『もう一夜』
要塞ダーラの内側で、夜明けは光をもたらさなかった。
もたらしたのは――安堵。
そして、信じがたいほどの静寂だった。
一晩中、帝国の太鼓は悪魔の心臓のように鳴り続けていた。
だが今、それは沈黙している。
そして――
ゆっくりと、最初はまるで遠慮がちに……
歓声が、要塞を満たし始めた。
最初は城壁の上の数人の兵士。
次に数十人。
そして数百人。
疲労で掠れ、喉を焼くような、荒々しい咆哮。
「生きてるぞ!」
「俺たちはまだ生きてる!」
「もう一夜だ! もう一夜だ!」
笑い声は神経質で、
喜びというより、今にも泣き出しそうな震えを含んでいた。
それでも――確かに本物だった。
なぜなら、彼らは耐え抜いたからだ。
帝国は退いた。
そして「もう一夜」とは、計画がまだ生きているという意味だった。
貴族たちはすぐに内庭へ集められた。
斥候たちが、誰もが待ち望んでいた報告をもたらす。
「帝国軍は、再編のため二キロ後退しました」
指揮官たちの間を、安堵の吐息が一斉に駆け抜けた。
低く重い声で、エドガルド伯が告げる。
「我々の目的は、ここで勝つことではない。
――足止めすることだ」
誰もが理解していた。
そして、誰もが受け入れていた。
ダーラは、肉と石でできた壁。
犠牲であり、錨であり、障害物。
必要なのは、ただ“十分な時間”耐えること。
その時間の先で、北方――新たな防衛線に、
伝説となる構造物が築かれていた。
王国史上、数世紀で最も野心的な計画。
――アルバテッラ要塞。
より巨大に。
より堅牢に。
これまでのどの王国建築よりも、
多くの魔導遺物を抱えた要塞。
二重の同心城壁。
その間に張り巡らされた秘術の罠。
マナ排出システム。
共鳴障壁。
そして、数百人の魔導士を同時に支えられる魔力核。
さらに、王太子アンドリューはすでに動いていた。
八千の新戦力。
歴戦の傭兵。
若き新兵。
東部戦線を生き延びた古参兵。
王都親衛隊。
すべては、女王アデレインの直命のもとに集められている。
足りないものは、ただ一つ。
――時間。
そしてその時間は、血で買わねばならなかった。
厨房では、大釜が惜しみなく振る舞われていた。
温かいスープ。
パン。
マナに富んだ魔獣の肉。
地獄の只中にある、贅沢。
兵士たちは、それを王宮の宴のように貪った。
「ダグラス公には祭壇を建てるべきだな……」
と、誰かが笑い混じりに言う。
「一晩で、俺たちが一週間で倒したより多くの魔導士を殺したぞ」
「おかげで、俺たちはまだここにいるんだ。くそったれ」
防衛魔導士たちは、毛布の上に倒れ込むように休んでいた。
完全に疲弊している。
夜の間に鼻血を流した者もいれば、
封印を維持しすぎて意識を失った者もいた。
それでも――
ダーラは、まだ立っていた。
だが、兵士たちが勝利を祝う姿を見て、彼らは誇らしげに微笑んでいた。
昨夜の勝利は、単なる軍事的成功ではない。
それは――心理的勝利だった。
帝国が、恐怖を知ったのだ。
この戦争が始まって以来、初めて。
帝国が攻撃したダーラ南区画は、もはや原形をとどめていなかった。
三本の破砕柱が大地を引き裂き、
深い亀裂、ずれ落ちた石材、
いまだ燻り続ける秘術の炎の痕が、無残に残されている。
王国の技師たちは、黙々と被害を測定していた。
「また攻城魔導士を前に出してきたら……落ちるな」
「どれくらい保つ?」と、若い中尉が問う。
「神々が慈悲深ければ……数日だ」
「では、そうでなければ?」
「数時間だな」
帝国の影は、糸一本で吊るされた刃のように、彼らの頭上に垂れ下がっていた。
それでも――
それでもなお。
回廊には笑い声が響き、
兵士たちは誇らしげな手つきで武器を磨き、
魔導士たちはゆっくりとマナを回復させ、
見張りは地平線を、挑むような光を宿した瞳で見据えていた。
なぜなら――
もう一夜、生き延びたこと。
この地で。
このダーラで。
それ自体が、祝うに値する勝利だったからだ。




