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プロローグ ―― 破滅の先触れ

人は言う。神々は人間が最初の息を吸う前に、その運命を書き記すのだと。

起こるべきすべては、天上の石に刻まれているのだと。

だが、その日の夕暮れ――モングルルの森では、神々でさえためらった。


四人の英雄が丘を登っていた。

祝福を受けた鎧は、湿った草原の上で太陽の欠片のように輝いている。

掲げられた剣、確信に満ちた心……そして、恐怖。

その中でエミリーは、確かな足取りで歩いていた。だが、抑えきれぬ震えが彼女の手を揺らしていた。

漆黒の瞳には、恐怖と決意が同時に宿っている。

彼女には、他の誰にも果たせぬ使命があった。

――ルシアン・ダグラス・ド・モンドリングを止めること。

もはや人ではなくなった存在を。


丘の頂にそびえる岩の上で、ルシアンが立ち上がった。

黄金の瞳は熾火のように燃え、黒き外套は悪魔の力を孕んで波打つ。

まるで夜そのものが、彼を抱きしめているかのようだった。

影そのものが弾けるようなルーンが刻まれた両手から、絶対的な力が溢れ出す。

闇のオーラが周囲に広がり、生命は枯れ、葉は軋み、枝は折れた。

小動物たちは、彼が指一本動かす前に逃げ散った。


「――ルシアン!」

エミリーは叫んだ。声の震えを必死に抑えながら。

「神々の光の名のもとに! あなたの支配は、ここで終わる!」


返事はなかった。

ただ、自らの力を知り尽くした悪魔の低い笑い声だけが響く。


大地が震えた。

根が蛇のように地中から這い出し、英雄たちに絡みつく。

ルシアンが両手を掲げると、巨大な影の帳が彼らを包み込み、祝福の光を掻き消した。

英雄たちは次々と膝をつき、身動きが取れなくなる。


引き裂かれるような悲鳴が森に満ちた。

足元の大地は裂け、岩から生まれた奈落が英雄たちを飲み込む。

純粋な闇の奔流が肉体を焼き、力を奪い去った。

森は、脈打つ地獄へと変貌した。


力の英雄カラは、巨大な剣を振るい、根と闇を切り裂きながら突進した。

意志だけで道を切り開こうとするかのように。

一撃一撃が丘を震わせ、動きのすべてが咆哮だった。

だが、その巨力でさえ、すべてを飲み込む闇にはわずかな傷しか残せない。

悲鳴とともに、彼女は闇の触手に引きずられ、叩きつけられ、血を吐いた。


炎の達人アレハンドロは、激しい火炎を放ち、消えゆく運命の灯のように闇を裂いた。

その炎一つ一つが果たされなかった誓いであり、爆発は最後のダグラスの心臓へ近づく一歩だった。

彼の脳裏には、灰と叫びの中で倒れた両親の姿が焼き付いている。

その仇を、今度こそ討つために――

だが、ルシアンの影がすべてを覆った。

反応する間もなく、暗黒の球体が胸を撃ち抜き、炎を封じる。

彼は宙を舞い、地面に叩きつけられた。

アレハンドロは動けず、荒い息をつきながら倒れていた。

その手はまだ熱を帯び、復讐の炎だけが、心の奥で燃え続けていた。


雷の英雄レオナルドは、怒りから生まれた嵐のような電撃を解き放った。

稲妻は天地を貫き、混沌を照らす。

一つ一つの雷には、口にできぬ名が込められていた。

イザベラ。

アーメット家は滅ぼされ、故郷は灰となり、彼女はルシアン――ダグラス家の所有物として奪われた。

正義を求める雷は闇を切り裂いたが、ルシアンの魔力が彼を包み込む。

闇の槍が、容赦なく彼の身体を貫いた。

最後の雷光は砕け散り、森は再び薄闇に沈んだ。


最後に立っていたのは、エミリーだけだった。

仲間たちの犠牲によって得た一瞬の隙を使い、彼女は残された力を集める。

震える腕の間で光が生まれ、凝縮され、悪魔の核へと向けられた。

――かつて人だったものの影が、まだ脈打つ心臓へ。


「ルシアン……私が、あなたを止める!」


世界そのものが、その誓いを聞いたかのように空気が震えた。


悪魔は咆哮した。

その音は木々を裂き、岩を砕き、影は追い詰められた獣のように悲鳴を上げる。

ルシアンは光を払いのけようと手を上げたが、光は退かなかった。

闇が支配していた場所で、それは初めて揺らいだ。


眩い一閃が核を貫いた。

ルシアンは痙攣し、黒き炎のような姿を歪ませる。

黄金の瞳は苦痛と――驚愕に曇った。

一瞬、丘は完全な静寂に包まれ、折れた枝の軋みと、倒れた英雄たちの遠い気配だけが残った。


エミリーは膝をついたが、すぐに立ち上がった。

光は消え、現実の重みが戻ってくる。

彼女は煙と灰の中を駆け、仲間の名を呼びながら、生の兆しを探した。


レオナルドのもとに辿り着いたとき、彼女は立ち止まった。

開かれたその瞳には、もはや雷も嵐も映っていない。

静まり返った胸が、すべてを物語っていた。

彼にとって、戦いは終わっていたのだ。


敗れながらも威厳を失わぬルシアンは、英雄も神々も認めたくなかった真実を悟った。

闇は世界すべてを覆うことができる。

だが――消えることを拒む光の前では、必ず頭を垂れるのだ。


炎と影に染まった空の下、真の終焉が形を取り始める。

ルシアン――かつて人であった悪魔は理解した。

もはや、その運命は自分のものではないことを。


そして、夜が訪れれば、必ず朝は来る。

たとえ、その誕生のために世界が燃え尽きようとも。

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