血とお茶の影
ダグラス家の催す儀式は、その簡潔さで知られていた。
王国の貴族たちは、熱意からではなく義務感から参加する。
公爵家の招待を断る者はいないが、真に楽しむ者もほとんどいなかった。
ダグラス家は尊敬を集める――だが同時に恐怖も与える。
儀式終了から一時間後、ルシアンはエミリーとカーター家の人々に別れを告げていた。
すべては計画通り、問題なく進んだ。
だが心の奥では、軽い疲労が肩にのしかかるのを感じていた。
まだ最後の会談が残っていたのだ。
サングス神殿の個室で、ルシアンを待っていたのはアデライン・アーカン・スタンリー女王、皇太子アンドリュー、第一王女エリザベスだった。
ソフィアとルシアンが入室すると、女王は穏やかな声で命じた。
「全ての使用人は退室なさい」
空気が重く濃くなるのを感じたルシアン。
本能的に、形式に縛られた堅苦しい外交的会話を予想する。
だが、その直後に起きたことは、彼を完全に戸惑わせた。
アデラインとソフィアが抱き合ったのだ。
冷たい形式的な挨拶でも、礼儀的なお辞儀でもない。
長い時間ぶりに再会した旧友のような、温かく誠実な抱擁。
やがて手を絡め、並んで座り、自然に笑い合う――
二人の女性が、束縛する称号を一瞬だけ忘れ、普通の友人として過ごす姿だった。
ルシアンは目を見張った。
母、ダグラス公爵夫人のそんな笑顔は珍しい。
だが、すべてには理由があった。
王国創設以来、王冠とダグラス公爵家には古代の誓約が存在した。
王国の安定を共に守る、神聖な盟約だ。
理論上は聖なる契約。だが実情は変わっていた。
現王フェリペ・アーカン・スタンリーは、知恵よりも怨恨を受け継いでいた。
弟ジェレミー王子は、数名の貴族――その中にはリカード・ジョーンズ子爵も――と共に反乱を起こし、王位を奪おうとした。
内戦を避けるため、当時のダグラス公爵、ルシアンの祖父ダミアンが、摂政アドリアン・アーカン・ブラウン(フェリペの父)の承認のもとジェレミーを処刑した。
それでもフェリペはダグラス家を許さなかった。
以来、王は公爵家との直接交渉を避け、すべてを女王アデラインに任せた。
ローランス・ダグラスも同様に、交渉をソフィアに委ねていた。
つまり、友人同士の会話のように見えたその場は、権力の本当の仲介者二人の会議だったのだ。
ルシアンは思考に没頭しすぎて、誰かが近づくのに気づかなかった。
「お茶はいかが?」
柔らかな声に、彼ははっとして顔を上げる。
そこには王女エリザベスが、優雅にカップを持って立っていた。
金色の髪が肩にかかり、青い瞳が生き生きと輝く。いたずらっぽくもある。
ルシアンは言葉を失った。
エリザベス・アーカン・スタンリー――
ゲームでは「魔王の姫」として知られる存在。
カルトにさらわれ、悪魔的存在の器となった悲劇の王女。
その物語は最も悲しく、同時に人間味があるものだった。
「どうかした?」
エリザベスは楽しげに微笑む。「顔に何かついてる?」
「いえ、殿下」
ルシアンは落ち着きを取り戻す。「少し考え事をしていただけです」
だが、彼女の笑みは狡猾で――危険ですらあった。
しかも、彼女は一人ではない。
部屋の向こう端で、皇太子アンドリューが腕組みし、片眉を上げ、楽しげに見つめている。
明らかに、何かを企んでいる。
エリザベスはため息をつき、手を顔に当てて芝居がかった仕草を見せる。
「ルシアン……婚約者のことを考えてたの?本当に彼女のために私を放っておくつもり?」
反応する暇もなく、アンドリューは大げさに背中を叩く。
「妹を泣かせたのか!まず惚れさせておいて、無視するなんて、なんて酷い男だ、ダグラス!」
ルシアンは理解できず見返す。
本当に彼らはそうしているのか?
頭の中に、オリジナルのルシアンの断片が浮かぶ。
ゲームで、二人の王子がいつもちょっかいを出してきたあの光景。
今、なぜ避けていたのかが分かる。
母を見ると助けはない。
ソフィアは女王と会話に夢中で、目も合わせてくれない。
ため息をつく。
「教えてください、殿下――
私はいつ、あなたを惚れさせたのですか?」
エリザベスは考え込む表情。
「一目惚れよ。私の気持ちを受け止め、責任を取らないつもり?」
ルシアンは目を細める。
「その愛はいつ生まれたのですか?」
「あなたが七歳の時よ」
彼女は断固として答える。「あまりにも可愛くて……その時に恋に落ちたの」
七歳……?
つまり、彼女は九歳だった。
よろしい。
遊ぶつもりなら、彼も心得ている。
柔らかく、意図的に魅惑的な声で答えた。
「なぜ早く言ってくれなかったのです、私の愛しい姫君?
あの日にでも婚約を発表できたのに」
エリザベスは微かに赤面するが、退かない。
「以前は言えなかったけど……ルシアン、あなたが好き」
アンドリューは、まるで公式行為のように手を挙げる。
「未来の王として、この結びつきを正式に承認する」
ルシアンは落ち着いて見返す。
「――耐え難い連中だ」
そして、前世でいつも有効だった手を、思わず取る――
背の高い皇太子のすねを蹴る。
「うっ!」
アンドリューは小さく呻き、痛みに身を折る。
ルシアンは完全無垢な表情でソフィアの横に座る。
女王アデラインと公爵夫人ソフィアは、目にした光景に楽しげに目を合わせる。
女王はくすりと笑い、ソフィアは息子の頬を軽くつねった。
「しっかりしなさい、ルシアン」
と、寛容な微笑みでささやく。
アンドリューは怒りで足をさすり、エリザベスは笑いを隠さない。
「ルシアン、変わったわね、母上」
「そうね、娘よ」
アデラインは穏やかに答える。「もう、かつて苛められていた内気な子ではないわ。ね、アンドリュー?」
皇太子は何か聞き取れない唸り声を漏らす。
二人の女性は、密かな共犯者のように笑う。
小さなダグラスはもはや子供ではなかった。
その夜、ルシアンとソフィアがダグラス邸に戻ると、馬車の静けさは心地よかった。
自室に着くと、ルシアンはベッドに倒れ込み、疲労で意識が薄れる。
政治も、婚約も、神も、忘れた。
ただ一言だけ、口にした。
「……耐え難い」
こうして、笑いと血の秘密、動き始めた運命の中で、
ルシアン・ダグラスの人生は変化の第一歩を踏み出したのだった。




