでいる。


エルクハン王は顔を上げた。


剣のように冷たく、

そして誠実な視線で。


「アレッシアは無事です。

ご心配いただき、感謝します――

我が妻のことを。」


皇帝は、

「そうか、そうか」と答え、

一瞬だけ目を閉じた。


――その時だった。


ドン……ドン……ドン……!


最初の衝撃が、

空気を震わせた。


太鼓ではない。

魔獣でもない。

人の魔法でもない。


――マナ。


世界そのもののマナが、鼓動を打っていた。


厚手のカーテンが、

粘性を帯びた風に揺れる。


ナイラは胸を押さえた。


「父上……

感じますか?」


フィリップ王が、

ゆっくりと席を立つ。


「……これは、異常だ。」


それ以上、

誰も言葉を発せなかった。


――三時間後。


帝国の陣営は、

完全な混乱に陥っていた。


血に染まった騎兵。

息も絶え絶えの伝令。

恐慌状態の魔導士たち。


だが――

何より衝撃的だったのは、


ふらつきながら帝国の天幕に入ってきた、

デルタ級の存在だった。


彼はかつて名声ある男だった。

マナ研究の第一人者。


――今は、

今にも死にそうな浮浪者のようにしか見えなかった。


彼は膝から崩れ落ちた。


「わ……我が……陛下……」

荒い息を吐きながら、必死に言葉を紡ぐ。

「こ……この都市だけの問題では……ありません……」


皇帝フェルッシは身を乗り出した。


「話せ。」


魔導士の身体が震えた。

瞳孔は開ききり、

マナの過剰流入によって血管が浮き上がっている。


「至る所で……

同じことが起きています。」


天幕の中に、

凍りつくようなざわめきが走った。


「どういう意味だ?」

フェルッシが問う。


魔導士は唾を飲み込んだ。


「大規模なスタンピード……

魔獣の集団移動……

都市の放棄……

作物の壊滅……」


声が震える。


「マナが、同期した波として増大しています!」


完全な沈黙。


「低マナ地帯は……もはや存在しません、陛下」

彼は続けた。

「マナは……上昇しています。

例外なく、すべての地域で……」


ナイラ王女の顔色が、一気に失われた。


フィリップ王は、

目を細めたまま言葉を失う。


魔導士は涙も出ないまま、

必死に顔を上げた。


「人類がこれほど長く生き延びてこられたのは……

マナの乏しい土地に住んでいたからです。

それが……唯一の優位でした」


恐怖の声が、あちこちから漏れた。


「……でも、もしマナが上昇したら……」

ナイラがかすれた声で呟く。


魔導士が、その先を引き取る。


「魔獣たちは、

森や谷、山に留まる理由を失います。

――都市へ入ってくる。

すべての都市に。」


皇帝は、石のような声で問うた。


「……どれほど深刻だ?」


「陛下……」

魔導士は深く息を吸い、

手の震えを必死に抑えながら言った。

「このまま何も変わらなければ……

十年以内に、強化された首都以外で生き残る人類は存在しません。」


皇帝は、静かに目を閉じた。


――それが、

楽観的な予測であることを、

彼自身が誰よりも理解していたからだ。


今回は、都市が崩壊しているわけではない。

エプシロン級の存在が出現したわけでもない。

世界が完全に混沌に落ちたわけでもない。


だが、

誰もが理解していた。


彼らが今、目にしているのは――


予兆。


空からの警告。


人類を一世代で滅ぼしかねない、

新たな周期の始まり。


皇帝は、交渉の机に両手を置いた。


「世界が……変わり始めている」

緊張を含んだ声で言う。

「そして、我々のどの国も……

それに備えてはいない。」


フィリップ王は彼を見た。


その瞬間、初めて理解した。

国境など――

もはや意味を持たないのだと。


ナイラ王女は、

歯を強く噛み締めた。


「もし、これが始まりなら……」


誰も、答えなかった。


なぜなら、

真実はあまりにも単純だったからだ。


――誰一人、答えを持っていなかった。

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"読んでいただきありがとうございます!コロンビア人ですが、日本のアニメや小説が大好きで頑張って書いています。翻訳ツールを使っての投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。"
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